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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました
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見知らぬ場所での起床は二度目になります

 夢の中で、私は変な声を聞いていた。


「こっの子にしよう♪」

「こっの子じゃわからん♪」


「ぼくらの新しい親戚さっ」

「おひとりさまご案内―♪」

「はやくはやく、めをさませっ♪」


 子供が騒いでいるみたい。元気なのはいいけど、耳元はごかんべん願いたい。


「できれば、外で遊ん……で!?」


 起き上りながらそう言ったものの、周囲に子供なんていない。

 そしてまた見知らぬ場所にいた。


 前回目覚めた場所とは違う。

 窓の形は長方形だし、部屋も狭い。なにより寝台は木製で、固めの布かなんかを詰めたマットレスが敷いてある。


 似たようなベッドが他にも三つあったので、病室なのかもしれない。

 とにかくよくわからない理由で殺されそうになったり、という状況からは離れたらしい。


「あー、よかった……」


 命の危険がないことは、いいことだ。正直、思い出すだけで怖くて震えるもの。

 たぶん、あの銀髪の綺麗なお兄さんが助けてくれたんだろうと思う。


「それにしても服……また服……」


 眠っている間に、また着替えさせられていた。

 今度はリボンなんかもついた女性向けらしい白のワンピースと、ドロワーズみたいな膝までのズボン姿だ。

 二度目となると、諦めの気持ちが湧いてくる。気を失っている間のことだから、自分にはどうしようもないし……。


 と思って、そこで前回とは違うことに気づく。

 寝具から、ハーブの香りがする。ラベンダーとセージを合わせたみたいな香り。


「ということは、今度こそ女性が着替えさせてくれた可能性が!」


 だって、私を助けてくれたあの美形な人が、せっせと防虫のためにハーブで部屋やシーツをいぶす姿が想像できない。もしそうだったら、見てみたいけど。

 ……きっと面白いだろうから。


 なんにせよ、今度は女の人がお世話してくれたんじゃない?

 だからさっきも、子供の声がしていたんだと思う。あれは外で遊んでる声が、夢うつつで近くにいると錯覚しただけだろう。


 少し気持ちが明るくなった。裸を見られるなら、同性の方がまだマシだもの。

 男に見られるとか、体型のことを気にする以前に、普通に怖い……。


 あともう一つ、わかったことがある。

 私、もしかして前世を思い出したんじゃない? ということ。


 前回目覚めた後は、とにかく命の危険に気持ちが向いていたから考えてつかなかったんだけど……ここ、ファンタジーな世界だよね?魔法もあるし。


「異世界に生まれ変わったってこと……だよね」


 そんなことをつぶやいていたら、ふいに扉が開いた。


「ひゃっ!」


 前回、突然人が現れて怖いことが起こったのと、元々の引っ込み気質が染みついていたせいか、思わず悲鳴を上げて毛布の中に隠れてしまった。

 でも相手は、気を悪くしなかったようだ。


「あらあら……変な集団に捕まって、怖い思いをしたからかしらねぇ。大丈夫だよ? ここはもうお城の中さ」


 そこそこ年をとった、女性の声だった。

 毛布から顔を出してみると、かっぷくの良い中年女性が部屋に入って来るのが見えた。


 金色に白髪がまじった髪をひっつめにして、草色のスカートに生成りのシャツと、茶色のエプロンを身に着けていた。ぱっと見で、年齢は50代に近いと思う。

 彼女は私を見て、にっこりと微笑む。


「起きたみたいで良かったよ。ゆすっても着替えさせても全然起きなかったからねぇ」


 この言葉で、着替えをしてくれたのは彼女だとわかった。ものすごくほっとした。

 よしお礼を言わなくちゃと、私は気合いを入れる。


 この世界に転生してから、いつも変に緊張してどもってしまって、上手く話せなくて困っているのだ。だから他の人と話すとイライラされがちで……。

 馴染んだお祖母ちゃんのお店なら緊張しないから、お店を手伝って暮らしていたのだけど……。


「あの、ありがとうございます。着替えまでいただいて」


 するっと言葉が口から出て来て、自分でびっくりする。

 あれ。私ってこんなにちゃんとしゃべれた? まるで前世の私みたい……。もしかして、思い出したおかげ?

 目を丸くしている私に、彼女は何も気にしていないように応じてくれる。


「それね。うちの嫁いだ娘が着てたやつなのよ。あなた華奢だから、ちょっとぶかぶかしているけど我慢してちょうだい。ところで名前は?」


「ユラっていいます」


「わたしはヘルガっていうんだ。起きたんなら、まずはそこにある水を飲んで、これに着替えなさい。食事を持って来てあげるからね」


「あ、はい」


 服一式を渡したヘルガさんは、すぐに部屋を出て行ってしまう。


「…………これ、前世を思い出したおかげかな?」


 しみじみ思う。

 元のままじゃ、上手く話せなくてヘルガさんを困らせただろう。

 それにこういうのって最初は我慢してもらえても、すぐに治らないと嫌がられることが多い。


 ……村でも私のコミュ障を説明しても、嫌いなんだと思い込む人が多くて、苦労したんだよね。

 あと、このコミュ障のせいで、お祖母ちゃんがいなくなった後の私は悩んだんだ。一人でちゃんとお店をやっていけるかなって。


 長年の悩みが解消されて、酷い目にあった後だけど気分は上向いた。

 前世さまさまだ。でもこれで治るってことは、幼児期に何か人と上手く話せなくなるような原因でもあったのかな。


 いや、もしかするとあのよくわからない拉致先での、実験とやらのせいかもしれない。

 私は喉が乾いていたので、言われた通り部屋のテーブルの上にあった水を飲んでから、服を見る。

 渡されたのは、生成りのワンピースと上に着る青い胴衣とスカートだ。

 着替えたところで、丁度よくヘルガさんが戻って来た。


「ああ、サイズは合っていたみたいだね」


 ヘルガさんはテーブルに食事を載せた盆を置くと、私に近寄って来る。


「まずは食べなさい。それから、団長様を呼んで来るからね」


「団長様ですか?」


 私は首をかしげる。


「ここはシグル騎士団の本拠地になっているお城だよ」


 羅列された名前に、自分の頭の中の知識が引っ張りだされる。

 シグル騎士団領は、アーレンダール王国の南を守る場所にある。

 そんなことを知っている理由としては、シグル騎士団の設立の逸話が、子供のおとぎ話としても流布しているからだ。


 時の王様が、悪い人に殺されそうになった時に、南のお城に避難した逸話。その時王様を支援した人達が作ったのがシグル騎士団だ。

 それとは別に、何か変な方向での聞き覚えがあるような……。


 あの美形な男性の顔を見た時も、なんだかこんな感覚があった。

 口に出すと、とてもキザったらしい口説き文句みたいな代物になるので、あまり言いたくないんだけど「前に、会ったことがある?」と聞きたいような感じ。

 でも私に、騎士の知り合いなんていない。小さな小間物屋の娘だし。


「いや……」


 むしろ前世だ。ファンタジー世界のものをたくさん見ていたし、騎士だって顔をいっぱい知っている。


 ――エルフィール・オンライン。


 ファンタジーオンラインゲームだ。

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