驚きの事実と身の振り方について
助かったことを知った私は、ふと、肝心なことを目の前の人に言っていないなと思い出す。
「助けて下さって、ありがとうございました」
廃棄処分にされそうになったところを助けてくれたのは、この団長様だ。
なのに私、拝んだり変なことを言ったり失礼しまくっていたんだもの。
一方の団長様は、目を見開いた。直後、ふっと微笑む。
「規律を犯した者を捕まえるのは当然のことだ」
私はその笑顔に、見惚れそうになった。
かっこいい人が、微笑むのって本当にすごい威力なんだな。ほんの一瞬だったので、すぐにまた真面目な表情に戻ってしまったのが、ちょっともったいない。
「ところで君の故郷はどこだ?」
団長様は、私自身のことについて質問を始めた。
「全員が死亡したため、誘拐を行った彼らの正体はまだわかっていない。だが、君に行われた実験はどの国でも禁忌とされるものだ。隠ぺいのために、君もかなり遠い国から拉致していると思う。だから自力で帰るのにもかなり時間がかかると思うが、一応教えてもらいたい」
「はい。カトレスという町です。アーレンダールの北にあって」
「国内か」
団長様の後ろにいた黒髪の人が、眉をひそめた。団長様達もいぶかしむような表情になる。
「え、国内ってなんかダメだった……んですか?」
「いや、他の被害者が全員国外だったと判明しているから、不思議に思っただけだ」
例外がいたら、確かにおかしいなって思ってもしかたない……かも?
「あの、私……家に帰れるのでしょうか」
そもそも、自分が誘拐されてからどれだけの時間が経っているのかわからない。
「あと、実験されたっていうことは、後から変な病気になったりとか、そういうことはありませんか?」
そもそもどういう実験されたわけ?
聞いてみたら、赤髪の男性が言った。
「一応首謀者達は、実験には成功していないと言うし、今のところ影響は出ていないように思うが……しばらく様子は見た方がいいと思う。なにせ君がされた実験というのが、精霊との融合実験だからだ」
「せい……れい……?」
ちょ……待って、人外と融合ってどういうこと!?
禁術とか言ってた意味が、頭の中に浸みこんでいく。恐怖とともに。
転生前の記憶があるとか、そんなのよりずっととんでもない。え、どうしたらいいの!? 私の体って本当に大丈夫!?
呆然とする私に、団長様達が気の毒そうな目を向けてくる。
「精霊だ。君という存在を精霊と混ぜようとしたんだ。通常なら、体が崩れていたり、心がおかしくなってもおかしくない」
答えをくれたのは、赤髪の男の人だ。
「なんでそんな実験を……」
思わず言ってしまったら、団長様が答えをくれた。
「魔女を作ろうとしたと言っていたな。それでできるものかわからんが」
ちょおおおおおお!?
私は叫ばなかった自分を褒めてやりたい。でも目は思いきりかっぴらいた。
魔女を作ろうって、やっぱりまんまゲームの世界じゃないの!
え、私ってラスボス? でもあの敵集団が私を廃棄処分にしたってことは、失敗したんだよね?
ゆえに私は魔女じゃないはず……。そういうことにしよう。心の安寧のためにも。
「……以前と変わったところはないか?」
「あの、目の色が前より赤くなったみたいです」
今の私に起こった変化は瞳だ。前世の話はさすがに伏せておく。
頭がおかしくなったとか言われるのは怖い。今の所、記憶を思い出しただけだし。
それに魔女になったとか疑われるのは嫌だ。
「そうか……。今の所は生きて行くのに支障はなさそうだが、できればこの騎士団にしばらく滞在して、魔法を使える医師の側にいることを勧めたい。我々も助けた以上は責任を持つつもりだし、禁忌の魔法を使った事件だからこそ、君の経過を観察したいという事情もある」
言われてることを飲み込むのに少し時間がかかった。けど、どうやら定期的に診察してあげるから、騎士団で様子をみてはどうだと言われているのはわかった。
「よろしく、お願いします」
魔女にされそうになった自分が、マズイ状態なのはわかった。
これを何とかしない限り、安心して暮らせない。お祖母ちゃんのお店をどうこうする以前の話だ。
だからお医者さん完備の場所に置いてくれるのは、とても助かる。
「誰か、長期で不在になることを知らせる相手はいるか? 犯人たちの記録や自供によると、君は攫われてから10日は経っているはずだ」
「10日ですか」
はて、知らせる相手はどうしよう。
「唯一の家族だった祖母が亡くなったばかりなので、問題は家の管理と荷物ですよね……。そんなすぐに取りに行けないですし」
二人が病気になってから、看病に追われて店は閉めっぱなしだ。おかげで腐るようなものは、私の直近の食料ぐらいのはず。戸締りもして墓地へ行ったし、お店も再開していないから来る人もいないだろうし。
あれ……まさか私、家を放置して失踪したと思われてるかな?
形見を盗まれたりとか……そういうのが一番困るな。わずかばかりだけど、家にお金もおいているし。
考え込んでうつむいていると、急に目の前の団長様が立ち上がった。そして後ろにいた騎士さん達に指示する。
「ヴィルタを出す。フレイ、お前の隊から三人ほど飛行訓練をさせたいやつをついて来させろ」
「え、行くんですか団長?」
フレイと呼ばれた金髪の青年が目を丸くした。
「精霊に関して、万が一の場合に対処できそうなのは、私かオルヴェだけだろう。それにヴィルタならば早い。三時間もあれば行って帰れる」
「それはそうですが……」
二人が何の会話をしているのか、最初よくわからなかった。
でも団長が私に言った言葉でようやく、理解できた。
「お前の故郷へ行く。必要なものだけ持ち出して、知り合いに家の管理を頼んでおけ」
私の家へ連れて行ってくれるんだ!
「は、はい!」
私は立ち上がり、団長様について行った。