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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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そうして私が選んだ未来は 1

 夜中。

 私は部屋の中で荷物をまとめていた。


 あれからすぐに私達は、シグル騎士団の城へ帰って来ていた。

 後始末も、メイア嬢に関しては終わっている。


 ……もう、魔女の事件は終わって、世界が壊される必要はなくなったのだ。


 あの後、メイア嬢はタナストラの王宮に返された。まだ気絶していたので、フレイさんが部下の人達と一緒に飛びトカゲで向かってくれた。

 その前に調べて――というか精霊に聞いてみたところ、どうもソラの仕業で、メイア嬢は魔法が使えなくなっていたようだ。


 不完全ながらも、魔女のスキルを持ち常人以上の魔力量を持つメイア嬢を、そのままにはできないと思ったのだろう。


 メイア嬢を連れ帰ろうと言う人は、誰もいなかった。

 なにせすでにタナストラに引き渡すという形で、移住をした人だ。返さなければタナストラとアーレンダールの間に軋轢が生じてしまう。


 フレイさん達は、アーレンダールの王様の書状を見せつつ、悪い人間ミタスに騙されていたらしいことを知らせるつもりだと言っていた。


 目覚めたメイア嬢が、何を思うのかはわからない。

 政略結婚は継続だし、魔女が味方になることを期待していたタナストラ側は、魔法の使えないメイア嬢に冷たくなるかもしれない。

 でも、それは彼女が背負うものだから気にするな、と団長様に言われている。


 ……と言っても気になるけどね。


 なので精霊に聞いてみたら、目覚めた後でそのことに気づいた彼女は落ち着いているらしく。私はほっとした。

 彼女は沢山の人を犠牲にしてしまった。精霊をも。


 だからといって、彼女が最大級に不幸になればいいなんて思っていない。ただし、敵国同然の国で生きていくのは大変だろう。けど、それが彼女にとっての罰にもなると思う。



 一方の私は、魔力を使いはたして疲労困憊だった。

 倒れるほどではなかったけど、心配した団長様が、すぐさまシグル騎士団の城に抱えて連れ戻してくれたのだ。

 そうして休んだところなんだけど。


「魔女の力、消せなかったもんな……」


 願いを魔女スキルの消滅にしなかったんだから、当然と言えば当然。

 それに、世界が広範囲に荒れ地に変わる運命は回避されたけど、魔女が忌み嫌われる世界であることに変わりはない。


 ソラに私の魔法も封じてもらうことを考えたりもしたんだけど、精霊達に「それムリー」と速攻でダメ出しされてしまった。

 魔力が多すぎて、メイア嬢みたいにはできないんだそうだ。


 だから私は一人でこっそり旅立とうと思った。

 別に、イドリシアまで同行したフレイさんの隊の人達の態度が変わったわけではない。

 彼らはミタスが連れてきていたイドリシアの精霊術師達を倒し、無事でいてくれた上、へろへろになった私を気遣ってくれていた。


 だけど、どう考えたって今回のことは、団長様から国王陛下に報告しなくてはならないし、その報告は他の貴族達にも伝えられるだろう。

 なにせタナストラに嫁がせたメイア嬢を魔女だと訴える書状を、国王陛下に書いてもらっている。

 タナストラの国境騎士団にも団長様と一緒に私は立ち寄っているし、メイア嬢を連れ戻すフレイさん達も、あの書状を持って行くのだ。


 その時、どう説明するつもりなのか。

 全部を団長様の精霊王の剣で説明することは不可能だ。なにせ団長様は、精霊王を呼んだことがない。

 精霊教会の人が、団長様にそれを持ちかけないわけがないから、絶対試しているはずなので、団長様の仕業だと言っても疑われるだろう。


 だから夜逃げ同然でいなくなろうと思ったのだ。


「はー。火竜さんにもう少しいてもらえば良かったな」


