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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました

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そしてあなたには心安らぐお茶を 1

 その様子に、信じてくれたかどうか不安になったけれど、


「状態変化ということは、第三者の魔法で変質したのか。精霊融合の術に使われた精霊が、逃げ出した可能性はあるな」


 団長様の言葉に、私はほっとする。信じてくれたみたいだ。もしかすると、世の中には難しい言葉を使う精霊もいるのかもしれない。


「とりあえずこの茶ならば間違いなく効くことがわかった。追い払うよりも確実に、問題が解決できる。よくやった」


 そう言って団長様が私の肩を叩く。

 やりきった。褒められるとぐわっと達成感が湧いて、嬉しくなった。

 さっきまでは完成したものの、本当に効くかわからないとか色々考えてしまって、喜ぶっていうのとはちょっと違う感じになってしまっていたから。


「なんにせよ、この問題は長引くことになるな。精霊を捕まえられるということは、精霊の愛し子が奴らの仲間にいるのだろう」


 そう言って団長様がため息をつく。

 あまりに深く大きなものだったのと、ふと団長様の顔が昨日よりやつれているような気がした。


「お疲れなんですか? なんだか顔がやつれて……」


「大丈夫だ。オルヴェから薬はもらっている」


 団長様の答えに、そういえばしょっちゅうオルヴェ先生の所に来ていることを思い出した。仕事の話だけではないのだろうと思っていたけれど、薬が必要で来ていたのか。


「持病でもおありなんですか?」


「いや、眠りが浅すぎてすぐ起きる」


 それって普通にしていたら、ほとんど毎日熟睡できないってことですよね? すっごく体に悪そう。


「薬も最近効きが悪くなってきてな。やたら熟睡できたのは、お前の茶で眠らされた時ぐらいか」


 そう言って団長様は笑う。


「あれは本当に、効果がわからなかったんですよ……。あ、そうだ。団長様、お茶を飲んでいきませんか? 眠るほどの効果じゃないですけど、お薬の効きが良くなるかもしれません」


 カモミールティーとハチミツを混ぜたお茶でゆったりした気分になったら、さぞかし副交感神経が優位になってお薬も元の効果を発揮するだろう。


「そうだな……もらっていくか」


 団長様がうなずいてくれたので、さっそくお茶の用意をしようと思ったが、その前に一つ頼みごとをした。


「その前にお願いごとがあるんです。もし完璧に元に戻っているのでしたら、先にこの精霊を解放してあげることはできませんか?」


 檻の中でずっと泣いているのはかわいそうだ。

 そう思って言うと、団長様は難しい顔をする。


「……もう少し時間が経たなければ、完全に効いたのかわからないのではないか? 前回の茶では、すぐに戻ったのだろう?」


「ですよね……」


 とはいっても、このまま泣いている精霊を残してお茶を飲んでも落ち着かない気がする。でもそんなものは私のわがままだ。あきらめて部屋を出ようかと思ったその時。

 檻の中にあるお茶から、ひょこっとゴブリン姿の精霊があらわれた。

 そしてわたしに両腕でおおきく○を出してみせる。


「…………?」


「もう大丈夫だと言っているみたいだな」


 団長様の言葉に、私は一度部屋を出ようと思ってしまった画面を呼び出す。確かにゴブリン姿の精霊は、そう言っていた。


《水の精霊:もーだいじょーぶ》


「ですね」


 わざわざ知らせるために出てきてくれたんだろうか。あと水の精霊だったのか。


「それなら解放するか」


 団長様は机に近づき、カップ周辺に見えていた魔法の檻に指先でふれる。それだけで、ほろっと檻は跡形もなく消えてしまった。

 自由になったとわかった導きの樹の精霊は、ハッと周囲を見回したかと思うと姿を消した。

 ほっとしながら団長様にお礼を言う。


「ありがとうございました」


「いや、気にしなくていい」


 そう言ってくれる団長様とともに、私は自室から出た。団長様は一度オルヴェ先生に今あったことを話すのと、薬をもらいに寄った上で来るという。

 先に一階のいつもの部屋へ移動した私は、手早く紅茶を淹れる。


《ハニーカモミールティー:とてもリラックスする。スキル練度+15》


 思った以上によさそうなお茶ができたところで、丁度よく団長様がやってきた。


「どうぞお座り下さい」


 椅子を引いておいた場所にお茶を置くと、団長様は素直にそこに座ってお茶に口をつけてくれる。

 二口ほど飲んだところで、感想を聞いてみた。


「お口に合いましたか?」


 団長様はそれほど甘くない方が好きだろうからと、はちみつは極小にしている。

 一口だけ味見してみて、ほとんど甘くないお茶になっていたのは確認した。

 カモミールの柔らかく甘いリンゴに少し似た花の香りがするお茶は、それだけでも男性は苦手かもしれないと思ったからだ。

 でも、もし疲れているなら、もっと甘くした方がいい。なのでどっちが正解だったか聞いてみたかった。


「十分だ。おいしいと思うよ、ユラ」


 答えた団長様は、ふわっと微笑んだ。声もいつもよりずっと柔らかい。


「わ、ありがとうございます」


 一体どうしたの!? と思ったけど、きっとお茶のせいだと思う。リラックスしたから、こんなにふんわりした表情をしてくれたに違いない。

 考えてみれば、前回ハニーティーを飲んでもらった時だってちょっと様子がおかしかった。いつもより素直過ぎたような……。


 それにしても団長様の笑顔は心臓に悪い。なんだかドキドキしてしまう。前は神様に許されて感動するような気持ちだったけど。今回はなんか違う。


「お前は飲まないのか? ユラは使用人でもないのだから、ずっと飲むのを見守られているというのも居心地が悪い」


「はいわかりました」


 確かに一人だけ飲んでいて、何も飲みもしない人にじーっと様子を観察されるのはうれしくないだろう。それでも気にならないのは、小さな子供だけだと思う。


 私はお茶をカップに入れて、団長様の斜め向かい側に回ろうとした。

 なんかこう、まだ微笑んだままの団長様をまともに見ていられないというか。差し向かいは恥ずかしい気がして。

 なのに団長様が、


「ここでいいだろう」


 なんて言って隣の椅子を引いて下さった。

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