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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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お菓子を作ったら……?

 とにかく私は、それから数日は縫い物にいそしんだ。

 あまりに可愛くしすぎると、私の年齢と石のお城、そしてメインのお客さんである騎士さんが来にくいので、綺麗さとすっきりした感じを心掛けて、白と緑とか。青と白とかの色合いで。

 私がちくちくしていることを聞いて、ヘルガさん達も手伝ってくれた上、エプロンまで作ってくれるというサプライズもあった。


 ありがたい……。

 お茶をこぼしても目立たない、騎士団の人達の中に少しは溶け込めそうな藍色のエプロンは、私用だからとレースまで付けてくれていた。

 嬉しいので、白いブラウスとか黒の胴衣とスカートとかを合わせて、ちょっとかっこよさげな感じで着てみたい。


 その後、喫茶店予定の部屋に椅子とテーブル、かまどなんかが設置できたと連絡を受けて、私は喜んで荷物を運んだ。

 お茶とか布ものが多いので軽いのだけど、フレイさんが手伝ってくれたのですぐに終わってしまう。


 時間が空いたら、さっそくお茶菓子を作ってみることにした。

 お菓子を作るために、イーヴァルさんに頼んで石釜も設置してもらっていたのだ。

 鉄板を挟んで下に火を入れて、上に焼きたいものを入れる形式のものだ。

 小麦粉なんかも頼んでおいたものが届いていたので、フレイさん経由でバターを用意してもらい、クッキーを二種類作成する。


 私がなんだかんだと作業をしているせいか、珍しいもの好きな騎士が、部屋をのぞいていくようだ。

 ただ私は台所にした部屋の中にいるので、隣室にいるフレイさんが応対することになっているのだけど。

 扉を開けたままにしているので、フレイさんがやんわり彼らを追い払う声が聞こえる。

 でもクッキーが焼ける匂いがしはじめると、追い払いきれなくなってきたようだ。


「隊長。おやつ作ってるんじゃないですか? この匂い」


「バターの匂い……クッキーですねこれは!」


「やだなー隊長だけ味見させてもらえるんですか? ずるいなー」


 森へ行く時にもお世話になった、フレイさんの部下達がやってきて、そうやってフレイさんをつつき始めた。


「味見するためにここにいるんじゃない。お前たちこそ何をやってるんだ」


「だって今日は巡回もないですから」


「待機の合間にちょっと様子を見に来てもいいじゃないですか」


 じゃれている会話は子供みたいで、思わず笑ってしまいそうになる。

 笑い声をおさえながらかまどの上にオーブン窯を作ってもらった方を見ると、火の精霊の中のゴブリン姿の一体が、オーブンの鉄板の上でふーふーとクッキーに息を吹きかけてる。

