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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました

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一人でお買い物してみたら

 その日、私はあんまり眠れなかった。

 衝撃がすごすぎる。


 思い出しては寝台の上を転がり。落ち着いては思い出して頭をかかえ。

 それから手の感触を思い出して自分で触ってみたりして。そんなことをした自分が恥ずかしくなってまた寝台の上を転がる。


 何度も何度も繰り返して、疲れ果ててようやく眠ったみたいだ。

 朝、お城の鐘楼の鐘の音で起きなかった私は、オルヴェ先生に扉を叩かれて覚醒した。


「おいユラ、起きてるか? 体調でも悪いのか?」


「ひいっ、寝過ごしました!」


 体調不良なんて言い訳をしたら、オルヴェ先生にますます心配と手間をかけさせることになる。正直に申告しながら飛び起きた。


「本当に申し訳ありません」


 私が寝過ごしたので、オルヴェ先生は心配して食事を運んでくれたり、お茶を淹れてくれたりしていた。


「まぁ気にするな。昨日もさんざ茶を作ったあげく、団長と話したりして疲れただろ」


「う、うはははい」


 団長とお話、のあたりで私は笑ってごまかした。そのワードは今一番効くんです……。

 とりあえずごまかされてくれたみたいなので、私はせっせとご飯を食べて、町へ出ることにした。

 ばら撒くという手法を使うので、沢山お茶が必要だからだ。ミリオルトの実は今日の巡回当番が多めにとってきてくれるというので、私は茶葉とリンゴとレモンと胡椒を用意する。


 荷物も重くならないので、私は一人で歩いて行くことにした。

 だいぶん騎士団の人とも慣れて来た上、顔見知りも増えたので、オルヴェ先生も門まで真っ直ぐ歩くのは大丈夫だろうと言う。

 昼はそもそも、みんなあちこち巡回に出たり仕事や訓練をしているので、人は少ないことだし。


 何よりこう、一人でぼんやりしたい……。

 でも心配したオルヴェ先生が、門の近くまでは一緒に行くと言い出した。

 いえ、私小さい子供じゃないので、一人でお買い物に行けますよ? と言って好意を断るのも心苦しいので、以前の自分がやっていた、これで人が近づかないよファッションをしていくことにする。

 これを見れば先生も安心! と思ったのだけど。


「……悪目立ちしないか?」


 オルヴェ先生が、完全に不審者を見る目を向けてくる。

 だめですかね? 黒いフード付きのマントを羽織って、口からくびまでも黒い布で覆って顔を隠したのだけど。

 ちなみにこれ、人付き合いが怖かった時期の自分が、買い物のたびにしていた格好だ。


「目立ちますが、話しかけたくない感じになりませんか?」


「確かに怪しすぎて、近寄るのは嫌になるだろうが……」


 怖いじゃなくて嫌なのだそうな。いやいや、それでいいんです。嫌悪感があるものに、人は近づかないわけで。

 それでのそのそ歩く私を、門が見える場所まで送って下さったオルヴェ先生は、終始不安そうな顔をしていた。

 門番の当番の人にもぎょっとされた。


「え……オルヴェ先生のお客さん?」


「あんなの出入りしたことあったっけ?」


 という会話が聞こえた。このままだと帰って来た時に入れてもらえなくなりそうだ。なので名乗って置く。


「すみません、先生のところにお世話になっているユラです。買い物して戻ってくるので、どうか不審者として入城禁止にはしないでください……」


「は!? いや、なんでその格好?」


「子供じゃないので平気なのですが、先生が一人で買い物に行かせるのが不安だったみたいなので。こう、平気そうに見える格好を」


「お、おお……。いやまぁ、なんとなく理解はした」


 そう言って、若い騎士さん二人は私を通してくれた。驚かせてすみません。

 城の周囲はちょっとした崖のある丘になっている。そこをてくてく歩いていく。

 歩きながら思い出してしまうのは、やっぱり昨日のことだ。


「団長様から手を握ってそのまま……だった」


 嫌ではないとはわかったけれど、手を繋いだままだったのはどうしてだろう。ずっとそれを考えてしまう。

 もちろん私も嫌じゃなかった。人のぬくもりは、安心する。


「けど、だれでも同じってわけじゃ……」


 いやいや。握ってみたらわからないかも? そもそも以前の自分、人とあまり話さなかったから、他人と手を握る機会とか少なすぎた。前世は……。


「前世も手を握ってほっこりする人っていたっけ?」


 いなかった気がする。団長様ってこう、特別な感じなの?

 と考えたところで頭をかかえる。


「うわああああああ!」


 ぼかすか自分の頭を叩いて、ふーっと息をつく。

 頭の中で葛藤したまま、現実に帰ってこられなくなってしまう。

 だって前世の私は『女の子の手を握るとか、子ども扱いかその気があるかどっちかのような気がする……』って思うし、この世界で生まれ育ったユラとしての感覚だと『あ・り・え・な・い』の五文字が浮かんでくる。


 人としゃべれない地味で突出した美点があるわけでもない自分が、あんな神様みたいな人に異性として意識されているわけがない。せいぜい死にかけた時に出会ったせいで、面倒をみてやっているぐらいの認識だろうと。

 ただどっちの感覚でも一致することはある。

 お祖母ちゃん子っていう共通点から、たぶん団長様が私に近しい気持ちをもってくれているだろうことだ。


「そうだよね……。お祖母ちゃん子だったんだーなんて話、あのイーヴァルさんにもできないだろうし、フレイさんにも言いにくいだろうし。ぎりぎりオルヴェ先生かな? でも眉目秀麗な団長様がそんな告白、滅多なことじゃ出来ない気がする……」


 そう思うと、切実に仲間が欲しかったのかもしれないと思えて、しんみりした。


 ようやく気持ちが落ち着いたところで、町に到着。

 買い物は背負い袋に入れていけばいいので平気だ。人付き合いが苦手だったぶん、自分で重たいものも持てるようにしていたから。

 ただこの格好はあまりに変だったらしく、お店の人にぎょっとされた。

 せめてと思ってフードをとる。それでも顔を半分かくしていると、目を丸くされることが多かった。


 でも無事に買い物は終了。

 明日にはお茶を作って、他の混乱の精霊も元に戻せるだろう。

 そう思いながら町を出ようとしたところで、人にぶつかられた。

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