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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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喫茶店、開店日です!

 変だと気付きながらも、団長様は待ってくれると言った。

 どうなるかもわからない中、それが何よりも心強くて、どうにかしてがんばろうと思える。


「それにしても、団長様ちょっと接触にためらいがなくなってる……ような」


 これもフレイさん同様、飛び降り現場を見たトラウマなのだろうか。


「あ、いや。頭撫でるのは、私好きって言っちゃったし」


 あれはたぶんそのせい。私のこと年下として子ども扱いしているから、団長様はそうするんだってわかってる。たぶん、抱きしめるのもそう。


「うん、子ども扱いだよね?」


 後から恥ずかしくはなるけど、その時は保護者にいてもらえる感が強くて、どうしても浸ってしまいたくなる。

 団長様は他人なのに。


「とりあえずは開店!」


 どうなるにしても、私はこれからも生きていかなくてはならない。

 喫茶店の経営に慣れておけば、万が一にもここを離れてひっそり生きていく時にも、生計を立てる役に立つだろう。

 開店までに私は客席を整えて、台所にしている場所も整理した。


 そして前日はクッキーを沢山焼いておいた。

 初日なのでお客さんの数の予想がつかないので、慌てたりしないようにしたかった。もし少なくても、クッキーは日持ちするので翌日も出すことができる。冷蔵庫で保管して、みんなが出払っている日に一人で食べたりしてもいい。


 あと、件の精霊のおやつも少しつくっておいた。

 前回分は計6個が精霊のおやつになってしまったのだけど、今回は10個追加する。

 みんながいないうちに、色々精霊に質問しておこうと思ってのことだ。


 そうして一晩眠ると、もう開店の日だ。


 開店時間は10時くらいから、と決めていた。

 飲食店のアルバイトはしたことがあっても、経営する側になるのは初めてだ。何もかも一人なのだから、無理をしすぎて迷惑をかけないように、朝は準備のために少し時間がとれるように設定した。


 それに朝から始めても、騎士の人達は朝の方が忙しいので来られないだろう。

 なので会議とかが多い時間あたりから始めて、そちらへの出前を中心に考えて、お昼過ぎからはお店に来る人を待つのだ。


 私はしっかり朝食を食べ、九時にはお店の中に入った。

 店名はあえてつけていない。


【シグル騎士団喫茶店】


 という呼び名にしてあるので、部屋の扉には【喫茶店】とだけ書かれた大きな木札を付けてある。

 その下にには、裏と表に開店中、閉店とそれぞれに書いた札を下げていた。

 お湯の準備まで済ませた上で、いよいよ札を【開店】にひっくり返そうとしたのだけど。


「わ」


 扉を開けたら、もう十五人ほどが待っていてくれた。

 突然お店を始めても驚くだろうから、告知するとは言われていたんだけど、顔見知りぐらいしか来ないと思っていたので、驚いた。


 あ、フレイさんは最初から待機していたので、数に入れていません。もちろん一番最初に席についています。


「開店いたします。いらっしゃいませ!」


 扉を大きく開けてそう言うと、みんなぞろぞろと中に入っていった。


「あ、隊長ずっるい」


 そう言いながら、フレイさんの部下が集まって行った。


「こんにちはユラちゃん」


「ご来店ありがとうございます!」


 声をかけてくれたのは、オルヴェ先生の患者として来ていて、顔見知りになっていた騎士さんだ。

 他の騎士さんはあまり知らないけれど、興味津々でお店の中を見ながら入って来てくれる。


「メニューをご覧になってくださいね!」


 私は予めメニューを置いていて良かったと思いながら、そう言う。

 するとすかさず、あちこちから注文の声が上がった。

 フレイさんの部下はフレイさんと同じもの。普通の紅茶ね。あと塩気のあるクッキーをもう一度食べたいらしいのでこれも。

 顔見知りの騎士さん達も、まずはそれを頼めとフレイさんの部下の騎士に言われて同じものをご注文。それならと、残りの人はオレンジティーを頼んだ。


 私は急いで準備をする。

 持って行く人数でカップを分けて置き、少し時間差を作ってポットにお茶を淹れて行く。

 フレイさんの部下の分、患者さんだった人達の分、そしてオレンジティー組。

 順次お茶を運んで行く。

 慌ててこぼさないように気を付けながら運んだものの、上手く順番に早く配れたようだ。


「あーこのクッキーなんかいいんだよなぁ」


「お、珍しい香りだけど、お茶そのものは甘くないんだな……」


 お茶を飲んだことがない人は、オレンジティーの少し甘い香りと違う味に、少し驚いたようだ。

 でもしっかりと注意して淹れたので、渋いと言う人はいなかった。よし。

 そしてみんな、お茶を飲んだ後に他の人から教えられて、自分の回復量を確認。

 初見の人達はそれに驚き、気を良くして笑顔で席を立つ。


 そうだ、お代をもらわなくては。

 私は声をかけようとしたけれど、その前に、いつの間にか戸口近くに椅子を置いて陣取っていたイーヴァルさんが言った。


「茶の代金を渡してもらいましょう」


 追いはぎみたいに優しくない口調で言われて、やってきた騎士さん達は目を丸くしながらも、イーヴァルさんが差し出した箱に、メニューに書いて置いた料金を支払った。


「ありがとうございました!」


 見送ると、ほっとする。

 本当にお店を始めたんだなぁと実感できて、嬉しかった。


「あ、お会計していただいてありがとうございます」


 イーヴァルさんにお礼を言えば、きりっとした表情で返された。


「初日ですからね。きっちりとここのルールを徹底させておけば、この後に来ようとしている者にも伝達してくれるはずです。秩序のためにもですね、初日だけは様子を見に来た時に代行しますので」


 ようは騎士達が支払わないという事態がないよう、ここの会計はイーヴァルさんが監視しているんだぞと印象付けてくれているようだ。


「はい、おかげで助かりました」


「……団長から助けてやれとお言葉をいただきましたからね」


「団長様が……」


 その後も、お昼時に十人くらいのお客さんが来てくれて、三時過ぎにも八人が来てくれた。

 その間ずっと団長様は顔を見せなかった。

 きっと忙しいのだろうと思う。だけど少し寂しいなと思っていたら、店じまいをする前に来て、お茶を飲んで行ってくれた。


「美味しかった」


 特に変わりはなく、そう感想を言ってくれた団長様にほっとする。


「はい、ありがとうございます」


 そうして開店日は無事に過ぎて行ったのだった。

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