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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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戦闘開始です

「君は最初から、そうなるように定められていたから……。ごめんね、僕のせいなんだ。助けてほしいと僕が願って、君が応えてくれた。だから君は、僕の唯一の魔女なんだよ」


「ソラが選んだんだ」


 なぜかその言葉が、すとんと私の心の中に収まった。

 魔女のスキルが発現したとたんに現れたソラ。

 最初から彼だけは普通に会話ができた。それは彼が精霊王で特別な存在だというのと同時に、彼が自分の魔女として私を選んだからなんだろう。


 そして今まで『どうして自分が生き残ったのか』『なぜ自分が魔女になったのか』と考えてきたけど、その疑問もなんとなく消えてしまった。

 ソラが助けてほしいと呼びかけた時に、私が自分から手を上げたのなら仕方ない、と。

 望んでこの世界に来て、自分でソラを助けると決めたことがわかったら、心が落ち着いた気がする。


「ようやく、教えてもらえた。ありがとう。そしてソラが私に言えなかったのは、力を失っていたせいなんだね。そこには、もう一人の精霊王のことが関わっているんでしょう?」


 ソラは「正解だよ」と微笑む。


「僕は、ミタスが作り出したまがいものの精霊王に、成り代わられそうになった。ここでイドリシアの王と同時にミタスが神に祈ったことによって、二つの願いが中途半端に叶えられたんだ」


 イドリシアの王の願いは、精霊王であるソラによってこの聖域を封じる形で叶った。

 ミタスの願いは、精霊王を挿げ替えて自分の望みをかなえること。

 すでにミタスの作り出した偽者の精霊王によって力を削られていたソラは、その願いを止めることができなかったらしい。


 一方で、二人の人間が同時に願いを叶えようとしたからこそ、ミタスの願いは完全には叶わなかった。


「中途半端だったからこそ、僕は消えなかった。そして先に起こるだろうことを知った。このままでは、まがいものの魔女が魔力を暴走させて、タナストラのみならず、イドリシアやアーレンダールまで壊してしまう」


「わ、私はちゃんとできますわ! あなたこそまがいものなのではありませんの!?」


 それまでぼうぜんとソラの話を聞いていたメイア嬢が、興奮したように叫んだ。


「精霊王は望まれなければ人の世にかかわらないもの。自主的に誰かに関わるようなことはないはずよ!」


「もちろんですとも、メイア様。自らを犠牲にしてまで魔女となったあなた様に、できないことなどありませんとも」


 メイア嬢の言葉にミタスが同意した。一緒にいた他二人の黒ローブの男もうなずく。

 そんなメイア嬢達を、ソラは無表情で見つめる。


「信じたいものを信じればいいと言ってあげたいけど、それは自分自身のことだけで済む場合だけだ。ミタスは国々が壊れてもいい人なんだよ、まがいものの魔女。彼がしたかったことは……」


「おしゃべりもそこまでにしてもらおう、偽者よ」


 ミタスが右手に持っていた杖を掲げた。


「来たれ精霊王よ!」


 呼びかけに、空にいた黒い竜が呼応する。

 あれが精霊王!?

 その雄たけびが空気を振るわせ、私に寒気を起こさせた。


「何、さむ……」


 怖いからじゃない。だけど息が白くなっているわけじゃないのに、鳥肌が立った。


「寒くて当然だ。しかしこれは魂が震えているせいで、気温が下がっているわけではない」


 火竜さんがばさりと羽ばたいて宙に浮く。


「あれは冥界に近いものだ。何を混ぜて作ったのかは知らないが……」


「冥界……冥界術?」


 思えば私を拉致したこの人達は、最初から人を殺して使う魔術なんてものを利用していたのだ。まともじゃない人達の親玉が作った精霊王が、ソラ達のような普通の精霊であるわけがなかった。


