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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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タナストラ国境へやってきました 1

 ――その日の昼まで、タナストラの国境ではゆったりとした日常が続いていた。

 先日は近郊に火竜が現れたものの、国境に被害はない。


 国内が一時騒がしかったこともあるが、そちらも国境からは少々離れた場所だ。

 多少は出入国に気を配る必要はあったが、それだけだ。大きな変化はなかった。


 隣国アーレンダールから人質が来ると聞いたが、そちらも飛びトカゲに乗って上空を通過して行ったので、国境の砦には関係なし。

 直近の問題といえば、アーレンダールの騎士団から、魔女疑いの者が来るということぐらいか。


 でも砦に詰めている人間全員が『どうせ言いがかりをつけたんだろ?』と思っていた。

 しかも連絡を飛ばし、『こっちも準備があるから三日後に来てよ』と伝達したので、まさかこの日に問題が起こるとは思っていなかったらしい。



 ……そのようなわけで、私や団長様以下アーレンダールのシグル騎士団一行が到着した時、タナストラの国境の砦は騒然としていた。


 飛びトカゲでやってきて、国境の門の前にこちらは着地したというのに、タナストラ側も慌てて門から走り出て来る者、飛びトカゲで一度空を舞い上がってから私達の側に下りて来る者もいた。

 この混乱ぶりに、先方の驚きっぷりがわかるというものだ。


 私の方は「ほー」と様子を眺めるばかりだった。

 さて、私の他にやってきたのは、団長様とフレイさんとイーヴァルさん。そしてフレイさんの第一部隊の五人で、総勢九名。

 加えて、団長様の肩にちんまりと座っている火竜さんだ。


 ……ちなみにお留守は、副団長さんとオルヴェ先生に任せてある。

 タナストラの人達は、一歩前に出た団長様を見て驚いた。


「シグルの団長が乗り込んできた……」


「肩にいるのはもしかして、飛びトカゲ?」


「小さい飛びトカゲの子供、可愛い……」


「おい、どこに驚けばいいんだ?」


 火竜さんにも驚いていたようだ。しかも飛びトカゲの子供だと勘違いしてくれている人もいる。

 混乱を深める彼らに、団長様が言った。


「アーレンダール王国シグル騎士団のリュシアン・ラーデ・アルヴァインだ。先に知らせた通り、そちらが魔女だと疑っている者について、疑いを払拭するべく訪問した。そちらの国境騎士隊長に目通り願いたい」


 団長様の言葉に、タナストラの騎士達は戸惑ったまま相談を繰り返し、すぐに中へ通してくれることになった。

 団長様の身元について、疑う必要がなかったから、というのが理由の一つだろう。


 銀髪で、しかも団長様並みの容姿を持つ人物となれば、替え玉を作るのは不可能だ。しかも公爵位も持っているから、対応はぞんざいにできない。

 だから一方的な通告の上で押しかけても、先方の隊長さんと話をすることができるのだ。

 わかっていて実行した団長様も、なかなか強引である。


 けれど不意打ちは必要だった。

 タナストラ側がいちゃもんをつける準備を整える前に、私が魔女ではなく、火竜さんも暴れた当人ではなく子供だということを認めさせねばならないのだから。


 とにかく国境を穏便に越えないと、追手がかけられて面倒なことになるので、ここでしっかりと騙さなくては。

 私はどきどきしながら、団長様と一緒にタナストラの砦の中に入ることになった。

 が、直前で止められる。


「ま、待て。その娘は何だ? まさか魔女だというのか?」


 私が唯一の女だからと引き留めたものの、タナストラのちょっと年かさなお鬚のある騎士さんは、困惑気味だ。

 なにせ私は魔女らしい格好をしていない。完全な喫茶店の娘スタイルだ。エプロンもかけたまま。手にはお茶やらが入ったバスケットを持っている。

 てきとうに町娘を連れて来たようにしか見えないだろう。

 魔女だと言われても、想像と違って困ってしまったのに違いない。


「フン。確かに見てくれだけなら、指先でひねりつぶせそうなのだがな」


 団長様の肩の上にいる火竜さんが、そんなことを言う。

 火竜さん、あなたにとっては全員が指先でひねりつぶせそうなサイズに見えるのではありませんかね?


 でも火竜さんの物騒なつぶやきは、グルグルと言う唸り声としか私や団長様以外には認識されない。

 火竜さんがその気になれば言葉は伝えられるそうなのだけど……。一生このままで結構です。物騒すぎるんで。


「うちの騎士団に在住している女性は、彼女だけなのですよ。魔女だと疑われたのは彼女しかいないだろうということで、連れて来たのですが、何か?

 そもそも魔女かどうか確認したいと言ったのはそちらでしょうに。別にアーレンダール国内にいる限りは、私達はそちらに疑われても特に問題ないのですがね。

 妙な疑いが発端で小競り合いになっても面倒なので、『ありえない』と思いながらも連れて来たのですよ?」


 イーヴァルさんがつらつらとこちらの言い分を並べ立た。その勢いに押されてタナストラの騎士は一歩引く。


「わ、わかった」


 こうして私はようやく砦の中に入れたのだった。


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