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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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聖地に到着しました

 フレイさんが先導し、私達は藪の奥にある聖域を目指して移動を開始する。


「面倒だ」


 藪が邪魔で一気に飛んで進めないことにじれた火竜さんが、私の肩に捕まったまま火を吹こうとした。


「ちょっ、火竜さん私がやけどする!」


 慌てて口を掴む。


「お前なら、防御魔法でなんとかできるだろうが」


 火竜さんはそう言うものの、初級魔法しか使えないことになってる私がそんなことしたら、フレイさんの隊の人達にいろいろ異常がバレるじゃないですか!

 と思ったら、団長様が精霊達に命じてはびこる蔦や枝葉を除けさせた。


「これは精霊の結界の一つだからな。精霊に解かせるのが一番だ」


 ばさばさと枝葉が落ちて風に吹き飛ばされ、蔦が移動していった。さすが団長様。

 そして精霊王の剣を持ってると、本当に精霊に命令を聞かせられるんだなぁと思う。

 藪が取り払われると、その先に細いながらも石で舗装された道が続いていた。

 私達はその道を進む。


「あ、ユラさん。あまり下を見ないで……」


「うっ……」


 フレイさんの注意が耳に届く前に、足元を見てしまった私の視界を、とんでもないものがかすめた。

 繁みの端に、骨が見えたのだ。

 すぐに視線はそらしたのだけど、その先の木々の間にも、なんか服の残骸みたいなものと白いものが見えて、あわてて上を向いた。


 身震いして、足が前に進まなくなる。

 だってここにあるのは、どう考えても人の骨。イドリシアが侵略されたりした経緯からして、それしかありえない。タナストラ側なのかイドリシアの人なのかはわからないけど。


 一度深呼吸してから、手を合わせて拝んでしまう。


「なんまんだぶ……」


「それは何の祈りの言葉だ?」


 先を歩いていた団長様が、足を止めた私に気づいて振り返った。


「ええと、住んでいた場所の風習で……死んだ人の魂が安らかであるように、というような祈りの言葉らしいです」


 住んでいた場所といっても、前世のだが。


「初めて聞く言葉の並びですね。どこか異国からの移住者がいる土地だったのでしょうかね?」


 イーヴァルさんも不思議そうだが、異国どころか異世界の風習なので、聞いたことがなくても当然なんです。

 さらに進むと、緑のトンネルが続く石畳の道が終わる。


 到着したのは、泉だ。

 ものすごく澄んだ透明な水は、水底が真っ白な砂だからか、少し離れると空の色を映して真っ青に見える。

 近づくと、水底の砂やぽつぽつと転がる石が見えるものの、水草はない。


 ……底の方で砂がぽこっと浮き上がっているので、湧き水だと思う。ただし水草も魚もいないので、成分的に生き物がいられない水なのかもしれない。飲むのが怖いな。

 だけど泉の中央には、一本の白い木が伸びていた。


 泉の底に根を張り、枝には紫の葉を茂らせていて……泉の青の色と、うっそうと茂る周囲の木々からの木漏れ日を受けて、とても幻想的な光景だ。

 そこにぽつぽつと蛍のような光が、泉から湧き上がっては宙を漂う。

 神聖な雰囲気をさらに添えていて、聖域と言われても納得できるものだった。


「ここが……聖域ですか」


 ほぅ、と息をつく私の背中からふわっと飛び立った火竜さんも、感心したようだ。


「聖域か。あるのは知っていたが、来るのは初めてだ。火山にいなくとも、魔力が満たされる気がする」


 それは火竜さんが半分精霊的な存在だからかな?

 思えば精霊の姿もあちこちに見える。みんなとても元気そうだけど、力が満ちてるのかは、私には判別がつかない。


「ここを守れればいいんだが……」


 団長様の視線が泉のほとり、右側の方に向けられる。

 そこにも白骨化した遺体があった。

 側で土に埋もれている衣装が、厚手の布地に華麗な刺繍がほどこされているのが見てとれる。


「陛下……」


 フレイさんのつぶやきは、私にしか聞こえないくらいの小さなものだった。でもそれで、遺体がイドリシアの最期の王様のものだと察した。

 そうか、イドリシアの王は間違いなくここへ来たんだ。そして、そうでもしないとタナストラ人の侵入を防げなかったのだ。


 そこでふと疑問に思った。

 タナストラには、イドリシア人の内通者がいた可能性が高い。イドリシアの人が聖地に入れるのなら、この結界は無駄にならないだろうか? その人が代理でことを成せばいいのだし。


 だとしたら、王様が張った結界は『タナストラの人間を阻む』ではなく『イドリシアの王族以外を阻む』だったのではないだろうか。

 それならメイア嬢だけ入れないように、精霊王に願えばいい?


「あの、団長様、フレイさん」


 私は二人に、自分の考えをどう思うか問いかけてみた。


「もしかして精霊王に、イドリシアの人もフレイさん以外は入れないようにする、という形にしてしまえばいいのではないでしょうか。そうしたら無駄に戦う必要もなくなりますし、メイア嬢を倒すとか、イドリシアの人を倒すなんてことはしなくても、あきらめてくれるかもと思ったのですが」


「精霊王を呼ぶ……か。お前の魔力量なら問題ないだろうが」


 団長様がちらっと視線を向けたのは、フレイさんの隊の人だ。

 そんなことをしたら、私の異常がおもいきりバレますよね。


「いいんです団長様。隠す方を優先して、魔女の暴走を招いて沢山の人が犠牲になるよりも、黙っていることをお願いした方が早いですから」


「確かにそうだが……」


「お茶でなんとかならないのかい?」


 心配顔のフレイさんに尋ねられて、私は首を横に振る。

 今まで精霊に、ソラを呼ぶときの対価でお茶を求められたことはない。おそらくお茶では呼べないのだ。……どういう仕組みかはさっぱりわからないけど。


「ただ、お菓子を使います。精霊のおやつというアイテムになるお菓子を」


「おや……つ?」


 わけがわからないという表情をされる。団長様に。横で聞こえていたイーヴァルさんも、目を丸くしていた。

 でもそう表示されるんです。


「とにかくこれで、精霊達が王様と呼んでいる存在を呼んでいるんです」


「呼んでいる? 今までもか!?」


 さすがの団長様も、驚愕していた。

 おかげでちょっと離れた場所で、来た道の方を警戒していた他の騎士さんもこちらを振り向いた。

 私は事実なのでうなずく。


「なんというでたらめな力……」


 イーヴァルさんが空を仰いで、フレイさんが苦笑いをしたままだ。

 さっきからフレイさんの表情が変わらないのだけど、もしかして考えることを放棄してませんか?


「今更何を言っているんだか」


 火竜さんがあきれ顔をしていた。いや、無茶言わないでください。

 たぶん私だって、団長様が『菓子で精霊王を召喚する』って言い出したら、正気を疑いますとも。


「一応、他の騎士さん達には驚かないように説明しておいてください。精霊の愛し子だけど、禁術の影響でより精霊に近いのだとか、理由をつけてくださると有難いです」


 ギリギリまでは魔女ではないことにしておきたい。別な理由をでっちあげた方がマシだ。私の心理的にも。

 私の頼みにフレイさんはうなずき、自分の隊の人達五人に説明をしていた。

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