精霊のおやつを実験
フレイさんのトラウマが重かった……。
ほぼ、圧迫面接みたいに言い聞かされ、うなずいてその場を乗り越えた私は、とにかくメニュー表を完成させた。
お店で出すお茶は、いつ誰が飲んでも問題ないもの。
気力が回復できる紅茶。魔力の回復ができるオレンジティー、心が落ち着くハニーティーだけを出すことにする。
お菓子は作ってみたクッキー二種類……。
「いや、たぶん紅茶のせいだよねあれ。紅茶クッキーはやめておこ」
普通の甘いクッキーと、チーズクッキーにする。
「よしよし。だんだん喫茶店ぽくなってきた」
思えば、前世でも自分のお店とか持てたらいいなぁとはちょっと思った。自分のペースで色々なことができるのって、大変だとは思うけど、気が楽だろうなと。
よもやゲームっぽい異世界に来て、それが叶うとは思わなかったけれど。
「しかも所属しているだけで、お給料もらえるし」
最初に提示された期限は半年だったけれど、この調子ではそれ以上にお世話になるだろう。
ゲームのことも魔女らしい自分のことも不安なので、このまま居させてもらえるように、喫茶店に沢山通ってもらえるようにしたいところだ。
「まぁ、その前に考えるべき案件があるわけだけど」
私は袋に入れて机の上に置いたクッキーを見る。
「精霊のおやつ……」
あげると何かが起こるんだと思う。
どうなるかわからないものは、できれば団長様に事前に相談すべきだろう。
でも問題がある。うっかりこれを使ったことで、魔女だなんだという件がバレたりしたら、私、詰む。
「ていうか、どうしたらいいのかわからないかも」
魔女というのは、この世界であまり歓迎される代物ではない。はっきりと悪の存在として使われる呼称だから。
そうだとわかってしまったら、実験のせいだと知っていても忌避する人がいるだろう。
ゲームの進行や精霊のお願いのことも気になるので、できれば理解してくれる人を見つけて、解決していきたいけど……。
「嫌われるの、怖い……」
こればかりは、対人恐怖症だった元々の『ユラ』の性格の名残ばかりじゃない。前世の私だったとしても、これは怖い。
最悪、みんなに遠ざかられてしまった上、王都の研究所とやらに送られてしまう可能性もある。そんなところに行ったら、知り合いでもない人達ばかりだし、きっと仲良くしてくれる人など探せないだろう。
だからまず、精霊に使っても自分の状態がバレないかどうかを知りたい。
なので私は夕方のうちに、精霊のおやつを使用してみることにする。
場所は、住んでいる棟の一階の台所。
ヘルガさん達が帰った後で、ひっそりと実行することにした。
まずはお水をコップに一杯分出してみる。
たまにこれで、水の精霊が現れる。しかし今日は不在のようだ。
次に確実な方法。かまどに火をつける。
薪が燃え始めると、ふわっと現れるのは期待通りの火の精霊。しかもゴブリン姿の精霊だ。
よよいのよいっ、と今日も火の周りで踊っている。
予想なんだけど、たぶんこの精霊のおやつで何か大きなコトを起こせるとしたら、ゴブリン姿の精霊だけじゃないだろうかと思う。
私が大量の魔力を吸収したら、姿が変わったのは彼らだけ。普通の精霊には影響がないのだから。
私は精霊のおやつを、この精霊に使ってみることにした。
使い方は簡単。もちろんステータス画面上でクッキーを選択し、名称の横にでてくる「使用する/しない」のボタンを押すだけ。
本当にゲームっぽい。
「よし!」
ぽちっと指先で触れる。
とたんに、くるっと火の精霊がこっちを振り向いた。
ぴょーんと大きく飛んで、一気に袋から出したクッキーに張り付く。
でもそのままかぶりついたりはしない。「食べて良い?」と言わんばかりに私を見上げて首をかしげた。
うなずくと、クッキーを食べ始める。
……なんだろう、わんこみたい?
自分の胴体ほどはあるクッキーを、かなりのペースで平らげた。……というか、喉ちゃんと通ってるのかな。精霊だから謎な消化の仕方してるのかも。
そして食べきった精霊は言った。
「なにかお願いごとあるの?」
しかもちゃんと声で聞こえた。クッキー食べると、普通に話せるのかな?
「それにしても、お願い……?」
え、クッキーのお礼に叶えてくれるとか!?
そうしたらこれ一つしかない。
「そうだ! 私のことを、精霊のみんなが魔女って呼ばないようにしてほしいの」
今までなかったけど、スキルで『魔女』が表示された以上、何かの拍子に言われかねない。それを止めたい。じゃないと真っ先に団長様にバレちゃうもの!
私のお願いを聞いた精霊は、グッジョブのポーズをとって請け負った。
「おっけー」
そしてどろんと姿を消したのだった。
「……ええと、お願いを聞いたから消えたんだよね?」
そう思うけれど自信は無い。なにせ精霊のことをそんなに良く知らないから。
「仕方ない。あとはクッキーについては団長様に聞くか」
口止めできたと信じて、団長様に精霊のことを尋ねることにしよう。
ただ団長様を、一人で尋ねて行くのは気が引ける。行っても問題ないとはオルヴェ先生に言われているけれど、団長様にメニューの相談とか敷居が高すぎて。
いや、本当のところはちょっと違う。
「あのおでこの件とかが頭にちらつく……」
意識しないようにしてるけど、時々ふっと思い出す。
そのせいで、用事があってものこのこと訪ねて行くのにためらいがある。団長様もあれから何か態度が変わって……ということもないのに、意識しすぎだ。
なので行きにくくて、ついオルヴェ先生の所へ来たついでを狙うことにした。




