初めての戦闘が終了しました
「精霊って……ゴブリン倒せるの……?」
今、私は新事実に直面した。
木の精霊、おそらくは木に宿って成長を促すとかそういう精霊だと思うのだけど。人畜にも魔物にも無害っぽい彼らが、ゴブリンを倒したのだ。
その衝撃に、ゴブリンには精霊が見えることに対する驚きもふっとんだ。
しかもうっかりつぶやいた声が、ゴブリンたちに聞こえたようだ。
《ゴブリン:誰だ今の声は!?》
《ゴブリン:精霊にゴブリンを倒せとか言っていなかったか?》
《ゴブリン:くそう、精霊を操っている奴がいる!》
なぜか私、精霊を操ってゴブリンを攻撃させたことにされているもよう。
……まぁ、いいか。おかげでゴブリンが混乱して、ヤーンさんがさらに一匹を仕留められたし。
でも木の精霊達もそれで疲れきってしまったようだ。小さいからかな?
《木の精霊:うあー、まだてきがいる》
《木の精霊:HPののこりがふあんだよ》
《木の精霊:どうしよう》
ここで私、ちょっと変な気持ちになる。
どこかで見たことがあるような無いような。既視感があった。
なんだろうこれ……と思っていたその時、あの人が現れた。
風のように走り込んできて、一瞬で後方のゴブリン二匹を葬り去る。
そうして最後の一匹が振り返った瞬間、彼の持つ剣がその胴を薙ぎ払い、けれど血が出たと思った瞬間には、黒い光になって空気に溶けるように消える。
ゴブリンたちが居たことを示すのは、体と一緒に光に変わらなかった、獣の皮や服、錆びた剣や斧だけだ。
「間に合って良かった」
そう言って微笑んだのは、金の髪のフレイさんだ。
イーヴァルさんよりも先に戻って来るとは意外だった。
「隊長!」
ヤーンさんがほっとした表情で言うと、フレイさんは彼の肩をねぎらうように叩いた。
「まだゴブリンが残っていて良かった。これだけ数がいると、倒しがいがあっていい」
爽やかな笑みを浮かべたまま、そんなことを言い出した。
……間に合ったって、そっちですか。
私は頬がひきつるのを感じた。
でもヤーンさんは、フレイさんのこういう態度は慣れっこだったみたいで、あははと笑う。
ま、まあゴブリンを倒して助けてくれたわけだし。
そう思って私は、精霊達の様子というか、画面の発言履歴を見て目を丸くした。
《木の精霊:わー、きしさんがたすけてくれた》
《木の精霊:よかったよかった》
《木の精霊:じゃあクエストしゅうりょうだね》
《木の精霊:もどろーもどろー》
そう言うなり、木の精霊達はふっと姿を消していく。
「…………」
そして私は、彼らの発言の違和感の元にようやく気づいた。
え。
まさか木の精霊さんたち、プレイヤーやってない?
やっぱりちょっと流れおかしいけど。唐突に戦闘して、だーっといなくなるあたりもなんかこう、ものすごくプレイヤーぽい。
「どういうこと……」
とりあえず、もう画面を見て確認すべき対象はいない。画面を閉じて私は立ち上がる。
「ユラさんも無事で良かった」
こちらに気づいたフレイさんがそう言ってくれた。そして指をパチンと鳴らして、魔法を解いたようだ。
「おかげで攻撃されずに済みました」
「念のためとはいえ、魔法をかけておいて良かったよ。まさかこちらの索敵スキルが効かないとは……」
さすがにそれは懸念事項だったようで、フレイさんが考え込むような表情になる。
「それなのですが、ユラさんが精霊の仕業だと言っているのです」
「精霊?」
ヤーンさんが報告してくれたので、こちらを振り返ったフレイさんに私はうなずいた。
「そうなんです。混乱の精霊というのが、ゴブリンたちを煽っていたみたいで」
そしてここまで言っていいのかなと思いながら、隠しても仕方ないのでバラす。
「あと私、ゴブリンの言葉もなんだかわかるみたいで……」
と、ゴブリンたちが混乱させられているせいで、集落の人数が激減しているのに、むやみに警戒ラインの外に出ていることを伝えた。
「それは……本当に?」
さすがのフレイさんも、にわかには信じられないようだったけれど、
「本当のようですね。というか、おそらくあのタウルスも、精霊が混乱させていたのではないでしょうか」
ようやくもう一人の騎士と一緒に戻って来たイーヴァルさんが、やや疲れた顔で言った。
「フレイ……。私達にゴブリンとタウルスを押し付けて行くとは……」
「急いで駆け付けるのなら、俺の方が早いからね」
ひょうひょうと言ってのけるフレイさんに、イーヴァルさんはため息をつく。
どうしてフレイさんが先に戻れたのか、その経緯の一端が私にもこれでわかった。
「それで、タウルスは?」
「倒しましたよ。タウルスを追いかけて移動しましたが、ちょうどそのすぐ先にゴブリンの集落があったので、見てきました。……ゴブリンたちはタウルスに囲まれていましたね。やや頑丈そうな建物に集まって隠れているようですが」
何人ものゴブリンが誘い出されるように外へ出てしまったせいで、戦える者がいないのかもしれない。
なんともいえない気分だが、それもこれも精霊のせいなのだろう。
「精霊って追い払えないんでしょうか。タウルスもということになると、この周辺の魔物はみんな、混乱の精霊に扇動されているように思うんです。このままだと、全ての魔物が暴れ続けるんじゃないかなと」
このままでは良くないように思う。
一方で、森に入れば常に魔物と遭遇戦になって、レベルが上げられたゲームのことを思う。
あの調子で魔物が出たら、人は森に入れないよね。
生活にも支障が出そうだし、ゲームをする分にはいいけど、現実にその状態のままだというのはどうもよろしくない。
するとイーヴァルさんが言った。
「城に戻りましょう。そして団長に報告の上、精霊教会へ行くしかないでしょう」
精霊教会に?




