戦闘前の準備は入念に
まず私は、副団長さんが帰った後で新たな実験を試みることにした。
ハーラル副団長にはああいったものの、鎧も重くて着れない貧弱な私だ。
少しは戦闘力なり防御力を上げておきたい。
魔法の防御はオッケーだけど、ゴブリンに殴られたらとてもマズイ。
筋力を上げる以外の方法はないものか。
とりあえず、先日オルヴェ先生と一緒に町へ降りて買った中で、まだ試していないものを出す。
ハチミツ、乾燥リンゴ。
「どっちか、効果があるといいなぁ」
まずはアップルティーもどきを作ることにする。
りんごを煎ってもな……と思うので、作り置き用に多めに普通の紅茶を用意。精霊がしっかりと魔法を付与していったことも確認する。
そこに味がよく出る様に少し刻んだ乾燥リンゴをイン。
お湯を注ぎ始めると、湯気からふわっと……ゴブリン妖精が現れて、投げキッスをして消えていった。
今回はずいぶんご機嫌?
「…………えっと。違う反応っていうことは、違う効果のお茶ができたのかもしれないし」
林檎のいい香りがするお茶になってるし、きっと大丈夫。
自分を励ました私は、まずはお茶について調べる。
画面を開いてカップに触れる。
《アップルティー。効果:物理防御+3。スキル練度+10》
「よっしゃ、来た! とうとう物理防御にプラス!」
3だけど、ゴブリン相手なら少しは心強い!
物理防御があがるだけなのだしと、気軽に飲んでみたけれど味も悪くない。うん、リンゴの保存のためにまぶされていた砂糖の甘さと相まって、美味しい。
リンゴの甘い香りも、いつまでも嗅いでいたくなる。
「これ、後入れじゃなかったらどうなるのかな?」
飲み干した上で、もう一杯分リンゴで実験する。
一緒に入れて煎ってみると、普通に煙投げ精霊が出て来たけれど、効果は同じになった。
「よしよし。そうしたら次はハチミツにしよう」
普通の紅茶を淹れて、そこにハチミツを一匙足した。
《ハニーティー。心が安らぐ(微)。スキル練度+3》
「安らぐ?」
心がほっとするのだろうか。
「心がやすらぐ……」
なんだかとても穏やかそうな効果のお茶になった。
ミルクでも即眠る、ということにはならなかったようで良かった。
「これなら眠る前にちょうどいいかも。今も大丈夫よね」
一口喉を滑らせる。
暖かいお茶が胃の中をふんわりと温めて、そこから癒されるような気持ちが広がる。
「ああ、ほっとする」
これ精神的にも良さそう。ストレスが溶けてどこかに消えるように感じる。
気力の回復という効果にはならないみたいだけど、これはこれでいい。
飲み干して満足したところで、オルヴェ先生が私を探しに来た。
「おおユラ。夕食の時間だぞ」
そう言われて、外が真っ暗になっていたことに気づく。
しかもオルヴェ先生がここまで食事を運んでくれていた。
「ごめんなさい、すみません先生。私がやるはずだったのにお手をわずらわせまして……」
「そこまで気にすることはない。討伐者登録したのだし、お前のその実験も仕事の一環になったんだから。だが食事は重要だからな。食べてしまいなさい」
「はいありがとうございます」
お礼を言って、私はそのまま台所で食事を食べてしまう。
騎士団のごはんは、ヘルガさんのような人が夕食は通いで作ってくれている。
朝とお昼は、騎士団の見習いさんが作っているので、とても野趣あふれたものが多い。
野営訓練で使えるようにってことで、けっこう干し肉をスープにぶちこみました系とか、それに日持ちするビスケットとか。
いずれ私も野営に参加する日が来るかもしれないので、慣れておくにこしたことはないと思って食べているけど、ちょっと寂しい。
前世がもともと薄味好みだし、転生後の生活で粗食に慣れているので、それほどストレスを感じたり、食べられないと泣くようなことはない。
ただ、外へ出る時には、絶対お茶を持っていこうと決意している。
ビスケットはお茶と一緒の方がおいしいと思うんだ。
ご飯を食べた後は、オルヴェ先生の分も下膳する。といっても、戦闘能力もないのに夜で歩くのはけしからんので、一階の食事を届けてくれる場所に洗って置いておく。
それから私は、食後のお茶ついでにもう一杯試すことにした。
「ハニーティーにミルク入れたら、やっぱり眠っちゃうのかな?」
ミルク自体が、どうも沈静とか眠るとか、大人しくさせる方向の作用を発生させるみたいだし、そうかもしれない。
そこに穏やかな気持ちになるハチミツを混ぜたら、強力な睡眠薬になるんだろうか。それはそれで、敵が出た時に、何かに使えるかもしれない……飲めなくなるけど。
とにかくレッツチャレンジ。
そうして出来上がったのは、
《ハニーミルクティー。心が安らぐ(弱)。スキル練度+5》
「あ、強くなった」
さっきが(微)だったもんね。そしてハチミツの作用の方が強いのかな?
「心が安らぐなら、平気だね。弱ってどれくらいなんだろう」
今は紅茶を作るのにドキドキはしたけれど、さほど疲労しているわけではない。ここから安らぐというと、お風呂に浸かったぐらいの安らぎが発生するんだろうか。
わくわくしながらお茶に口をつける。
三口目ぐらいから、じんわりとした心地よさにふわふわした気持ちになった。
「これは……いい」
語彙力も低下するこのふわふわ感。
まさにお風呂に浸かってる気分。はぁーと息をついて、頬杖をついてしまう。
「肩こりとかとれそう。この気分のまま眠れたら、すごくいいんじゃないかな」
うとうとしてきてしまう。それすら心地よくて……。
「おい、大丈夫か?」
誰かに肩にふれられて、自分が目を閉じていたことに気づく。
はっと顔を上げて起こしてくれた親切な人を見れば、団長様だった。




