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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました

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野外でお茶をふるまいます

 一度はそれで収まりそうだったけど、フレイさんが最後に、NGワードを口にしてしまったようだ。


「団長もそんなイーヴァルさんだったから、特別に頼んだのでは?」


「特別……っ。そう、特別扱いし過ぎです!」


 イーヴァルさんがきっ、と私の方を睨んだ。


「なぜこの娘に、ここまでする必要があるんです。今回は、団長自ら出られるという話をされたので、それを諦めて頂く代わりに私が来たんですよ。雇用するだけならともかく、団長までが出て完全に守り抜くというのも、やりすぎというものです」


 あ、なんとなくイーヴァルさんの反感の原因がわかったぞ。

 団長さんが私にかまいすぎなのが、気に入らないんだ。

 優しい、有り難い、神だ……。とのほほんと考えていたけれど、周囲にはひいきに見えるのかもしれない。普段の団長様は、ここまで誰かに配慮をしないのだろう。


 ……目の前で息止まりかけたせいかな?

 それともよくわからなかったとはいえ、お茶飲んで仲良く眠りこけたから、仲間意識が芽生えたとか?

 大穴で『珍しいお茶が好きだからかもしれない』と心の中に付け加えておく。

 意外に紅茶を気に入っているみたいだもの。


「そりゃ、ユラはこの通り戦うどころか、逃げるのにも不自由する子だからね」


 はい、フレイさんの言う通り、逃げ足もろくに期待できません……。

 肩を叩かれた私は、ごもっともですと思いながらうつむくしかない。


「怪我をしたり死んだりしたら、寝ざめが悪いと思わないかい? 非力な女の子を見捨てることになるんだからね。そもそも彼女は、後方支援だけをさせるつもりなんですから」


「……まぁ、効果には期待しましょう」


 う、その効果も些少なんだけど、文句をつけられそうだな。

 それでもちゃんと戦ってくれそうだし、もうそれでいいことにしよう。深く考えたところでどうしようもない。


 とにかくゴブリンだ。

 ゴブリンは知性があると、フレイさんも認めているようだ。

 ゲームでも家のようなものを作っていたし、よほど縄張り争いなどが起こらなければ、踏み越えて来ないのかもしれない。


 そうすると、度々暴れて踏み越えて来るゴブリンというのは、集落の人口密度が高くなりすぎたあぶれ者なのだろうか?

 ゲームではそれを討伐しに行っていた?

