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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました

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町でからまれて困ってしまいました

「あ!」


 荷物がそこそこあったせいなのか、私はころんと転がってしまう。

 ひどい、なんてことをするんだと相手を見たら、パッと見は討伐者っぽい剣を持って、よれよれと服を着た男性二人だった。でも防具とかも着てないし、討伐者ではないかな?

 二人組は、あやまるどころか私を見下ろして難癖をつけてきた。


「なんだこいつ、変な格好して。ぶつかったんだから謝れよ!」


「そっちがぶつかったんじゃないですか」


 わざわざ道の反対側からこっちに来たのは見ていたのだ。まさかぶつかりに来るとは思わなかっただけで。

 すると彼らは周囲をとおりかかった人達に言った。


「おいみんな、どっちがぶつかったと思う?」


 すると周囲の人達は、私からさっと目をそらした。


「肉屋のオヤジ、どうだ?」


 と聞かれた肉屋のおじさんは、苦笑いして何も言わない。

 しまった。顔見知りと不審者なら、みんな顔見知りとの関係を悪くしないことを選ぶものだ。特に魔物がいて、あちこちへの行き来にリスクがあるような社会では。


 助けてくれる人がいないとわかると、急に頭から血の気が引く気がした。

 記憶の中の『元のユラ』の部分が怯えて、足から力が抜けそうだった。昔の私は、人の目がとてもとても怖かったから……。


「というわけでだ、ぶつかった詫びにやたら重たそうなその鞄を……」


 ひぃカツアゲだ! こんな真正面からのカツアゲは前世でも経験ないよ!

 鞄の中身を買い直すのは大変。戦闘能力ゼロで戦って勝てるわけもない。

 騒ぎに気づいたのか人が集まってくる。でもみんな見ているだけ。

 こうなったら、持っているお金を渡して解決するしかない。私は怪我をさせられてお茶を作れなくなるのは困るので、交渉しようとしたのだけど。


「その必要はない」


 カツアゲの仕上げの直前に、割り込んできてくれたのは馬に乗った人達。巡回帰りの騎士達……と思ったらフレイさんだ。


「げっ、騎士団……!」


 と言うなり、二人組は一目散に逃げてしまう。素早い。

 わき目もふらぬ逃走に、私の方がびっくりしてしまった。

 呆然と見送っていると、馬を降りたフレイさんが私の側に来てくれる。


「大丈夫かいユラさん」


「フレイさん……あの、ありがとうございます。ええと。よくわかりましたね?」


 私まだ顔半分布で覆ってたのに、とまだぼやーんとしながら思う。


「見覚えのある体格と髪色と頭の形で、すぐにわかったよ」


 と言って、跳ねてしまっていたらしい髪の毛を指先でつつかれる。

 体格……肩幅と背丈かな。


「立てるかい?」


「ええと、はい」


 立つことはできる。でも予想外に足が震えていた。時間が経てば治るだろうけれど、ここに置いて行かれるのは不安だ。とはいえお仕事の邪魔をしてはいけない。

 私はフレイさん達を見送るつもりで、再びお礼を言ってと思ったのだけど。


「ありがとうございま……ひょえっ!」


 有無を言わさず持ち上げられて、馬に乗せられた。


「どうせ城に戻るんだろう? それなら連れて行くよ。ついでにそのおかしな格好の理由を教えてもらいたいな」


 そう言われて、ほっとしてしまう。


「重ね重ね申し訳ないです。実はオルヴェ先生に一人で買い物へ行くのをひどく心配されて……」


「なるほどね。君は戦えないからね。でも先生の心配も最もだったかもしれないな。不運なだけでもあるんだろうけれど」


 確かに、一人で買い物に出てもこんな目にあう確率というのはそこまで高くはないはず。

 おかげで、さっきの男達が戻って来たらと思うと怖い。

 それに何もなくても、じっと見たまま騒動を避けるだけの人の中にいるのも居心地が悪かった。

 今もどういうことだろうと言いたげに、こちらを見ていて……。


 ふと、物言わぬ集団に見つめられて泣き叫ぶ自分の姿が脳裏をよぎった。

 いつの記憶だろう。

 でもそれが記憶なら、自分の姿が見えるのはおかしい……。


「ユラさん?」


 首をかしげていると、フレイさんに声をかけられる。


「怖かったでしょう」


 どうやら私が恐怖でほうけてしまったのだと考えたもよう。優しい人だ。


「あ、はい。一対一ですらなかったですから……。紅茶で武器作れたらこんなことになっても、対処できたんだろうなと思うんですけれど」


 そうしたら怖いと思わなかっただろう。足が震えても戦える方法を持っていたら、きっとああいった状況にも慣れていくはず。最終的に、元のユラの記憶も辛く感じなくなるんじゃないかな。

 なんて考えていたら、フレイさんにやたら笑われた。

 どうしてだ。


「いや、ユラさん面白いよ。本当に楽しいから、ぜひそのままでいて欲しいな」


「はぁ……。たぶん自分を変えるのは難しいと思うので、一生このままかと……」


 あいかわらず、フレイさんは私の変なところがお気に召したままのようだ。

 でも変な人のままだと思いますとしか言いようがない。他人を変えるよりは容易かもしれないけれど、自分を変えるのもけっこう大変だもの。


「そういえば団長も、変な子だと言ってたな」


 その言葉にドキッとする。


「たとえば、どこを……」


 つい聞いてしまうのは、やっぱり気になるからだろうか。


「気になるのかい?」


 するとフレイさんに聞き返された。え、どう答えろと?

 気になるって素直に言うのはちょっと……。だから私はものすごく固い理由をひねり出した。


「あの、やっぱり嫌われたら雇用関係に支障が……と」


 そう言ったら、フレイさんはますます笑ったのだった。

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