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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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団長様の用事

 階段を登る足音が、うっすらと開けた扉の向こうからした。

 一定の音を刻みながら、二階へと遠ざかって行く。

 貴族の出身なのにもかかわらず、騎士として戦うことが多かったからなのか。どこか足取りにも慎重そうな感じがする。


 たぶん団長様の足音で間違いないのだけど。


「む……」


 足音の特徴覚えてる私って……。なんだかこう、机にがんがん頭をぶつけたくなった。

 いやいや。団長様がこうして夜になるとオルヴェ先生を訪ねてくることが多くて。私もその頃、一人きりで台所のある一階にいたりするから、足音がよく聞こえるっていうだけ。

 だから覚えちゃっただけだから。


 それに他の人のだって覚えてる。オルヴェ先生は足音がけっこう大きい。フレイさんは逆に足音があんまりしなくてどきっとする。

 そんなことを考えるのも、自分から呼び止めるのが久しぶりだからかもしれない。

 しかも団長様、ここ数日はいつもよりオルヴェ先生のところに来るのが、ちょっと間遠になっている。なので私の方も緊張してしまって、足音が気になるんだろうと思う。


 団長様とオルヴェ先生との話は、たいてい短い。用事があると長くなる。

 今日は少し長い方みたいだ。

 私はほんわりしすぎないように。そして団長様がやけに気を抜いた状態になると自分の心臓がもたないので、気力回復の普通の紅茶だけを用意しておく。

 それと今日は、テーブルの上にクッキーを少し。


 やがて階段を降りてくる足音が聞こえ始めた。

 立ち上がって呼び止めようと扉を開けたところで、階段を下り切って、ちょうどこちらへやって来ようとしていた団長様と目が合う。


「あ、お、おばんでございます」


 普通に話せばいいのに、なぜか緊張して変な言い方になってしまった。けれど団長様は落ち着いていた。


「元気そうだな。少し話しても?」


「もちろんです、私の方もお聞きしたいことがあったので、どうぞ」


 渡りに船の団長様の言葉に、いそいそと私は案内する。

 椅子に座った団長様にお茶を出し、私はその向かい側に座った。


「あの、お店で出すものを決めて書いたので、これを見てくださいますか?」


 さっそくメニュー表を団長様に確認してもらうことにした。

 お茶を一口飲んだ団長様は、メニュー表に視線を落とす。


「君以外の人間は、紅茶という飲み物そのものをよく知らないからな。これぐらい出す種類を絞った方がいいだろう。で、菓子がこれか」


 察しのいい団長様は、テーブルの中央に用意したのが試作品だと気づいてくれた。


「あの、甘いのが苦手な方のために、こっちはしょっぱい感じのクッキーにしたので、そっちだけご賞味いただければ!」


 団長様は甘いのが苦手なので、チーズクッキーだけをすすめた。

 そもそも甘いお菓子だけにしなかったのは、団長様のことを思い出して、男性が多い騎士団ならそういう人が多そうだと思ったからだ。

 団長様も甘くないのならと、手を伸ばしてくれた。食べる姿もどこか上品で、だけどあっという間に一個が口の中に消えて行くのは、男性らしいなぁと思わされた。


「悪くない」


 お茶を飲んでから、団長様はそう評価してくれた。よし、これはいける。

 心の中にメモをした上で、別にしていたクッキーをそっと押し、「実は……」と私は話すことにした。


「紅茶ではないんですけれど、茶葉を入れたらアイテムっぽく変化したクッキーがありまして」


「アイテム?」


「その……どうも『精霊のおやつ』らしいんです」


 話したら、団長様がまたかという表情をした。え、どうして?


「なるほどな……君の作る物は常識外のものが多いからな、そんなアイテムもできてしまうんだろう」


 驚くほどすんなりと納得された。

 説明とかしなくていいから楽だけど……微妙な気分になる納得のされ方だった。


「それはもう試したのか?」


 私はうなずいた。


「精霊が食べて……お願いごとを聞いてくれるみたいでした。その、こういうことってあるものなんですか?」


「聞いたことがない」


 団長様はあっさりとそう言った。


「精霊はそもそも、食事を必要としていない」


「ですよね……」


 この世界で二十年生きて来て、食事やおやつがいる精霊なんて話は聞いたことがなかった。


「考えられることとしては、だ。それが君の魔力で出来ているせいだからではないか? 精霊も魔力なら取り込むことはある」


「魔力を接取できるから、おやつ………。私の魔力っておやつなんですか」


 おやつ扱いされる理由はわかった。そもそもゴブリン姿の精霊は、私の魔力が増大したせいで姿が変わったと言っていたので、影響を受けやすいのだろうし。

 ……様々なことを踏まえて、後でまた精霊に使ってみて、お願いを使って回答をもらえないか試してみることにしよう。


「そういえば団長様のお話って何ですか?」


「ああ、なんのことはない。ちょっとじっとしていろ」


 よくわからないながらも、言われた通りに大人しくしていたら、突然団長様が手を伸ばして来て、ぺたんと額に手を当てた。


「あの……これは」


「先日の一件で、お前の魔力が不安定になっていないかが気になった。あの時の渦がお前に吸収されたように見えたからだ。なので確かめている」


 ……まずい。

 団長様の言葉に、私は血の気が引いた。

 実際には団長様が言ったとおりのことが起こった。その後、ゴブリン精霊の姿が変化したから……。もしかすると団長様はそのことも気づいているかもしれない。

 あの大きなゴブリン精霊は見ていないかもしれないし、話は聞こえていなかっただろうけれど。


 もし、私が魔女だってわかったら……。

 怖くて身を縮めるような思いで、でも暴れたら不自然すぎてその手を振り払うこともできない。

 団長様の手を、こんなに恐ろしく思ったのは初めてだった。


「……特に問題ないようだな」


 そう言って離してくれるまで、私は生きた心地がしなかった。しかもおおっぴらに安堵することもできないので、何事もなかったかのように振る舞うしかない。


「大丈夫でしょう? 特に不調はありませんし」


 へらっと笑って見せるが、なんとなく団長様の視線が怖くて顔を見られない。少し目をそらしてしまう。


「だがくれぐれも気を付けるように。変化があればすぐに言え。あと、喫茶店の開店を二日ほど早められるかどうか聞きたい」


「ええと、材料なんかも揃っていますし、問題はありませんが……どうかしましたか?」


「フレイも死霊の出るダンジョンへ向かわせることにした。かなりの人間が出払うので、逆にその日は君の店を休ませてしまうつもりだ」


 え、フレイさんもダンジョン行き?

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