覚醒のお茶を作成
「とりあえず、普通に全部混ぜてみようかな」
私は最初に、基本の紅茶用の茶葉三種類と、カモミール、枝をほんの一かけら、そしてミリオルトの実を三粒ほど混ぜてみた。
導きの樹の枝は、薄い石の板が重なるような構造になっていて、それをはがすように分離できるのだ。白く半透明の欠片は、石英みたいで綺麗だ。
すると……。
「お?」
お湯を入れたら、湯気の中からふわっとゴブリン精霊が現れた。
湯気のようなふわふわしたジャンプスーツを着ているような精霊は、くるくると回って踊った上で、パチンとポットに向かって手を叩く。
するとポットから空気の泡が湧いて、パチパチといくつかはじけた。
「一体何のお茶になったんだろ……」
香りはとてもいい。百合の香りはほんのりとだけなのが、ミリオルトの実のブドウらしい香りとカモミールと混ざり合って、柔らかな芳香になっている。
美味しそうというか、これにまだ果物を混ぜたい感じなのだけど。
「はい、画面開いてー」
適当な空間を押す仕草をして、ステータス画面を呼び出す。
ポットを指示してみると、紅茶の名前が現れた。
《覚醒っぽいお茶(弱)。効果時間3時間。狂った精霊を覚醒させられるかもしれない》
「かもしれない? ていうかこの説明ひどくない?」
覚醒っぽいって何。覚醒させられるかもしれないって、ずいぶん曖昧な……。
「あ、でも他のお茶も穏やかな気分になるとか、けっこう曖昧だよね」
考えてみれば、私のお茶っていつもこうだったかもしれない。
覚醒って書いてあるし、精霊限定の効果っぽいので、興味ほんいで一口飲んでみる。
む、なんかパチパチしてるような。あったかいソーダティー? 冷たくないとちょっと微妙。
味はちょっと渋いブドウ入りの紅茶。すごくおいしいってわけではないなこれは。
「にしてもソーダっぽい……まさかこのしゅわしゅわで覚醒させるとか?」
目ざめの一杯を炭酸水にしましょうみたいな、そんなバカな。と思うけれど、ゴブリン精霊とか見ていると、本当にそういうものかもしれないって気がしてきて怖いな。
とにかくこれを強くする方法を知りたい。
分量を変えればいいのか? その前に、一個ずつだとどんな効果があるのか知らないと、混ぜ方が考えつかないかもしれない。
「一個ずつ試してみるか……。それである程度それから二個ずつとか」
全部メモしていけば、この精霊の目を覚まさせるお茶なるものから、変化させたり強くするレシピが作れるかもしれない。
その後他の材料と混ぜて、弱効果を強にする方法を探すのだ。買いすぎた材料の中に、何かあることを祈りながら。
そうして見つけなくてはいけないのは、完全に正常に戻すお茶だ。
作業量は多いけれど、がんばらなければ。
一方で、これだけの作業をしたなら、きっと副産物があると私は考えた。
「レベルアップ……かなりするよねきっと」
紅茶師のスキルが上がれば、何か新しい能力が私につくかもしれない。
前は精霊が見えるようになって、このステータス画面も使えるようになった。何レベルからそうなるのかはわからないけれど、何か紅茶を作るにあたって、有利になる能力が得られるはず。
今のステータスは、紅茶師……スキルレベル7
あれからちまちまと紅茶を作った分で、既に1レベル上がっている。
前は5に上がった時に精霊が見えるようになったんだと思う。教会で登録したのがその頃だから。
ということは、8とか9だと何もないかもしれないけれど、10になれば新しい能力が得られるはず。
私は腕まくりした。
ありったけのカップをテーブルの上に広げて、それでも足りないかもしれないと、オルヴェ先生に頼んで借りる算段をして、まずは何種類かを試すことにした。
まずはお茶の材料にしたものを一種類ずつ。
《カモミールティー:やさしい気持ちになる。スキル練度+10》
これはハニーティーに近い感じだ。方向性が同じなんだろう。
飲んでも今はあんまり効果を感じない。イライラしてる時の方に最適なんだろうなと思う。
《ミリオルトティー:目が覚める(弱)。スキル練度+10》
しゅわしゅわのソーダティーになった。あとすっぱい。これで目を覚まさせるってことなんだと思うけど。確かに眠い気がしてきたんだけど、飲んだらしゃっきりした。効果はよし。
《導きの茶:効果なし。他の種類のお茶の効果を操作する。スキル練度+20》
このお茶が一番意外だった。
効果が全く無い、百合の香りが強いただの紅茶になった。
そのまま飲むには百合の香りが強すぎる……。と思って、なにげなく私は乾燥オレンジとアップルを混ぜてみる。オレンジの強い香りが出てくるのを待ってから、ステータス画面を確認してみる。
《フルーツティーOA1:物理防御+3、魔力の回復+15。スキル練度+20》
「ん?」
前に作ったフルーツティーよりも、魔力の回復だけやたら伸びてる。
「どういうこと?」
とにかく実験だ。導きの枝を使ったお茶に、色々混ぜながら確認していった結果。
「そうか。これを強くしたいって思うと、導きのお茶の『操作』の効果で、そっちだけ効果が増えるんだ」
10個お茶を作ってようやくつきとめたのが、それだった。