 あ、ちょっとヤバイかも。そう思ってとっさに、


「そこまで!」


 ストップですよと言えば、ゴブリン精霊は「オッケー!」とばかりにグッジョブサインを出して姿を消した。

 気を悪くしなかったのは良かったけど、一体何をしたんだろ。ものすごく不安。


「…………」


 焼きあがったお菓子をオーブンから出す。

 ステータス画面を出し、菓子を指さしてみた。


《チーズクッキー:ふつう》


 一種類は大丈夫。普通のクッキーだった。


《紅茶クッキー:ふつう》


《紅茶クッキー:精霊のおやつ》


「おやつ……」


 変化があったのは紅茶を混ぜた甘い方、しかも精霊がふーふーしていた方だけのようだ。


「でも精霊のおやつって何……?」


 とりあえず怪しいお菓子はより分けておく。

 変化がない方は、味見をしてもらうことにして、まだ熱いけれどお皿に盛る。

 声をかけようと隣室を見たら、思った以上に人がいた。10人ぐらいだ。

 フレイさんの周囲に集まっているので、そのテーブルに焼きあがったお菓子を置いた。


「甘いクッキーと、甘くないクッキーです」


 甘いものは、紅茶クッキーにした。私もダダ甘なものが苦手なので、ふんわりとした甘さで抑えている。

 甘くない方は、チーズと胡椒入りの塩味のするクッキーだ。

 これを気に入る人が多かったら、ケークサレなんかを主力にしようと思う。


「どういうものを多く置くかの指標が欲しいので、良かったら食べて感想をいただけますか? あ、まだ熱いので気をつけてください」


 そう言うと、集まっていた騎士達がわっとクッキーに集まった。

 みんな大人とはいえ、食べ物にはつられてしまうのだろうけれど。小学生の集団みたいで微笑ましい。

 たんとおあがり……と言いたいところだけど、味見程度の数しか焼いていないので、あっという間に皿の上は綺麗になってしまった。


「こっちの甘くない方が好みだなぁ」


「俺は甘い方がもっと食べたい」


 意見は真っ二つというところか。同数揃えればいいかな。


「おいしかったよユラさん」


 フレイさんには、片づけをしている時にそうお礼を言われた。


「あ、ありがとうございます! そう言っていただけて嬉しいです。人さまに出すものなので、マズイのは問題ですからね……」


 あははと笑う。

 本当に不評だったらどうしようかと思ったところなので。


「むしろ作っている間もなんかご迷惑をかけているみたいで、何かご用事があれば、扉に鍵をかけてお出かけになっても大丈夫ですよ」


 このままじゃ、お店を始めたら常にフレイさんの行動範囲が狭くなってしまう。

 なにせユラ係フレイさんは、今月中はなるべく午前中に巡回等に出て、午後は城にいるという予定になっているのだ。

 フレイさんは小さくため息をついた。

 拭いたお皿を台に置くと、持っている私の両肩をつかむ。


「いいですかユラさん」


 視線を合わせる様にかがんだフレイさんに、私は何か怒らせたかなと不安になった。つい一歩後ろに引いてしまう。


「私の方が不安なので、定期的にあなたの様子をみられるように団長にお願いしたんです」


「定期的に」


 餌が減ってないかとか、ウサギ小屋を観察しにくるフレイさんを想像してしまった。


「でも、毎日だと大変じゃないですか? 疲れるでしょうし……」


 ウサギだって毎日じゃ、もっしゃもっしゃキャベツの葉を食べる姿しか見られないわけで。私がやってることも大差ないと思う。

 けれどフレイさんは至極真面目な顔で言う。


「飽きたりはしませんよ。むしろ普通にしていてくれれば、私の不安は減るんです。なにせ今までになかったことですからね。保護対象が自分から自殺行為をするなんて。しかも動機がわからない」


 いいですか? と迫られて、私はさらに一歩後ろに下がり、間をつめたフレイさんに肩を掴んで壁に押し付けられるような格好になってしまった。

 説教をされてるので、ときめきとかゼロで、思わず身震いしてしまう。だってやっぱりフレイさん怒ってる!


「あなたが飛び降りた結果、不可思議なことに渦も消えた。だから何かあなたが衝動にかられるようなものがあったんでしょう。でも、せめてあなたは説明すべきでした」


「はい、ごもっともです……」


 正論だけど、説明できないことは世の中に沢山ありまして……。とも言えないので、そんな返事をするしかない。


「本当は、私が見ていない間も何をしているのか不安です。だから私に、鍵をかけろと言うのはやめておいた方がいいですよユラさん。本当に端から端まで行動を管理したくなりますからね?」


 管理!? どういうこと!

 目を丸くした私に、フレイさんは微笑む。


「わかったら、せめて私がいる間は私の自由に監視させておいてください。あなたが常識の範囲内で行動してくれるとわかれば、私も安心して元に戻れるというものですから」


 ね? と言われたけれど。


 ……ようするに、広い公園内に放し飼いの状態から、鍵付きの檻の中に入れられたくないなら、フレイさんを待たせても気にするなってことでしょうか?

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