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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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私の疑惑を誤魔化します 2

 案内の騎士に先導されてやってきたのは、砦の広間だ。

 長い木のテーブルと沢山の椅子がある。普段は沢山の騎士達が食事をしている場所なのだろう。


 待ち構えていたのは、タナストラの隊長さんと壮年の短い金髪の頭頂部が薄くなってきている男性だ。

 アーレンダール王国にいる司祭さんと同じく、青いケープ付きローブと、金の縁取りがあるサッシュを腰に巻いている。


 司祭さんは、団長様を見て「おおお」と感動したように声を上げ、駆け寄りかけて……足を止めた。

 その視線が、団長様の肩にいる火竜さんに向けられている。


「あの……その、それはまさか」


 竜ではないかと怯えているのだろう。説明しようとした団長さまだったが、先にタナストラの隊長さんが言う。


「飛びトカゲの子供だそうですよ。暴れないように、魔法で契約をしているとか」


「そうでしたか」


 司祭様はすぐにそれを信じて、ほっと息をつく。

 私達はあえて違うとは指摘せず、黙っていた。

 それにしても、これで騙せるとは思わなかった。本物の竜なんて普通は見ないし、飛びトカゲの子供も間近で観察できる人も少ないから、信じやすいんだろうな。

 司祭様はあらためて仕切り直した。


「精霊教会の一員として、精霊王の剣を持つ方とお話ができることを神に感謝いたします」


 天井へ向かって祈りをささげ、司祭さんは団長様に手を差し出す。

 団長様は無表情でその手を握り返した。


 ……たぶん、アーレンダール王国内でも精霊教会へ行くとこんな感じの対応をされているんじゃないのかな。団長様としては精霊王の剣に嫌な思い出ばかりがあるせいで、素直には喜べないのだろう。


「司祭殿、ご挨拶はそれぐらいで」


 タナストラの隊長さんが司祭様を止める。


「おお失礼しました。それで、魔女の疑いがあるという女性は、そちらの方ですな?」


 司祭さんは私の方を向く。そしてじーっと探るように見て来た。

 魔女だとは気取られるわけがないと思いつつ、ちょっと緊張する。

 変な行動はしていないよね? まだ会ったばかりだし。精霊さんも何も言っていないはず。


 何かあっては困るので、ここへ移動する道すがらステータス画面は出しておいたけれど、ふっと通り過ぎていく風の精霊さんも、窓辺に座っている星の形をした光の精霊さんも、特に変なことは言っていない。


《風の精霊:ユラだ。こんちわー》


《光の精霊:うふうふふふ》


 しいて言えば光の精霊の含み笑いが気になるが、危険な言葉は口走っていないので大丈夫だろう。

 ややあって、司祭さんはうなずく。


「なるほど。あなたは精霊の愛し子でもあるのですね」


「あ、はい」


 ボロを出さないように、私は短く返事をする。


「魔女は精霊を操る者とおとぎ話で聞きますが、精霊の愛し子だというところを勘違いされたのでしょうかねぇ。そもそも言い伝え通りの魔女でしたら、精霊王の剣の持ち主が見逃すわけもないと思うのですが」


 司祭さんの言葉に、苦笑いしそうになる。

 その精霊王の剣の持ち主様にはすでにバレていまして、管理下に置かれているんです。


「次に、討伐者登録をしていると聞きましたので、測定石を見せていただけますかな?」


 言われて測定石を差し出す。

 ステータスを示す光のラインは、ソラに頼んだ時のようにきちんと『普通』の範囲の伸びで止まる。司祭さんはそれを見て一つうなずく。


「一応、特殊な魔法を使われるというか……魔法薬を作っていると聞きましたので、その実演をしていただきましょう。その際に……」


 と、司祭様がポケットから取り出したのは、二つの鉄の腕輪だった。なんというか、鎖でつながっていたら手錠かなと思うような形のもの。


「念のため、強すぎる魔力を発した場合に、抑える腕輪をつけて作業をしていただけますか?」


「かまいませんよ」


 微笑むと、精霊教会の司祭さんがやや気の毒そうな顔になった。初対面の私にここまで配慮してくれるのは、団長様のご威光あってのものなんだろうなぁ。

 私は腕輪をカチリと装着。

 物理的に腕が重くなっただけで、特に影響は感じないので、さっそく紅茶を淹れることにした。


 席に座って飲むのは、タナストラ側が国境騎士隊の隊長さんとその部下だという人が二名。三人も屈強そうな人が座って並んでいると、それだけでなんか圧迫感がある。

 タナストラ側は万が一のためか、魔法も使えるのだろう細身の騎士や体育会系の騎士達が、五人ほど窓際に待機している。


 アーレンダール側は団長様、イーヴァルさん、フレイさんが着席。

 他の騎士達は壁際で待機だ。

 そしてお誕生日席に司祭さんが着席して、お茶を飲むのは全部で七人となる。


「まずこれが、私が作った紅茶です。作成時には精霊が協力してくれています」


 確認してくださいと、司祭さんにお茶の缶ごと見せる。

 司祭さんは「ほうほう」と缶とお茶を確認。精霊を呼び出して、ふわっと寄って来た星型の光の精霊に尋ねた。


「これは何だね?」


《光の精霊:お茶だよ! ユラが作ったやつだ》


 まんまな答えを聞いて、司祭さんはお茶を淹れる許可をくれる。

 お茶を淹れるにあたっては、特に問題は起きない。

 カップに注ぎ、テーブルについている全員分に私は配った。


「どのように確認していただいても構いません」


 司祭さんはそのカップをしげしげと見て、また呼んだ精霊に尋ねていた。

 タナストラの隊長さんは、念のためだと言いながら、自分とイーヴァルさんのカップを取り換えたので、それならとフレイさんもタナストラ側の騎士とカップを交換していた。


 フレイさんとカップを取り換えたのは、ものすごく表情が緊張で固かった人だ。タナストラの隊長さんよりも私を疑っていたんじゃないのかな。カップを交換できたからか、少し表情が和らいだ。


 それが終わると、団長様達は飲み始めてしまった。ため息混じりだったので、さっきの私のお茶の説明で何か疲労していて、とにかく回復したかったのかもしれない。

 あっさりした団長様達の様子に、タナストラ側の人々は目を瞬く。


 その時司祭さんが許可を出した。


「大丈夫でしょう。このお茶に問題はないと思います」


 タナストラ側の人々、司祭さんもお茶を飲み始める。


「ほぅ……これは。確かに疲労が消えていく」


 最初に声を上げたのは、タナストラ側の騎士さんだった。とてもお疲れだったみたいで、変化がはっきりとわかったようだ。


「確かに確かに。なるほど魔法薬のような茶ですな」


「……まぁ、魔女の話など眉唾ものだと思ったが。これで安全だとわかった。我が国の国王陛下には精霊教会の司祭殿と共に、疑いは事実無根であったと知らせを送っておく」


 タナストラの隊長さんも納得してくれたようで、無事に私の魔女疑惑については、上手く騙すことができた。良かった良かった。

書籍版四巻発売中!同月発売の文庫もよろしくです。

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