 ハーラル副団長さんが来た時にも、たまたまそういうゴブリンが、混乱の精霊に引き寄せられてきていたのだろうか。


 今の私には知る方法がないけれど、少し気にかかる……。


 考えている間に、森の奥へと進んで行く。

 進む速度はぐんと落ちるけれど、転生後に森を歩いたことがあるので、徒歩よりもずっと速いのはわかる。

 それも一時間ほどのことだった。


 樹と樹の間隔が狭まってきたところで、少し開けた場所に到着。そこで馬を降りた。

 ……初めての長時間の乗馬で、さすがに足ががくがくしていた。

 お城と町の往復だって、もっと短い時間だったし。

 団長様に乗せてもらった竜は、そもそも馬より揺れを感じなかった。


「大丈夫かい? こんなに長時間乗るのは初めてだった?」


「はい、でもがんばります」


 大丈夫じゃないけど、ここで私はお仕事をするのだ。

 ここで休憩をしてから、馬を置いて森の奥へと歩くことになっている。


 これ以上奥に行くと、魔物の出現確率が上がるので、必要なければ休憩をせずに行って戻った方がいいらしい。

 徒歩だし、急いで逃げられないものね。


 馬はいなくなってしまうと困るので、ここに見習い騎士さんを馬番としておいていくそうだ。

 もし予定時間を越えても全く戻る気配がなければ、見習い騎士さんが城へ知らせに走るらしい。

 いつ何時、何があるのかわからないので、そういう手順が決められていると聞いた。


 なので、ここでしかお茶を飲めない。

 さっそく私は準備をはじめる。


 フレイさんが手伝ってくれて、前に誰かが火を起こしたまま、かまど代わりの石組みが残っている場所に、枯れ木を集めて火をつける。

 上に鉄の網を置いて、水を入れたケトルを乗せてお湯が沸くまで待つ。

 その様子を、他の騎士さん達が面白そうに見ていた。


「外でお茶を飲むって、野営以外ではあんまりやらないからなぁ」


「冬でも行って帰るだけなら、水だね。持ってるうちに凍ることもあるけど」


 なんてしゃべってる。

 イーヴァルさんは周辺を警戒すると言って、開けた場所の外側を見ている。

 飲んだらなんていうかな。

 できれば美味しいと言わせたいけど……。


 よもや美味しい紅茶を淹れるゴールデンルールなんて守れないというか、これ、魔法の産物だからなぁ。

 そう思いつつも、少ないお湯でポットを温めてから、ティーストレーナーに入れたお茶にお湯をくぐらせる。

 少し深めのストレーナーなので、多少なりと茶葉がお湯の中を泳ぐ余地がある。

 そうして心の中だけで歌って……気づいたらハミングしちゃってたけど、一瞬だから大丈夫だいじょうぶ。


「それ、故郷の歌かなんかかい?」


 と思っていたら、ばっちりフレイさんに聞かれていた。恥ずかしっ!


「え、ええまぁ。そのようなもので……」


 第一の故郷、日本のものです。嘘じゃありません。


「あまり聞いたことがないものだね。今度歌ってみせてくれないかい?」

「お、音痴なので!」


 むりです。人に聞かせるとか不可能!。耳がけがれますよ、やめといた方がいいです。

 という意味を込めてぶんぶんと首を横に振り、各自のカップにお茶を淹れていく。


「あ、いい香りかも」


 騎士さん二人が、そう言ってくれる。


「お口に合いましたか?」


 最も気になることを尋ねれば、うなずいてくれる。


「あんまり渋みがなくていいお茶だねこれ。果物っぽい味と香りもするのに甘くないし」


「俺は好きだなこれ」


 良かった。不味くはないらしい。

 ほっとしながら、今度はこちらも一応口をつけたイーヴァルさんを見る。

 カップの上で、左手で仰ぐようにして香りを確認していた。……なんか理科の実験を思い出させる仕草だ。でもさらさら黒髪のインテリっぽいイーヴァルさんだと、その仕草も似合う。


「香りはたしかに異常なし……」


 異常なしとは……まるで毒の煙みたいな対応ですね?

 次にイーヴァルさんは、慎重な面持ちでカップに口をつける。


「む……」


 そう言ったまま、イーヴァルさんは何も言わなくなった。

 え? 何か気に入らなかったのかな? 残りもちゃんと飲んでるから、嫌ではなかったと思うけど、何か言ってほしい。


 口に合わなかったのかな、好みじゃなかったのか教えて欲しいなーと思いながらじっと見ていると、その視線に気づいたようにちらりと私を見てから、一言口にする。


「まぁいいでしょう」


 及第点もらえたっぽい。

 私はほっとした。これで団長さんにお茶を飲ませても、イーヴァルさんに怒られることはないだろう。うん、眠らせたりさえしなければね。

 そこでフレイさんが私にたずねた。


「今日のお茶は、何の効果のものを持って来たんだい?」


「あ、防御力がちょっと上がるのと、魔力回復です」


 上手く混ぜられたんですよと言うと、飲み切った騎士達が急いで自分の測定石を手に取る。


「あ、ほんとだ。ちょっと上がってる」


 そして一緒に飲んでいた見習い騎士も、自分のステータスを確認していた。


「防御力が本当に少し上がってる。ここで一人待ってる時にも魔物が出たりするから、少し安心ですね」


 そう言って笑ってくれたので、私は紅茶を淹れて本当に良かったと思ったのだった。

 イーヴァルさんも、こっそり自分の能力値確認してたよ!

 やったね私!

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