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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました
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事件の概要をようやく知りました

 日本で会社員をやっていた頃の私が、時間ができたらやりたいと思っていたゲーム。


「……思い出した」


 私もこの騎士団に入って遊びたかった……そんなことを思ったはず。

 それがシグル騎士団だ。

 プレイヤーは色んな国の騎士団のどれかを選んで、討伐なんかのゲームに参加することになる。最後は魔女を倒すというストーリーが出ていた。


「え、うそ。本当にゲームの世界!?」


 でも思い出してみれば、あの美形さんの鎧とか見覚えがある。


「だとすると……今って、どういう状況なんだろう」


 魔女を倒すストーリーで一度ゲームは終了した。

 運営会社が他の事業で大赤字をだしたらしく、ゲーム部門をよそに買収されるという、世知辛い事情で。

 そんなわけで、ラストは魔女のせいで世界が破壊され、生き残った冒険者たちは、荒廃した世界を立て直すためがんばる……みたいな終わり方だったはず。


 あれ、ちょっと待って。

 ゲームの世界ってことは、ここっていずれ荒廃しちゃう……。NPCや、町の人とかもけっこう死にまくるはず。

 このままだと私も……魔女の話に巻き込まれて、死んじゃうの!?


「いやいやいや」


 待って。まだゲームの世界とは決まっていない。

 頭の中であーだこーだと考えていると、食事に手をつけない私を、ヘルガさんが促して来た。


 一端ゲームのことは置いて置いて、食事に集中する。

 食べ終わると、ヘルガさんが食器を下げた後で団長を呼んでくると言って、部屋を出て行った。


 いよいよ、団長様と対面らしい。

 もしここが前世のゲームと同じ世界なら、団長はあの人だ。

 やがて扉がノックされた。

 最初にヘルガさんが入って、後ろにいる人を紹介される。


「ユラ、こちらが団長のリュシアン・ラーデ・アルヴァイン様よ」


「……」


 ヤバイ。もうゲームと酷似した世界だってことが確定した。

 あの銀髪の美形さんが、団長その人だったんだから。


 団長様は、相変わらず銀の髪が綺麗だ。

 それにしてもゲームの世界だとすると、この美形な団長様は生き残れるものの……団員さんは全滅に近かったはず。


「今度は拝んだりしないんだな」


 ぼんやりと考えごとをしていると、小さな声でつぶやかれて、私は心の中で「ひいっ!」と悲鳴を上げた。

 しまった。あの時の私、頭が混乱して変なことしたんだ。印象最悪じゃない? 取り調べに影響しないかなこれ?

 そう思いながら様子を伺っていたけれど、彼は何事もなかったかのように言った。


「話を聞かせてもらいたい」


 そう言って、リュシアン団長が部屋の中に入って来る。

 続けて他にも男性がどやどやとやってきた。三人なんだけど、でも座ってる身からすると、背の高い人が目の前に並ぶのはなんか怖い。


 ちゃんと話せるようにはなったみたいだけど、生来の引っ込み思案の後遺症のせいか、毛布に隠れたくなってたまらない。

 でも我慢しなきゃ。

 想像通りなら、自分に危害を加えない人達なのだから。失礼な行動になってしまって、嫌われる方が怖い。


 でも、部屋を出て行こうとするヘルガさんに縋るような目を向けてしまう。

 置いて行かないでぇぇぇぇ!

 叫びたかったけれど、でも口には出せなかったし、ヘルガさんも申し訳なさそうに出て行ってしまう。


 すると赤い髪の中年の男性が、一つだけあった椅子を私の正面にくるように引き寄せた。

 そこにリュシアン団長を座らせる。自分は壁際に下がった。


「お前らも少し下がれ。むやみに怯えさせてる」


 まだ若い他の二人に声をかけて、黒髪の神経質そうな青年と、金髪の青年を扉の方へ退かせた。どっちの人もいかついわけじゃないんだけど、視線が冷たくてこわかったので、ほっとする。

 この人……いい人だ。

 女性が怖がっていることに配慮してくれたのだ。視野が広い人なのかも。


 心遣いが嬉しくて小さくお辞儀した。すると赤い髪の男性は、目を瞬いて一瞬だけ笑みを浮かべてくれた。

 落ち着いたところを見計らったように、椅子に座った団長様が話し始める。


「さて、君は自分があそこにいた理由を知っているか?」


 理由。といっても色々あるだろう。


「ほとんどよくわからないです……」


「何も、か?」


「実験をしたらしいことは知っています。あの場所が……というか、たぶんここも、私の故郷ではないだろうことも。それ以外はあまり。目を覚ましたら、失敗作だと言われて、廃棄処分にするからと外へ運ばれたところで、助けていただいたので」


「廃棄処分か……」


 つぶやいた団長様は、一つうなずく。


「ならばこちらでわかっていることを教えよう。君は、故郷から召喚されたようだ」


「召喚!?」


 とんでもない単語が出て来た。

 私、転生どころか召喚されてあの場にいたらしい。どうりで記憶が墓地から途切れているわけだ。


「魔法の実験を行うためだ。そのために奴隷の売買をしたり、近くで人を誘拐するのも足がつくからと、魔法で遠くの国から人を召喚……拉致をしていたらしい」


 うん、なんか実験とか言ってた。


「君の前にも召喚された人物が何人かいたようだ。けれど皆、実験で失敗して死ぬか、思った結果が出なかったので、失敗作として殺されたことがわかっている」


「前に……何人も……」


 なんか、廃棄判定も流れ作業っぽかったなとは思っていた。慣れていたんだ。

 失敗して、廃棄することに。

 そして今まで、自分のことを考えるだけで手一杯だったから、気づかなかったけれど。自分以外にも犠牲者が沢山いて、みんな死んでしまっただなんて想像もしていなかった。

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