 そうしたら、夜逃げもひとっ飛びで完了だ。

 しかし火竜さんは、私がへろへろしている間に、住処へと旅立ってしまった。

 早く家に帰りたかったのだから、当然だろう。


 荷物を背負う。

 ここへ引っ越して来た時よりも少ない荷物にした。ある程度まとまったお金を持っているから、たいていのものは買い直せるのでいいだろう。


「よし、置き手紙完了」


 書き上げた手紙を机の上に置いた。

 やれ出発しようと、そっと扉を開けると。


「…………」


「……どこへ行く気だ?」


 団長様が扉の前に立っていた。

 無表情の団長様が怖くて、思わず扉を閉じてしまう。


 すると今見たものが幻だった気がして来た。

 だってほら、団長様も帰って来たばかりなのに、私をいちいち見張っているはずがない。

 なのにトントンと扉がノックされた。


「ユラ、話があるんだが」


「……はい」


 返事をしないという選択肢はなかった。こんなにも迷惑をかけ通しなのに、あまりに失礼すぎる。

 私は荷物を置いてから、扉を開いた。


 長くなりそうだし、廊下で大きな声で話して、近くの部屋にいるオルヴェ先生のお邪魔をしてはいけないので、団長様に部屋に入ってもらう。

 団長様は部屋に入ってすぐ、私に疑問をぶつけてきた。


「旅装をしているのは……ここから出て行くつもりだったからか?」


 団長様の静かな口調に、私は逆に縮こまる。

 そうだ、と真正面から答えて、悲しむこの人の顔を見たくない。だからこっそり出て行こうと思ったのに。


 うなずけない私を見ていた団長様は、部屋の中を見回す。

 寝台の上は、寝具を畳んで置いてある。

 残していくしかない衣服はひとまとめにして袋に詰め、小物なども別な袋に詰めておき、そこに紙をくくりつけていた。『処分していただいて結構です』と書いたものを。


 机の上はまっさらな状態だが、生成りの手紙だけが置かれていた。

 団長様は部屋の中に踏み入り、その手紙を取り上げて読んでしまう。

 そしてため息をついた。


「この一件が終わったら話すことがある……と私は言ったな。それすらも聞かずに出て行くつもりだったんだな、ユラ」


「う……はい」


「ユラ、お前はあの時、私が何を望んだのかと問いかけた」


「はい」


 覚えております。

 幼少期に不幸に見舞われて、すっかりとひねてしまった団長様が、思い描いていた望みだと思われる。だから精霊王の剣を捨てたいとか、そういうことかなと私は予想する。


「精霊王の剣が邪魔だったら、私がソラに返してきますが……」


「それは無理だ」


「え、無理ですか?」


「精霊王の剣は、私の血と結びついている。代々伝えるしかなくなっていたものだ」


 確かにソラが、血族に伝えてほしいとか言っていたような。精霊王の剣のことだったんだ。

 団長様が手紙を机の上に置き直し、一歩私に近づいた。


「少し前までは、この剣を持つ人間は私だけにしようと思っていた。持てば周囲の精霊を殺し、周りの魔力を吸い込み荒れ地に変えてしまうような代物だ。今は収まったものの、次の代で同じことが起こらないとは限らない。そう思っていたからだ」


「ソラが解放すると言ったのは、そのことですよね?」


 団長様がうなずく。


「私はほっとしたんだ。剣のことがあるからこそ、結婚もする気はなかった」


 結婚したくなかったのは、精霊王の剣を継がせる子供のことを心配したからだったんだ。


「でも今はそれも問題なくなった。ユラ、お前のおかげだ」


 ふわりと微笑んだ団長様の顔に、私は視線がそらせなくなる。

 なんて幸せそうに笑うんだろうと思うほどの、心からの笑顔だった。


「私は望んだ通りのことが、これで出来る」


 団長様がさらに私との距離を詰める。笑顔に気を取られていた私は、あっという間に近づかれて手首を掴まれた。

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