「おい精霊王」


 団長様がソラを振り返って言った。


「聖域が攻撃されていても、神は呼べるのか?」


「あの白い木があるだろう? それが守られれば大丈夫だ。彼らもそれがわかっているから……ほら、こちらを攻撃しようとして来る」


 黒い竜が急降下してくる。私達の方へ。

 火竜さんが、小さな体のまま私の頭上を旋回しつつ言う。


「とにかくこやつらを排除せねば、我が住処は破壊されるのだろう魔女よ」


「うん。間違いなく。イドリシアも全て荒れ地になって、山も壊れてしまうの」


 山は崩れて死にたえ、おそらく火竜さんの餌になるような溶岩とかも地の底だ。どちらにせよ火竜さんは、永久に住処には戻れない。


「ならば、多少は手助けしてやろう」


 火竜さんが空へ舞い上がる。その体は急激に巨大化し、元の火竜さんと同じになって黒竜に炎を吹きかける。

 青白い炎が、まっすぐに黒竜に向かった。

 黒竜も、火竜さんごと始末しようと、黒い炎を吐いた。


「精霊の盾!」


 私は火竜さんに防御魔法をかけた。

 けれどその防御魔法を阻害するように、精霊の盾の表面に火花が散り、消えてしまう。


「あ!」


 慌てたけれど、ソラが守ってくれている範囲に火竜さんが降りて、木のすぐそばで黒い炎は霧散する。

 ほっとしたのもつかの間、ミタス達も攻撃をしかけてきた。


 目標は私とソラだ。

 黒ローブが二人、私に魔法攻撃をしかける。

 フレイさんが前に滑り込んで、自分の精霊の盾で弾いてくれた。

 だけど黒ローブは手に短剣を持ってた!


「ちょっ、氷槍! 氷槍!」


 ボタンを押した私の魔法が一人を凍らせつつ衝撃で弾き飛ばし、黒ずんだ木の幹に叩きつけた。

 もう一人はフレイさんが風をまとわせた剣で切り裂きながら遠ざける。風に押されて飛んだ。


 でも黒ローブの男も防御魔法をかけていた。風で宙を舞いながらも、着地しようとした黒ローブの男は、そこに待ち構えていたイーヴァルさんの急襲を受ける。

 それでも黒ローブの男は無理な体勢ながらもかわした。


 ローブの腕が切れる。

 そこを追いかけたフレイさんが一閃し、肩から切り裂いた。


「一人目は片付きましたね」


 イーヴァルさんのそんな声は聞こえたものの、フレイさんがとどめを刺す前に、団長様が側に位置を変えて立ったせいで、黒ローブの男が倒れた姿は見えなかった。


 ……ああ、見えなくしてくれているんだ。私がまた、動揺してしまわないように。


 その団長様は、残るミタスを見据えつつ剣を一振りした。

 刃が伸びて行き、青白く光る。

 ミタスの方は、周囲に黒い精霊達をいくつも従えていた。私がよそ見をしているうちに召喚したものらしい。


 ミタスはその精霊を解き放った。

 数匹はこちらへ来て、団長様が剣を一薙ぎするだけで消滅する。

 けれど他は先ほどフレイさんとイーヴァルさんが倒した人と、氷漬けになった黒ローブの方へ飛んで行く。


「なっ……!?」


 フレイさん達が驚きながらそこから離れる。

 おかげで私にも何が起こったのかがわかった。

 倒れた黒ローブの男がどろりと黒い物体になっていた。黒い色がじわじわと広がり、やがてそれは二つに分かれて――二人の黒ローブの男になっていたのだ。


 黒ローブの男二人は立ち上がる。

 同時に、氷漬けにした方も二人の黒ローブに分裂して、フレイさん達に襲い掛かった。

 フレイさんは何か魔術を使って、四人を足止めしようと試みている。それを補助するため、イーヴァルさんが攻撃を受け止めて、時々自分達から突き放していた。


 団長様はミタスに斬りかかったものの、ミタスは黒い靄の壁を作って退く。

 そこへ鋭い光がひらめいた。

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