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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました

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団長様のちょっとした変化

「……効果時間まで、持たなかったな」


 あっという間に戻ってしまった混乱の精霊を見て、最初に思いついた言葉がそれだった。

 三時間あったはずなのに、あっという間に戻ってしまった。


「かもしれない、なんて名前のお茶だからかなぁ」


 そう思ったところで、名残がまだそこに存在していることに気づいた。

 精霊が流した涙。

 カツンと音がしていたけれど、机の上に落ちた乳白色の涙は小さな石みたいになって、そのまま消えずにいた。


 なにげなくそれを集めて、手の上に乗せる。

 ささやかな重さの白い石達を見ていると、先ほど泣いていた本来の姿に戻った精霊の姿を思い出す。


「覚醒、したんだよね?」


 尋ねたいけれど、カップに張り付いてきたゴブリン精霊ももういなくなっている。

 でもたぶん、精霊名の表示が変わったので間違いないと思う。

 覚醒してすぐに、自分が宿っていた樹のことを頼むのだから、かなりせっぱつまっていたんだろうと思う。それぐらい、樹が絶えてしまいそうになっているのだろう。


 でもどうして?

 と思ってすぐにいきついたのが、私にほどこされた精霊融合の術にも導きの樹の精霊が使われたのだろうことだ。


「だから私に頼んだのかな」


 同じ精霊の魔力を感じたから。樹を救ってと。


「とりあえず、団長様に話してみるかな」


 樹のありかもわからないし。精霊を救うことなら、団長様の方がよく知っていそうだ。

 なにせ団長様は、精霊を殺すことしかできないと言った時に、とても辛そうな感じがした。

 それに夢うつつの中で……「お前が精霊を消したくないと言ってくれて安心して、寂しくなくなった」と言ってくれた。


「うわああああ」


 思い出すとまたそわそわして、自分の頬を両手で挟み撃ちするように叩く。


「落ち着け私……」


 それから何度か深呼吸して、ようやく平静をとりもどす。本当に団長様は心臓に悪い存在だ。

 まずはカップ二つを片付けよう。

 改めて精霊を一度むりやりミルクティーのカップに入れる。

 すぐに眠ってしまった精霊を取り出し、机の上の、魔法の結界の中に置く。これで完了だ。


 精霊は人と存在が違うので、濡れることもないので心配ないのだ。

 それから台所がある一階に降りたところで、オルヴェ先生を訪ねて来たらしい団長様が、少し後方にいることに気づいた。

 先生の部屋から出て、私の後から階段を降りて来た。


「…………」


 思わず、喉の奥に息が詰まるようなきがする。

 だって団長様と会うのは、例の一件を思い出した後では初めてだ。


「精霊を眠らせていたのか?」


「あの、はい」


「そういえば、精霊を追い払う茶の方はどうだ?」


 進捗について尋ねられた。団長様はとっても普通だ。焦った私がおかしいんじゃないかと思うぐらい。むしろ淡々としているような気さえする。

 私がぼんやりしていた時には、あんなに優しくて……なんだか甘い言葉をかけてくれたのにと、またしても思い出してしまった私はドキドキしてくる。


 どうにか止めなくてはと思い、でも自分の頬を叩くわけにもいかないので、カップを持っていない方の手をぎゅっと握って答えた。


「ええと、研究の方針は決まったような気がします」


「研究か……。飲み物に対してそういう言葉を使うのを聞くと、不思議な気がするな」


 そう言って団長様が微笑む。


「では、何か不足したものがあったり、手助けが必要になったら言うといい。それではな」


 団長様はこれまたあっさり出て行こうとした。


「あ、そうだ相談!」


 後ろ姿を見た瞬間、大事なことを思い出した。


「混乱の精霊が、作ったお茶に触れたことで一瞬だけ覚醒したんです。すぐ戻ってしまったんですけれど、その時のことでご相談が」


 足を止めた団長様は、再び私の前に戻って来てくれる。


「間違いなく、導きの樹の精霊に戻ったんです。それで戻った時に、導きの樹を苗だけでもいいから助けて欲しいと言われまして。私では植生している場所もわからないので、どうしようかと」


「精霊がそんな頼みを?」


「はい。私に頼みたいと言って」


 話を聞いた団長様は、数秒押し黙る。聞いた内容について検討しているのだろう。


「導きの樹の場所は探しておこう。君に頼みたいと言ったんだな? ユラ」


「はい、間違いなく……。でもそこに私がいたからか、私から精霊と同じ魔力を感じたせいじゃないかなと思ったんです」


 考えたままのことを話すと、団長様は「それも後で要確認だな」と言う。

 なるほど、慎重に精霊に再確認をするということですね。


「その時に精霊が泣いていて、涙が小さな石みたいになって残ったんです。それって何かのアイテムだったりしますか?」


 正直、私の素敵ステータス画面では、お茶以外については物の名前しか表示してくれない。精霊の涙は、精霊の涙のままだ。


「涙が残ったのか。あれは精霊の魔力がこもっているものだ」


「魔力が……だから固形に?」


「おそらくな」


 石みたいになって残ったのは、魔力入りだったかららしい。


「お前がもらったものだろうし、何か使うあてがあるなら好きにしたらいいとは思うが。飲めば魔力が増えるはずだ」


「魔力が!」


 そんなアイテムだったとは。涙をのむとか考えもしなかったので驚く。

 さっそくお茶に入れてみようかな。シャンパンに真珠を入れるようなそんな気分で……と思ったら、


「茶に入れるつもりなのだろう?」


 なんて団長様にお見通しとばかりに言われてしまった。


「あ、はい……」


「なんでも茶にすればいいと思っているだろうお前」


 団長様が笑う。その通りだったので、返す言葉もなかったのだけど。


「あまり根を詰めずにやるといい。体のことは気をつけるように」


 そう言って団長様はその場を立ち去る時に、私の頭に手をやりそうになって。


「ああ、子供みたいな扱いをしそうになった。悪い」


 と、ばつのわるい表情に変わった。


「いいえ。子ども扱いされるのは嫌じゃないです」


 むしろお祖母ちゃんと一緒に居た時のことを思い出す……と考えた後で、はっと気づいた。

 あれ? これって団長様に頭撫でてって言ったのと同じじゃない?


 否定しようか、でも意識しすぎかと思って脳内で慌てているうちに、ふわっと横髪を撫でられた。

 はっと顔を上げて団長様を見ると、じっとこちらを見る彼と目が合う。


「嫌じゃないなら良かった」


「はい……」


 思わずそう答えてしまう。嫌では、ない。


「じゃあお休みユラ」


 団長様はそう言って、今度こそ建物から出て行った。

 私は、自分の感覚がなにもかもぼんやりしたような気分になって、少しの間立ち尽くしてしまう。

 嫌ではないのだけど。

 なんとなくさっきの団長様の触れ方が、子供に対するものじゃなかったような気がして、戸惑ったのだった。

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