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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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始まる対決と…

 ソラ自身は、道の先を見つめながら、歌うように語る。


「僕は相手から攻撃を受けたことで力を減らしてしまった。そのせいで精霊王の剣にまで影響が出て……ずいぶんと長い間、精霊王の剣は周囲から魔力を集め精霊までも殺す、災害を及ぼす剣になってしまった。おかげでリュシアンにはかわいそうなことをした」


「あ……」


 精霊王の剣。

 とても神聖そうな名前の剣なのに、まるで呪われた剣みたいなことになっていたのは、精霊王であるソラの影響を受けていたからなの!?


「でも今は、僕も姿を偽る必要がないほど魔力が回復してる。君のおかげだよ、ユラ」


 ソラは笑顔を私に向けた。


「それでか……」


 前を向いたままの団長様から、うめくような言葉が吐き出された。


「では、もうあの呪いのようなことはないんだな?」


「この戦いが終われば、もう大丈夫。僕もユラのおかげで力を回復できたから」


「戦いが終わったら、か。血の契約は?」


「それは血族に連綿と伝えてもらいたいな。もう、誰かにそしられることもない、ただ持っているだけで精霊に好かれ、精霊の力を借りて戦える剣でしかないから」


「……仕方ない」


 団長様はふっと息をついて枝葉の天蓋に覆われた空を見上げた。

 ソラも同じように天を仰いだ。


「僕が木に魔力を与え終わるまで、ここを守ってくれるかな?」


「わかった。……ユラ、精霊の盾を」


「はいっ!」


 私はステータス画面から魔法を選択。精霊の盾のボタンを押して、全員にかけてしまう。

 ボタンを押すのと同時に発動するため、次々と展開される精霊の盾と、集まる精霊達。


 そして団長様や火竜さん達の前に光の盾がひらめいた瞬間に、緑の天蓋が暗く翳る。

 陽光を遮られたような一瞬の跡、黒い炎が空から振り注ぐ。

 精霊の盾の表面を炎が舐めて行った。


 バチバチと火花が散る精霊の盾に、私は思わず自分の頭を庇ってしゃがみ込んだ。

 精霊さん達がソラの近くに集まって悲鳴を上げる。


「まっくらー!」


「やだー!」


 ソラは何も動揺していなかった。

 すっと手を上げると、精霊の盾よりもさらに上に、池を覆うようにドーム状の淡い光の幕が現れる。

 自分から遠ざかった炎に、精霊やイーヴァルさん、そして私はほっと息をつく。


 やがて炎が途切れた。

 枝葉の天蓋は消え去っていた。池の周囲には、黒ずんで炭になった木々が広がる。そのままの状態を保っていたのは、澄んだ水をたたえた池と、その中に立つ白い木だけだ。


 頭上には、黒い竜の姿があった。黒い炎の原因はこの竜だろう。

 そして木々が消えてしまった道の先、先ほど私達が到着した場所から近づいてくる人影がいくつか。

 黒ローブ姿の男が三人と、白いドレスの女性……メイア嬢だ。


「精霊王か……」


 黒いローブの男の一人がそうつぶやく。

 私はそちらを注視しながら、彼らの向こうを気にしていた。

 周囲の警戒にあたった騎士さん達は大丈夫だっただろうか? もしかして黒い炎にやられてしまったのでは……。


 彼らが心配で、ぎゅっと握った手が震える。

 ゴブリンの集落へ向かった時にも私を助けてくれたり、喫茶店の常連客になってくれていた人達。

 今まで死んでも生き返れないゲームの中で、なんだかんだと言いつつ身近な人が死ぬことはなかったから、なおさらに怖い。


「いつの間に復活した。お前は排除したはず」


 黒ローブの先頭にいた男が、フードを取る。

 痩せた禿頭の人だった。顔のしわからは、おじいさんと言っていい年齢に見える。

 ソラを凝視するその男の表情は、恨み続けた相手が生き返ったとでもいわんばかりの様子だった。


 私はその時、彼らよりもずっと後方の、飛びトカゲ達の姿を目でとらえた。

 舞い降りては空中へ上がる様からすると、何かと戦っている様子だ。

 あの動きは見た事がある。騎士達が飛びトカゲで攻撃している時のもの。


「生きてる……」


 たぶん他の騎士さん達はちゃんとあそこで戦っている。私はようやく握りしめた手から力を抜いた。


「僕は滅びてなどいないよ」


 そう言ってソラが唐突に、私を背後から抱きしめるように腕を回してきた。


「えっ、ちょっ」


 いや、今ってラスボス達と相対するシーンなんですよ? 

 意識が他にそれていた私も私だけど。ちゃんとこっちにも注意は払っていたんです。

 そんな中、死の恐怖に怯えて支え合っているならいざしらず、こんな体勢になるってどうなんですか?


 恥ずかしいを通り越して……すごく気まずい。

 ただ禿頭の老人の方は、さほど気にしなかったようだ。


「それがもう一人の魔女か」


 むしろ私が魔女だとわかって、ものすごくにらみつけてくる。ひぃぃ!


「ユラ……そして、精霊王様が、二人?」


 メイア嬢は信じられないと言う目で私を……いや、私の後ろにいるソラを見ている。ていうか精霊王が二人って、え?


「本当の魔女はユラだけだよ。そして精霊王と呼ばれる存在も一人だけ」


 団長様達は油断なくメイア嬢達を注視しつつ口を閉ざす中、ソラは淡々と返す。


「魔女は本来、精霊に祝福される者。魂を精霊が自ら分け与えた場合に生まれる」


 私は思わずソラを振り返った。

 彼は嘘をついていないよ、というように私に微笑みを見せる。

 精霊に祝福されないと、魔女のスキルは与えられないってこと? でも私、精霊と融合したから魔女になったんだよね?


 ……ってそうか。精霊と融合をさせれば、強制的に精霊の魂を自分が受け取ることになる。だから魔女を作り出そうとした人々は、禁術を施し続けた。

 でも、私とメイア嬢以外は、みんな死んでしまった。

 それは精霊に祝福されなかったから?


「魔女はあなた様だけです、メイア様」


「ミタス……」


 メイア嬢は不安そうに、振り返った禿頭の老人を見ている。

 彼――おそらくソラが、メイア嬢を騙しているのだという人物は、ミタスという名前らしい。


「陛下に仕えていた、祭祀の一人だったミタス?」


 フレイさんは彼の名前を知っていたようだ。彼のつぶやきに、ミタスは応じない。


「祝福ってどういうもの?」


 私は話の腰を折るのを承知で、思わずソラに尋ねてしまった。でも団長様達もこちらの話に気持ちが向いているのを感じる。

 どうして私が魔女になれたのかを、知りたいからだろう。


 私も知りたい。

 田舎町に暮らしていたひきこもり女が、どうして魔女になれたのかを。

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