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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました

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混乱の精霊との交渉

 ため息をついて、団長様が言った。


「茶を飲めと言われて来たんだ、一杯もらおう」


 さすが団長様。乗って下さってありがとうございます。


「どうぞこちらの席に」


 と誘導して、副団長様の正面の椅子を引いた。

 ごめんね副団長様。おもいきり面接状態の席配置だけど、今までにも場数を踏んできたお年だし、大丈夫だよね?


 副団長様、さすがに表情には出していない。私なら絶対頬が引きつる。

 もちろんリュシアン団長様は、お茶を淹れている間に話しかけた。


「こうして会うのは久しぶりだな、ハーラル」


「……左様ですな。アルヴァインの若君」


 あ、やっぱり副団長さんもあんまり冷静じゃなかった。公爵家の人として挨拶しちゃってるよ。何も言わずに会わせたせいで、内心では混乱しているんだろう。

 ちょっと恨み節がでちゃってる。団長様を素直に呼ばないあたりに。

 私のことも、一瞬うらめしそうに見ていた。


 でも団長様がわざわざ森に行かなくても、精霊のことが確認できるようにするためにも、理由をお話しせずにそれを実行するためにも、これしか思いつかなかったんです。

 それに副団長さんの悩みも、早めに解決してあげたかったし。


 ただ混乱の精霊の言葉を聞いてしまった今、ゲームと同じようにするべく誘導していいのかどうか、ちょっと迷う。

 でもお茶を差し出した時、団長様がぽつりと言った。


「精霊につかれていたのか、ハーラル」


 見える団長様には、隠しても仕方ないことだ。


「団長殿が赴任された頃から……」


 ハーラル副団長さんも諦めたのだろう。そう応じた。


「混乱の精霊か。周囲に混乱をもたらすが、その力は元となる精霊の力によるが……」


 そして私の方を見る。


「副団長と会うように仕向けたのは、同じ精霊がゴブリン達の元にもいるからなんだな? ユラ」


「そうです」


 私はうなずく。


「森まで行って確認なさる必要はないかと思い、副団長さんと会っていただくことにしました」


「そしてお前は、ハーラルに混乱の精霊がついていたことを知って……。おそらくは、ハーラルに起きているだろう不都合な件を聞いたから、突然に森へ巡回へ行きたいと言い出したのか」


「全くその通りです」


 説明せずとも、そこまでわかってくれる団長様に恐れ入る。


「納得した。お前がそんな提案をしてくるのはおかしいと思ってはいたが、ハーラルを救うためだったのだな」


 ふっと息をついた団長様だったが、特に怒っている様子はない。むしろ安心したようだ。私が悪いことを考えた可能性も、一応考慮していたのかもしれない。


「そ、それで……この精霊を、わしから離していただけませぬか」


 そこで副団長さんが、自ら話を切り出した。


「今まで、黙っていたことは謝罪申し上げる。精霊の愛し子、教会と公爵家という権威を持つ貴殿が団長に就任されたというのに、それを支えるべき自分が、精霊によって周囲に騒乱をもたらしているとなれば、騎士団の評判も地に落ちまする。方々からも、国王候補とも噂される団長殿の顔に泥を塗るなという警告も来ており……」


「いらん」


 珍しく、団長様が厳しい声を出した。

 じわりと滲む怒りの感情に、私は思わず背筋をのばしてしまった。


「私に配慮する必要などない。そして国王候補などという世迷い事は信じるな。追って何らかの対処は、私が個人的にしておく」


「は……承知いたしました」


 副団長さんも、緊張した様子で短く返事をする。

 団長様、国王候補って言われるのがものすごく嫌なんだろうな……。でも団長様がどうして国王候補なんて言われるのかわからない。


 今は公爵家当主なんだっけ。伯父である国王との仲は良好。だけど伯父さんには子供がいるのに。

 でもそんなこと聞ける雰囲気じゃないよな……と思って、私は口をつぐむ。怒られたくないですから。


「とにかくその精霊だな」


「元は何の精霊だったかって、魔法か何かで調べるんですか?」


「魔法……ではあるか」


 そう言って団長様は立ち上がる。でもそこで、ちょっと私のことが気になったらしい。


「ユラはあまり見ない方がいいかもしれないが……」


「え、怖いことですか?」


「ある意味拷問だな」


 さらっと言われた言葉に身震いして、混乱の精霊に注目してしまった。

 混乱の精霊の方も何かを感じたんだろう。逃げ出しそうな雰囲気で周囲を見回したものの、団長様の一言で動きが止まった。


「仮の名前を与える、フロース。この場にお前を留める」


 さらに指で手招けば、精霊は嫌がりながらも絡んだ糸を引っ張られるように、団長様の前に移動していく。

 私は迷った。団長様が精霊をこんな風に、強制的に動かせるとは思わなかったから。


 拷問だなんてできるのかという疑惑が、確信に変わって、恐怖が増した。

 でも見届けたいと思う。

 何よりゲームとの違いを知りたい。


 だから震える手で、画面を表示した。精霊の悲鳴が文字として書きこまれることを覚悟して。

 団長様の前に引き寄せられた混乱の精霊は、目がつり上がっていた。


《混乱の精霊:離せ……人はどこまで奪えば……》


「お前が何の精霊なのかを明かせ」


《混乱の精霊:ゆるさない……》


 団長様の呼びかけを、混乱の精霊は無視した。すると団長様の方も、無視して淡々とことを進めることにしたようだ。


「フロースから水の気を削除」


 団長様がそう言うと、その手からふわりと白い風が舞い上がり、混乱の精霊を取り囲む。

 次いで、無数のガラスが打ち合わされるような音がいくつも重なった後、混乱の精霊の周囲に、青いキラキラとしたエフェクトが散った。

 精霊はとたんに苦しみ出す。


《混乱の精霊:乾く……嫌、ゆるさない……》


《火の精霊:ねぇ、はなしちゃいなよ……いたいのよ……?》


 合間に、近くにいた火の精霊の言葉が表示される。

 心が痛い。でも普通に対応しても、混乱の精霊は話してくれそうにない。


「早く自分の正体を明かせフロース」


《混乱の精霊:ゆるさない……人……ふみつけて……》


 そこで混乱の精霊が何かをしようとしたんだろう。ぱちぱちと周囲で空気が弾けて、妙に甘い香りが漂う。


「二人とも吸うな」


 そう言って、ふいに団長様が精霊をひっつかんだ。


「!?」


 じたばたと暴れる精霊。

 そして私は、掴めることに驚いた末に……急いでポットに残ったお茶をカップに移し、ハチミツを混ぜて団長様に差し出した。


「こ、ここに入れてみてください!」


 もしかしてと思って、試してもらう。

 団長様はそんな私の言葉通りにしてくれた。

 すると膝までしか紅茶に浸からなかったというのに、精霊の様子が変わる。


《混乱の精霊:うににー。もうやーなのよ。かんべんしてよー》


 少し穏やかになったんじゃない? 紅茶って精霊に効くんだ!


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