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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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そして準備はととのった

 メイア嬢は私をあざ笑った。


「未来を見てきたように言うのね。それともあのまがいものの精霊王にそう吹き込まれたの?」


「いいえ。私はこの先に起こることを見ました」


 ゲームの映像という形で。


「イドリシアもタナストラも、アーレンダールまで大半が荒野になってしまうんです。イドリシアに近い地方は全滅だから、メイア様、あなたが引き受けたというイドリシアから移住した人々も、巻き込まれて死んでしまうでしょう」


「何を言っているの?」


「シグル騎士団も被害を受けて、生き残るのは団長様だけです」


 彼がたった一人で立ち尽くす、ゲームの映像を覚えている。


「あなたは、団長様がお好きなんですよね? メイア様。なのに、その人が大事にしている人達を奪うのですか? 団長様を絶望させたいんでしょうか」


 メイア嬢の唇がわななく。


「あなたは何を言っているのユラ。やっぱり人じゃない……」


 だめだ。私の言葉じゃメイア嬢には届かない。


「その娘は悪魔ですぞメイア様! 精霊王よ、早くこの偽の魔女と精霊王の剣の持ち主を始末せよ!」


 叫ぶミタスに応じて、舞い降りた精霊王が手を上に伸ばす。

 その瞬間、周囲がさっと闇に飲まれた。


「ユラ!」


 団長様の声が聞こえる。

 声だけが聞こえると思ったけど、ふわっと私を何かが包み込んだ。


「ユラ、守るのよ」


「仲間だもん」


 やわらかな光を宿す、星の形をした精霊が私の腕にくっついてくれていた。

 ほっとする。完全な闇ではないことに。

 ただし自分とこの精霊達以外は一切見えなくなっていた。


「早く私を解放しなさい!」


 メイア嬢が怒っている。それならまだ大丈夫。彼女は動いていない。

 しかし私の方も、闇に絡みつかれて取れない。


「これをどうしたらいいのか……」


 助けは求められない、フレイさんやイーヴァルさんも手一杯だ。

 おそらく団長様も、私のために光の精霊を呼ぶことだけで限界だったんだと思う。


「プレイヤー精霊さんが出てこられないのは辛いな」


 ゲームと違う展開だから仕方ないし、ゲーム通りの展開を求めたら、死者が増えてしまうから、その選択だけはできない。


「どうにか……何か魔法でも使えないかな」


 しかしやみくもに攻撃したら団長様やフレイさん達に当たってしまう。

 悩む私の前に、ふっと闇の中から数人の黒ローブの男の姿が浮かび上がって見えた。

 私を取り囲んで、ささやくような声で言い合う。


『なぜ起きたんだこの娘は』


『術がかかりにくいのか?』


『それなら有望だ』


 黒ローブの一人が、古めかしい剣を鞘から抜いた。

 細身の剣は、薄暗い部屋の中、蝋燭の明かりを反射して、不自然なまでに白くはっきりと見えた。

 その時私はわかった。これは、私が禁術を受けた時の記憶。


『魔女の魂よ宿れ!』


 羽交い絞めにされた私が、剣を突きさされそうになって……。

 息を飲む。

 もう一度死ぬ経験をしなくてはならいのか、と身をすくめた。

 ただ、どんな衝撃を受けても、せめてメイア嬢を足止めした魔力が揺らがないようにと願う。


「ユラ!」


 その時誰かに抱き込まれた。

 団長様の声だ、と思った瞬間に、周囲が霧が晴れるように光に満たされて行く。

 まぶしくない光は、ようやく見えるようになった団長様の掲げた剣から広がっていく。


 いや、剣先に何かが突き刺さっていた。

 黒い人影。

 憤怒の表情をしたソラ……ではない。黒い衣の、偽者の精霊王だ。


「フレイ!」


 団長様が呼びかける。

 闇が晴れて見通せるようになった視界の中、フレイさんはミタスに何かの術をかけてその場に拘束していた。

 赤く光る線がミタスをがんじがらめにして、地面に引き倒す。


「王族に仕える魔術師が、何の制約を受けているのかは学んでいる。そのまま大人しく全てが終わるまで待て」


「くそっ、王族の血を引く人間は殺しておくべきだった! 死ね死ね死ね!」


 それでもミタスが暴れる。

 イドリシアでは、王に仕える魔術師は何かの制約魔法を受けていたようだ。

 王族でも、直系ではないフレイさんなら知らないと思って、殺さずに見逃していたに違いない。けど、フレイさんは知っていたからミタスを抑えることができたようだ。


 ミタスが握りしめた杖から黒い靄が立ち昇り、フレイさんを取り込もうとする。でもミタスを拘束する魔法を途切れさせないためか、フレイさんは動かない。


「フレイ!」


 イーヴァルさんが焦っていた。


「精霊王、まだか!」


 団長様が呼びかける。偽者の精霊王を引き留める術は、それほど持たないんだろう。

 偽者の精霊王の髪が、湧き出し始めた黒い靄と混ざり合って伸び、私や団長様にその先を伸ばして来ようとする。


 慌てて精霊王の剣に込める魔力を強めると、剣の輝きが増してそれを遠ざけてくれた。

 ソラがすぐに返事をする。


「ユラ、もう大丈夫だ。神を呼ぼう」


 振り返ると、泉の中にソラがいた。私に向かって手を伸ばす。

 その背景にある白かった木は、光をまとって半透明になっていた。

 見た瞬間に、その木が満たされたことを感じる。


「行ってこい、ユラ」


 団長様が私を離す。

 私がどんな願い事をするのかなんて質問はしなかった。ただ、私が全てを終わらせると信じて送り出してくれる。


 私はソラに向かって走った。

 急がなければ。魔力の供給が絶えたら、精霊王の剣の力だけでは偽者のソラが抑えきれなくなって、団長様が危ない。


 靴が泉の中に入る。

 すぅっと冷たい感覚がつま先から頭まで駆け抜けていく。

 浄化されるような感覚だ。


 たぶんこの泉そのものは、あの木に触れるために自分の心を研ぎ澄ませる作用があるのではないだろうか。

 そして私は急いでソラの前に立ち、彼の手に触れる。


「もう、願いは決まったね?」


 私はうなずいた。


 ここはエルフィール・オンラインと名付けられたゲームと同じ世界。

 エルフは精霊のこと。

 ゲームの世界名がエルフィールなのだから、精霊は世界を形作るものだ。


 ただ、Eチャンネルがなくてお、精霊王であるソラと会話ができるから、このチャンネルはもっと別なものらしい。

 だからEはもっと広い範囲の世界を形作る全て――世界そのものである大地『EARTH』だ。


 私の想像通りなら、たぶんこの願いの内容でいいと思う。


 私はソラに導かれるようにして木の側へ移動し、そして木の幹にソラと一緒に触れた上でステータス画面を開いた。

 背後から何かが迫ってきて、木に黒い手の影のようなものが巻きつく。

 偽者のソラだ。でも、今しかない。


 私はチャンネルEを押した。

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