副団長さんとお茶会をしましょう
しかし団長様は、私を子供だとでも思っているのだろうか……。
まるきりぐずる子供を抑えて、言い聞かせる態勢だったけど、でも。
大人にそれをしちゃいけませんよ団長様。
「思い出しちゃだめ、思い出しちゃだめ」
動悸が起きて挙動不審になってしまう。忘れよう。
そう言い聞かせて、私はかまどの様子をみながらお湯を沸かす。もうお茶の用意はしているのだ。
私は副団長さんと団長様の話し合いの場をこっそり作れたのだから。
やったね! クエストはクリアだよ!
「まぁ、原因はまだ解決していないんだけど」
私はため息をつく。
よもや『副団長さんにくっついた精霊を遠ざけよう』なんてクエストの原因が、こんなことだとは……。
でも、ゲームとしてプレイヤーが沢山いる状態なら、魔物が沢山うろついていてもいい。じゃないと魔物が出なくなって、レベル上げできないもの。ゲームの時は、そうして問題が問題として認識されなかったんだとしたら……?
「いやいやいや。ゲームとは違うんだし」
そう、今私達は生きているし、ゲームとはやや違う状況を体験している。だからゲーム通りじゃないけれど……。
とにかく今は、副団長さんのことだ。
私が城に戻った後、副団長さんのお世話をしている見習い騎士さんがこっそりとやってきた。そうして差し出された手紙には、今日の話を聞きたい旨が書いてあった。
だから私は、夕食直後の時間を指定しておいた。
一階の台所がある部屋で待っていると、こそこそと副団長さんがやってくる。
「そ……それで首尾はどうだった?」
ある程度報告を耳にはしているんだろう、やや嬉し気に副団長さんが尋ねてくる。
そんな副団長さんにまず席についてもらい、私は話し始めた。
「私が行っても、ゴブリンの襲撃がありました。間違いなく、副団長様の精霊が誘発したわけではないと確認がとれました」
副団長さんは改めて私の口から否定の言葉が聞けたせいなのか、安心したように長いため息をついた。
「はああぁぁぁ。本当にこれで、安心できる……」
「なので副団長さん。リュシアン団長様にお会いして、まずは日常生活でも不都合を感じていらっしゃるその精霊のことを、追い払ってもらいませんか?」
そう誘導すると、副団長さんはゆっくりうなずいた。
「そうだな……。騎士団にわしが問題を起こしていないのなら、そう頼めるだろう」
しかし、と懸念を口にする。
「ずっと団長殿の頼みを拒否していたのだ。今さらどういったものか……」
「心配には及びません。団長様もわかってくださいますよ。とりあえずお茶はいかがですか? 前回みたいに、筋力が増強されたりするものではないので、精霊も悪さをしにくいと思うのです。できれば試して下さる人が沢山ほしかったので、飲んでいただけると有り難いのですが」
そう言って私は、紅茶にハチミツを一匙入れたハニーティーを淹れて、差し出した。
団長様が来るまでの足止め作戦だ。ついでにリラックスしてもらいたい。
「……そうだな。わかった」
副団長さんは、素直にお茶を飲んでくれた。
その肩に乗った混乱の精霊は、こころなしかむっとしている。
たぶん、心穏やかになるお茶ではいたずらをしようにも、できないのかもしれない。ということは、元々のお茶の効力を強めたり弱めたりするぐらいしかできない?
元々副団長さんにしていた嫌がらせも、つまづくとかその程度のことだったし。
髪の毛は……うん、年齢のこともあるからほら、精霊が一本ぐらい増減してもあまり大差ないのかなって。
そんなことを考えていたら、ふっと視線を感じた。
火を起こしたままのかまどの中から、ゴブリン姿の精霊が顔をのぞかせている。
じっとこちらを観察するように。
何か気になるものでもあるかな。それとも……と、私はふと想像する。
精霊がどうなるかを観察しているのかな? この間は、トカゲ姿の火の精霊と踊っていたし、他の精霊のことが気になるのかもしれない。
同じ種族だもんね。
とそう考えて、私は気づく。
もしかして、団長様に消滅させたとしたら、この精霊は悲しむのかな。自分の仲間を消滅させられた時、泣かれたらどうしよう。
……どうにかする方法って、追い払うような形で遠ざけるしかないんだろうか。
私はステータス画面を開いてみた。
火の精霊は無言。
混乱の精霊は、じっとお茶を見つめていたかと思うと、火の精霊を見る。
《混乱の精霊:なぜ恨まない……なぜ争わせない……》
ふしぎな言葉が表示される。
どういうこと?
火の精霊が何て返すのかとおもいきや、
《火の精霊:ふぁいあー?》
ずっこけそうになった。ちょ、火の精霊さん! そのノリ嫌いじゃないけど! ちょっと可愛いなと思ったけど!
混乱の精霊とテンション違いすぎて、私の方が混乱しそうだよ。
しかし混乱の精霊の方は、全く意に介していなかった。スルー力高い。
《混乱の精霊:恨みを返そうとは思わないのか。救われない悲しみを》
《火の精霊:むー》
混乱の精霊の努力(?)が実ったのか、火の精霊はちょっと考え込む。でも何かの答えは見つからない模様。
《混乱の精霊:もう戻れない……壊すしか……》
でも少しわかった。
混乱の精霊は、元に戻りたいんだ。でも何が原因でそうなったのだろう。想像もつかなくてもどかしい。
と、そこで部屋の扉が開いた。
「ユラはいる……な」
呼んでいた団長様が到着したのだ。
副団長さんはぎょっとして椅子から飛び上がりそうになった。穏やかになるお茶を投下してもこうなるとは……。
もちろん、話していなかった団長様もびっくりして目を見開く。
そして二人して一斉に私を見た。
「お前、これは!?」
「ユラ、どういうことだ?」
そう言われると思っておりました。なので返事は用意してあります。
「お茶会にお呼びしたんですよ、お二人ともを」
笑って見せると、なぜか団長様が苦笑いする表情になった。
私がやらかそうとしているのはこれだったのだと、わかったからだろう。
言えなかったのは申し訳ないですが、たぶんどちらの願いもこれで叶うわけで。許して下さると嬉しいです。




