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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました

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精霊の涙

「操作の効果……」


 思うと実行され、一種類の効果が助長されるというものだけど。


「元のお茶は、ミリオルトの実の覚醒作用が伸びて、カモミールも覚醒の手助けをちょっとするぐらいの効果が見込まれているってことかな」


 でもこれじゃ弱い。


「覚醒の弱ぐらいのお茶を探して導きの樹を混ぜれば、覚醒の強効果があるお茶が作れるんじゃないかな」


 私はむむっと腕を組んで悩む。

 相手の目を覚ますために使えるもの、体に触れさせるのだから、この際味は関係ないと思うので、そこの調和は無視するとして。


「目が覚めそうなものって、ミントとか。ジンジャーも意外に目が冴えるんだよね。シナモンも覚醒作用あるよね。後はすっぱいもの……レモンとか。もう胡椒とか入れちゃう?」


 そこで一度ピンときたのだけど、それはそれでちょっと考えるべき部分がある。

 今日はもう夜遅くなってしまったので、片付けに入る。

 効果を確認するだけなので、ほんの三口分くらいしかそれぞれ作っていないのだけど、何杯か飲んでいたのでちょっとお腹がたぷたぷだ。


 ……さすがに飲むとマズイことになるお茶は口にしなかったのだけど。


「でも一杯紅茶飲める生活って、やっぱり幸せだなぁ」


 前世の会社で疲れ果てた後とか、自分の好みにだけ合わせたものを飲むとやっぱり心がゆったりとした気持ちになれた。

 少しでも気分を上げて眠った方が、睡眠をとってもぐっすり眠れる。時々は紅茶の飲みすぎで寝つきが悪くなったこともあったけれど。


 そうして片づけの途中で、ミルクティーを作る。精霊が暴れてしまわないように、最初に元に戻す効果を確認させてもらうためにも、どうしてもあの精霊には側で留まっていてもらいたいので。

 作業が終わりかけの時、私はカップを一つ見落としていた。


 テーブルの上にヘルガさんが「多く作ったから」と置いて行ってくれたクッキーがあって、虫よけの覆いをしていたその横に置いたから、見逃したのかもしれない。

 でも手を伸ばしたところで、そのカップにゴブリン精霊がくっついていたのが見えた。

 精霊は私に、お茶を飲むような仕草をしてみせる。その時に、ミルクティーを指さした。


「ミルクティーが飲みたいの?」


 聞くと、いやいやと首を横に振る。

 ステータス画面を出してみても、ゴブリンは言葉を発していないようで、


《水の精霊:何かを訴えている》


 としか出てこない。

 ていうか、君は水の精霊だったのか。ゴブリン姿の精霊はみんな似た顔をしているものだから、表示された文字を見ないと何の精霊だか全くわからないのが難点だよね。


 とにかくミルクティーを指さし、ちょっと待ったーと掌を見せて腕を伸ばすジェスチャーをし、自分が張り付いているカップを指さして飲む仕草をする。


「もしかして、ミルクティーの前にこっちを飲ませろってことかな?」


 精霊が張り付いているのは、最初に作った覚醒っぽいお茶(弱)だ。

 私の言葉に、精霊はうんうんとうなずく。

 よくわからないけれど、一定時間だけでもあの精霊を覚醒させてほしいということなのかもしれない。


「わかったよ」


 私が精霊にうなずくと、精霊は安心したように無邪気な笑みを見せた。まぁ、顔はゴブリンなんだけど。慣れたらその微笑みも可愛い気がしてきた。

 約束を果たすため、私は二つのカップを部屋に運ぶ。

 一個のカップには、精霊が張り付いたままだ。


「はーい、お茶の時間ですよー」


 机の上の囚われの精霊に声をかけるけど、こちらの混乱の精霊はあいかわらず「争え」「争わせるためにここから出せ」とばかり言う。

 出したままだったステータス画面に表示される混乱の精霊の言葉を見つつ、私は混乱の精霊が入っていた空のカップに《覚醒っぽいお茶(弱)》を注いでみた。


 とたんにしゃきーんと気を付けの姿勢になった混乱の精霊。

 それから緊張の糸が切れたみたいに、玉ねぎっぽかった頭からふわっとした髪が広がって、花弁みたいだった衣装も軽やかな花弁を重ねたものに変わった。

 そうして面立ちまで吊り目から垂れ目がちなか弱い様子になった精霊……《導きの樹の精霊》は、ぽろりと涙をこぼした。


 精霊の涙は、小さなしずくになって、カップの外へカツンと音を立てて落ちた。

まるで小さな雹みたい。色が乳白色なのは、宿っていた植物と同じ色になるからだろうかと、私はぼんやり考えてしまう。

 涙をいくつもこぼした導きの樹の精霊は、じっと涙でうるんだ目を私に向ける。


 お人形のように可愛い精霊にそんな風にされて、私はちょっとドキッとする。何か悪いことでもしたかな。覚醒させない方が良かったとか言われてしまうんだろうかと、不安になって。

 でも違った。


《導きの樹の精霊:おねがい、たすけて》


「え?」


《導きの樹の精霊:一枝だけでもいいの。まだ生きているうちに、どうかたすけて、わたしたちの命のみなもとを。じゃないとみんな死んじゃう》


 命のみなもと。

 導きの樹の精霊だという彼女達にとって、それは樹そのもののこと?


「え、私が?」


《導きの樹の精霊:あなたにしかできない。だからおねがい……》


 よくわからないけれど、私をご指名らしい。もしかして側にいるからってだけだろうか。

 本当は団長様を呼んできて相談したいけれど、そんな暇があるだろうか。精霊が、だんだん顔が苦しそうな感じになってきた。自分の喉を抑えている。


 枝を助ける。命の源だというのだから、たぶん挿枝的な感じで苗を育てて、樹が存続するようにしてほしいってことではないだろうか。

 だとすれば先に聞くべきことはあれだ。


「やるかどうかはさておき、樹が残っている場所は?」


《導きの樹の精霊:この魔法を解けばわかる……この呪いを……》


「呪いを解くって」


 覚醒させればいいってことかな?

 尋ねようとした時には、導きの樹の精霊の変化は始まっていた。髪がしゅるりと元の玉ねぎ頭状態に戻っていく。服のふんわりとした感じもなくなって。


《混乱の精霊:あらそえ……》


 元に戻ってしまって、私は夢を見せられていた気分になったのだった。

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