予期しない変化
※※※
そこでふいに私は目を開くことができた。
青い空が見える。
もう落ちてはいないけれど。私は渦巻く風の中で黒い枝のようなものに囚われていた。
「何、これ……」
死んではいないみたいだし、痛くもない。
ただ夢の衝撃が強くて、ぼうぜんとしたままどうしていいのかわからない。
と思ったら、横たわっている私のお腹の上に、ひょこっとゴブリン姿の精霊が現れた。
《はい、しんこきゅー》
よくわからないけれど、ぼんやりしながら言われた通りにした。
すると黒い枝がほどけて、私の中に溶けていくように消えた。
とたんに自分の心にあふれる情報にとまどった。
この場所の近くに、導きの樹があること。
その採取や精霊を捕えることを、シグル騎士団の団長に知られたくなかった人々が、精霊を変異させる魔術を使ったこと。
騎士団の警戒ラインをもっと町に近い側にしてしまえば、問題の場所には近づかないだろうという、ただそれだけのために。
導きの樹の精霊は、融合実験のために連れ去られた者と狂わされた者とに別けられた。
「!?」
驚いていると、支えを失ったように私は再び落下した。
「ひゃっ!」
落ちるのはもう嫌だ。そう思ったら落下速度が柔らかくなって、ゆっくりと着地する。
手や頭の後ろに感じるのは、間違いなく地面だ。
土と、草と、落ちていた枝みたいな感触。頭痛い。
起き上ってみると、集落の残骸も吹き飛ばされて吹きさらしになった場所にいた。
「私……無事だった」
ぼうぜんとつぶやいてしまう。
だって、死んでしまったと思った。なにせあんな空高くから落ちたのだ。しかも竜巻に巻き込まれたはず。
「なんで生きてるの……」
《魔力の渦を君が受け入れたから。仲間である僕達にも君を受け止めることができた》
声が聞こえて、ユラは横を見る。
そこに、不可思議な精霊らしきものが立っていた。
大きさはいつもの十倍ぐらいはある。顔はいつものゴブリン精霊。だけどなんか衣装がおかしい。
「ふかふか」
羊のようなもこもこの毛の着ぐるみのようなものを着ていた。なんでだ。
「ゴブリン仮装大会……?」
ツッコミをつぶやくと、少し頭がはっきりしてきた。
あきらかにゴブリン。しかも、一匹のふかふかゴブリンの他は、みんな小さいまま。だけどこっちもふかふかだ。
なんでこんな変化が。
《君が、階段を一つ上る力を手に入れたからだ》
「かいだん?」
しかもこの大きなゴブリン精霊らしきものだけ、なんでか声が聞こえる……!?
「え、私精霊の声が聞こえてる!?」
《まだ話せるのは僕だけだよ。でも君はもっと大きな力を手に入れれば、全ての精霊と話せるだろう。その力は全ての精霊に繋がる。君の仲間である精霊に》
「え、待って。どうしてそんなことに」
《君が眠っている力を呼び起こして、僕達にもそれが流れ込んだから》
「魔力の渦っていうのの影響?」
ゴブリン精霊はうなずく。
《あれは導きの樹の精霊に掛けられていた呪い。この地の力を削ぐもの。それが解放されて、君の中に取り込まれたんだ》
「取り込む……」
《君はようやく『本来の力』を解放できた。どうか、僕達を救って……》
そこでふいに大きなゴブリン精霊は消えた。
代わりに人の声が聞こえる。
「ユラ!!」
叫んだ人が走ってくるのが足音でわかる。
そうして私の側で立ち止まって、膝をついて抱え起こしてくれた。
いつだったかと同じように。
「ユラ、生きているか? 怪我は? 意識は?」
あの時よりも不安そうな表情をした団長様。どうしてだろう。とても悲しそうに見える。
「大丈夫です団長様。私、ちゃんと生きてます」
痛みもないから、怪我もないはず。さっき、ゴブリン姿の大きな精霊が、受け止めたって言っていたけど。そうしたら精霊が助けてくれたのかな。
ぼんやりとかんがえながら答えると、団長様が安堵した表情をしたのに、ぎゅっと私を抱きしめた。
「!!」
「……死なせてしまったかと、思った」
驚いたけれど、考えてみれば目の前で人が飛び降り自殺に等しいことをしたのだ。心配もしただろうし、無事だとわかったらこんな風にもなるだろう。
私の方も、こんなに良かったと思ってくれて嬉しい。
だからそっと、団長様の腕に手を添えたら、その手もぎゅっと握られた。
思わず心臓が強く跳ねる。
……たぶんこれでドキドキしすぎて、私は精霊の言葉が頭からすっとんだんだと思う。
急いで城に連れ帰られた後、一日しっかりと休むことを命じられて、オルヴェ先生にも診察され、翌日になって精霊の言葉を思い出した。
力を手に入れたというのなら、何か変化があったかもしれないと自分のステータスを確認した私は、絶叫しそうになったのだった。
ユラ・セーヴェル/紅茶師
生命力(HP)/魔力(MP)……500/100000
攻撃力………4 魔法攻撃力………… 500
筋力…………4 魔法スキル練度…… 500
速さ…………6 剣技スキル練度…… 0
物理防御……4 魔法適性…………10000
魔法防御……500 精霊適性…………10000
取得能力
紅茶師……スキルレベル11
魔女 ……スキルレベル10
ここで第一部終了です。次から第二部となります!




