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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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メイアの戸惑い2

 でもその四日後には、第三王子が申し訳なさそうな顔をしてやってきた。

 アーレンダールへ攻撃を仕掛けることになったらしい。


「もしあなたの力が本物であっても、西方と交渉を続けている間に背後からアーレンダールに攻め込まれては困る、と父王が言うのです。なのでアーレンダールがこちらへ攻撃をしてこないように、タナストラに脅威を感じるようにさせたいのですが」


 だから国境周辺に少しでいい。魔女の力でアーレンダールへ被害を与える攻撃をしてほしいらしい。

 メイアは考えた。

 いくら自分に冷たく、そして行動を縛り続けた土地とはいえ、アーレンダールは故郷だ。そこを攻撃するのは……。


 ためらい、メイアは返事を保留にした。

 そんなメイアの気持ちを見透かしたミタスが、王子が立ち去った後でそっと背中を押す。


「メイア様。この攻撃をすることで、アーレンダールも大きな戦争を避けられます。なら、良いことではありませんか?

 ほんの一部は攻撃を受けて傷つくかもしれませんし、タナストラに一時的には不条理な条約を結ばされるかもしれません。でもすぐにタナストラは地図から消えるのです。我らがタナストラの王都を焼き尽くすのですから」


 そうだった、とメイアの心はすぐに傾く。

 タナストラはなくなってしまうのだ。

 それなら不利な状況になってもすぐ回復できる。アーレンダールには少数の犠牲としばしの間だけ我慢してもらえればいい。

 だからメイアは東へ赴いた。



 攻撃する場所は、シグル騎士団領ではなかった。

 夜明け頃に到着したメイアは、そのことにほっとしつつ、再びあの薄紅色の鉱石に力を込めた。

 けれど今回は鉱石にあらかじめ込められていた魔力が少なかったのか、前回と同じ程度の魔力を奪われても、まだ充填率が不足していた。


「ご安心ください。この方がいますよメイア様」


 ミタスがそう言うと、持っていた魔法陣を描いた紙片を広げ、呪文を唱える。

 呪文の内容ははっきりとは聞こえない。ただぴりっとしびれるように空気の感覚が変わった時、メイアは少し嫌な感じがした。


 でもすぐにその感覚は吹き飛んだ。紙片の魔法陣から広がる魔力の大きさに、目を見張る。

 圧倒的な魔力の強さ。

 やがて魔法陣から現れたその人物を中心に、魔力は空気の渦を作り、収まっていく。


 現れたのは、黒い髪の背の高い青年だ。でもメイアにはわかった。

 彼は人の姿をしているが、精霊だ。

 誰かに似ているように思えた。そう、メイアが知っている人……例えば、リュシアン。

 彼と面差しが近くて、メイアは思わず凝視してしまう。


「精霊王よ、どうぞ魔女に魔力をお与えください」


 ミタスがうやうやしく彼の前にひざまずく。


「せいれいおう……」


 この方が、とメイアは目を見開く。ぼうぜんとしている間に、黒髪の精霊王はメイアに手を伸ばした。そして頬に触れ、指先で唇に触れたとたんに、どっとメイアの中に足りなかった魔力が満たされて行く。


「あ……」


 一気に魔力が満たされて、メイアはよろめいた。けれど自分の役割は忘れていない。

 あの薄紅色の鉱石に手を触れ、今精霊王から受け渡された魔力をそこに移動させた。

 無事に鉱石は赤い輝きを灯したけれど、大量の魔力を何度も移動させたせいで、メイアは疲労困憊していた。


 だからガラスの円筒から離れたところで、用意された椅子に座って休みながら兵器の発動を見届けたのだけど。


 ―――イアアアアアアアアア!


 前回と同じように、嘆きの声が聞こえた。

 思わずメイアは耳を塞いだものの、目は見開いたままだった。


 地響きと、立ち昇る土煙に目を奪われたわけではない。

 ガラスの中にいた精霊達が、燃やされて炭化するように黒く染まって、ぼろぼろと崩れていくのを目の当たりにしたからだ。


「え……」


 前回は、魔道具の効果に注目していたから気づかなかった。ことが済んだ後に見たら、ガラスの円筒の中には精霊はいなくて、ミタスの『逃がしましたよ』という言葉を信じていたのだ。


 もしかしてあの時も……精霊は死んでいたの?

 私が魔力を足したから、精霊達はもう必要なかったはずなのに!?

 あの叫び声は、精霊達の断末魔?


 気づいたら、全身が細かく震え出した。カチカチと歯が鳴る。

 そんなメイアに近づいてきたミタスが、慰めの言葉をかけた。


「大丈夫ですよメイア様。今日の犠牲で、タナストラはこの兵器以外での侵攻はしなくなるでしょう。結果、アーレンダールを守ることができました」


 ミタスを恐る恐る振り返る。

 このミタスだって精霊術師だ。精霊のことを愛しているはずなのに、彼らを紙を燃やすように消費しても、何の動揺もその顔には表れていなかった。


 どう対応していいのかわからない。とにかく考える時間がほしくて、ミタスに合わせて微笑んでみせるつもりだった。

 けれどメイアの視線は、ミタスの横にいた精霊王に吸い寄せられる。


 リュシアンに似た精霊王の彼とは違う黒い瞳。本当のリュシアンならば、こんなことをしたら非難されるだろう。だから視線をそらしたかったのだけど。

 精霊王が、メイアに小さく微笑んだ。

 何も問題はないと言わんばかりのその笑みに……なぜか不安が消え、自分は正しいことをしている気になった。

 落ち着いたメイアの様子を見て、ミタスが「ですが問題が起きました」と告げる。


「問題が?」


「左様です。イドリシアにもう一人の魔女が移動しようとしています」


「イドリシアに?」


 もう一人の魔女――ユラ。

 まさか、彼女も神を呼ぼうとしているのだろうか。


 何のために?

 メイアは眉をひそめながらも、計画を前倒ししてイドリシアに向かうというミタスの言葉にうなずいた。

 自分達は良いことをしているのだ。それを阻止されてしまっては困るのだから。


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