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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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世界と接触する

 とたん――空気も、風の音も、視界に映る草葉や水面の動きまでが静止した。


「え……」


 チャンネルを押しただけなのに、一体何が起こってるの?

 静けさに満ちたそこに、手が触れた木の中から何かが聞こえてくる。


 ――私を認めない世界など……!


 ――どうしてリュシアン様は私を……。


 ――ぷっぷくぷー。


 ――このお茶はいいねぇ。え、紅茶っていうのかい?


 ――本当にユラさんは大丈夫なのか?


 ――これは夜の力か……くそっ、あの性悪魔女にバカにされかねん!


 最初の声はミタス? 次はメイア嬢で……なんか知らない人や精霊の声の後で、火竜さんの言葉が聞こえた。

 沢山の人の声が混ざり合って、伝わってくる。

 ああ、これは。


「今聞こえているのは、側にいる人達の心の声だよ。だけど世界の全ての声を聞くこともできる」


 私に答えたのは、横にいたソラだ。


「ユラ、ここまで来てくれてありがとう」


 私の手を掴んだソラは、


「ずっと君に全てを話したかった。だけど力がもう一人の『作り出された精霊王』の方が勝っている間は、彼らが警戒しているものについて語ると、もう一人に伝わってしまいかねなかった。まだ魔力が強くなっていない僕では、君を守り切れないと思って話せなかったんだ」


 ソラは、偽者に自分や私のことがバレてしまわないように、今まで話すことができずにいたようだ。

 なるほどと思ったところで、ソラよりも低い声がささやく。


「ここから我らは全てを選別するのだ」


 黒い手の持ち主、偽者のソラが、遠くにいたはずなのに今は私の側に立っていた。

 偽者のソラは、思わず彼から距離を取ろうとした私の、木に触れていない左手を掴んだ。


「私の作った世界を受け入れろ、魔力の主よ」


 その言葉と同時に、頭と心に何かが圧力をかけてくる。

 それは――問題の始まりの記憶だ。



 ミタスは、王の血を引く一族の人間だ。

 だからこそ、ミタスの一族は魔力が強く、祭祀をつかさどる役目を代々勤めてきて……矜持もあったし、誰よりも優れていると考えていたみたいだ。


 彼も最初は、ただ国を守りたいと考えていた。

 でもタナストラが周辺国やイドリシアへの侵略を開始した頃から、それは歪んでいく。


 タナストラが、精霊を使った兵器で周辺国を侵略。

 そのために刈り取られた精霊達の嘆きを聞き、ミタスはタナストラをどうにか止めるべきだと考えた。


 しかしイドリシアにそんな国力はない。

 国を守る力はあっても、大国を侵略するには魔術師や騎士の数も不足している。

 せめて神を呼び、精霊を守るべきと進言するも、イドリシアの王はミタスの提案にうなずかなかった。


 ――ミタスは自分の考えが通らないことに、反発した。


 イドリシアは精霊を守る国。そしてこのままでは、イドリシアもタナストラと戦わなくてはならなくなるのに。

 むしろ神を呼べるイドリシアこそが、世界の覇権を握るべきだと考えていた。


 しかし王がうなずかなければ、精霊王は呼べない。

 他に精霊王を呼べるほどの力を持つのは、おとぎ話の魔女くらいのものだった。

 ミタスは考えた末に……自分だけの精霊王を作り出したのだ。

 何度も何度も失敗しつつ、編み出したのは精霊を変質させる術。

 死にかけた精霊を集めるために何度もタナストラへ行き、冥界術を用いて作り出したのが偽者のソラだった。


 偽者のソラの中身はうつろで、自分の言うことをよく聞く。

 魂がないのだから当然だ。

 これでタナストラに対する切り札ができたと安心したミタスだったが、王はミタスが禁術を使ったからと、魔法を使えないように封じた。


 ミタスは愕然とした。どうしてイドリシアを守ろうとする自分が否定されるのかと。

 王以外の人々もミタスを批判した。

 だからミタスは……自分を認めないイドリシアを、一度滅ぼすことにしたのだ。


 一度国をリセットして、荒れた世界を再生させてみせることで人心を掌握、もう一度イドリシアを作り直した上で……自分が王になろうと。

 そのために邪魔だった王族は、ほとんど排除に成功。

 メイアは外の血が入っている上、王族としての秘術はほとんど知らない。ならば利用して排除した後でしまえばいいと考えた。


 フレイが残ってしまったが、精霊王を作り出せた自分より力の弱いフレイなど巻き込まれて死ぬだろうとあなどっていた。

 そして王が、イドリシアの聖域を悪用されないように封じてしまおうとした隙をつき――ミタスは聖域に侵入して、神を呼んだ。

 自分の作り出した精霊王とソラの立場を入れ替えるために。


「タナストラを滅ぼせば、全ての争いはなくなる」


 偽者のソラの声に、ふっと我に返る。

 木から伝わったミタスの記憶が途切れたようだ。


 慌てて偽者のソラから離れようとするも、いつの間にか木に触れた左手に、偽者のソラの黒い手が重なっていて離れない。

 ぞっとした瞬間に、今度は本物のソラがささやいた。木に触れている右手をしっかりと掴んでくれる。


「大丈夫。彼は魔力の主である君に無理強いはできない」


「本当に?」


 尋ねた私に、ソラがうなずく。


「前回は、神を呼ぶ際に僕の力が奪われた。ミタスが自分で編み出した禁術のせいで、存在の相似性がある偽者に、僕の力が移動してしまったから」


 ソラは力が偽者に流れていき弱っていた。

 さらには偽者がもう一人の精霊王として世界に認めさせられたことで、ソラは自分の存在すら危うくなった。


「だけど、僕はそれを利用した」


 今度はソラの記憶が流れてくる。

 なんとか存在を保ったソラは、その時にミタスの目的を知った。

 ミタスは、一度目の神呼びでは偽者の立場をソラと同じにするだけで精一杯だった。それはイドリシアの王の魔力を使って神を呼んだからだ。


 ミタスは次の魔力の器として、言うことを聞く『魔女』を作り、世界を壊して自分に都合よく作り変えるつもりだった。

 邪魔なタナストラを破壊し、アーレンダールも破壊してしまえばいい。イドリシアは自分にとって余計な記録があるかもしれないので、破壊をした後で再生させればいいこと。


 何より自分の都合よく動く精霊王がいれば、精霊を発生させることも大地に緑を復活させることもできるのだ。

 そうしてから、人々に新たな記憶を植えつけるつもりだったのだ。

 イドリシアの精霊術師が、世界を再生させ……王として選ばれる未来の記憶を。


「だけど神呼びの瞬間、僕と偽者の相似性を利用したからこそ……この力は、よく似た世界の記憶に通じた。ほら」


 ソラの呼びかけに、ふっと風が通り抜けるような感覚と同時に、新しい扉が開かれた。

 そこから懐かしい声や音が聞こえてくる。


 ゲームのBGM。敵の魔物の声。NPCの声……。

 よく似たものを入れ替えようとした願いのおかげで、別世界とのつながりが一瞬できたのだ。

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