新たなお茶と?
「いやいや。まだ団長様って若いのに、お祖母ちゃん扱いしちゃだめだよね……?」
さすがにもうしわけない。
でもそう思ってしまったのも、理由はわかる。
「お祖母ちゃんみたいにしてくれる人は、もういないものね」
大人なんだから、頭を撫でてもらうことなどもうない。それでもしてくれるのは、親くらいのものだ。
だからお祖母ちゃんが懐かしい。私にとって甘えさせてくれる人は、ずっとお祖母ちゃんだけだったから、なおさらだ。
「ま、お父さん扱いされるのも、団長様には迷惑だろうし」
でもこれだけさらっと切り替えができるのは、前世の記憶のおかげだ。
一度、親から巣立った経験があるから、親離れしなくてはという気持ちが自然と湧く。
以前のままの私だったら、悲しくなってめそめそしていただろう。
弱い自分も、ちゃんと心の中にある。それが基盤になっているけれど、立ち上がる方法を知っている分だけ、がんばれる。
「それに団長様のは、上司に励まされたようなものだもね」
新人に、無理をするなと言ったぐらいのもの。
撫でるまでしたのは、案外、お茶のせいでかなり気が緩んでいたせいじゃないのかな。
「よし」
私は気合いを入れた。
許可が出たんだ。巡回に持って行くお茶の準備をしなくちゃ。
「自分が飲むより、きっと振る舞った方が効率がいいよね」
そう考えると、MP回復と気力回復のお茶を持っていきたい。防御力アップもほしい。
「あとは効率よく持って行く方法かな」
日帰りだから、水筒でいいように思う。ただ水は重いんだよね。
茶の葉じゃだめかな?
試しに茶葉を調べてみたけど、お茶にした状態の半分くらいの効力しかなかった。
「ということは、葉っぱを食べてもいいけど、お茶にした方がいいってことだよね」
やはり休憩中に、お茶を淹れてもらえるように頼むしかないか。
そう決めてこの日は眠った。
そして翌日、早々に私が初めての冒険に出る日を知らされた。
「明日、警戒に出ることになったよ、ユラさん。朝10時出発だ」
フレイさんにそう連絡をもらい、私は気を引き締めながらも必要事項を確認した。
「徒歩でしょうか?」
「森へ入ってしばらくは馬。その後は徒歩だ」
「なるほどなるほど。お水も運びますか?」
「君が気にしているのはお茶だね? そのつもりで用意しているよ。カップは各自で持ち歩いているとして、茶葉とポットは君の方で用意するように。お茶は気力が回復できるものぐらいでいいと思うよ」
忘れないようにしなくては。特にポット。鉄製の割れないものがあったはずなので、あれを借りて行こう。
今後のことを考えると、同じものを注文しておいた方がいいかもしれない。
「わかりました!」
元気よく返事をして準備をはじめることにする。
オルヴェ先生にも報告し、さてと考えるのは、やはりお茶のことだ。
「薬って、複数の効果が発揮できるものがあるよね? ……お茶もそうできないかな」
三種類のお茶を持っていきたい。
でも一度の休憩で、三杯もお茶を飲ませるわけにもいかないだろうし、お水も沢山必要になってしまう。
効果を一つのお茶にまとめられれば、一杯で済む。
すでに一つ一つの効果時間は確かめた。おおよそどれも三時間ほどだ。
一度飲めば、森の探索を終えて帰る頃まで、防御力上昇は持つと思う。
半日と言っていたので、途中の休憩から帰るまでの時間が、おそらくそれぐらいになるしちょうどいい。
この警戒巡回で、ゴブリンに遭遇するはずだ。
倒すのは、フレイさん達にたよるしかない。私が前に出るとただの足でまといだから。
せめてその補助になるようなものを、持っていきたい。
「お茶っ葉まぜるか……」
でも単純に混ぜただけだと、何かが相殺し合って、気力がちょっと復活したかなぁ? ぐらいの効果しかなくなってしまった。
ゴブリン精霊も現れず、気力回復もたったの+3。
これじゃ意味がない。
「じゃあ、混ぜて作るか」
紅茶を作る時に、二種類の乾燥フルーツを混ぜる。これだ。
さっそく実行してみた。
紅茶を煎ると、いつも通りカマドからゴブリン精霊が飛び出して、フライパンの茶葉に煙を投げつけて去る。
そこに乾燥オレンジと林檎を混ぜ、出来たものでお茶を淹れた。
「すっきりした甘い香り……。ミルク入れたら分離しちゃうかな? でもこのままでも、十分おいしそう」
でも飲む前に、まずはチェック。
「画面おーぷーん」
そうして開いた画面には、期待した効果が出ていた。
《フルーツティーOA:物理防御+3、魔力の回復+8。スキル練度+15》
「おおおおお。やった、二つ入った! OAって、オレンジとアップルってことかな?」
私は喜びながら、とりあえず飲む。
すんごくフルーティーな香りがして、我慢できなかったし、問題ないない。
「お茶作るとMP減るみたいだしね」
お茶一杯作成で、MPが5減るみたい。微々たるものだけど、回復して悪いことなどないのでいいだろう。
そうしてお茶を飲んでいると、画面に変な表示を見つけた。
《紅茶師スキルレベルアップ!》
「お」
やった。スキルレベルが上がったらしい。
これで私の逃げ足も、少しは上がったのではないだろうか。
ふんふんと鼻歌をくちずさみながら自分のステータスを見る。
速さとか攻撃力みたいな、そういうステータスはちみちみと1しか上がってない。でも上がらないよりまし……。
HPとMPもちょこっと上がった。
でも何より変なものを見つける。
スキル欄の下に、変な文章が追加されていた。
「紅茶スキルレベル6……チャンネルGが追加されました?」
テレビの選局じゃあるまいし、これ、何?




