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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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魔女っていう存在は

 私はソラがいた場所を見つめ続ける。

 カーテンをかけた喫茶店の窓辺。そこにソラはもういない。


 しばらく私は、ソラに言われたこと、魔女を辞められないことを頭の中で整理して……ぽつりとつぶやく。


「やっぱり、団長様達の側に居られないよ」


 私がそう思わない限り、実行はできないんだと思う。今までだって、誰かを操ったことなんてない。

 だけどメイア嬢を止めるために力を使ったら。それを見られてしまったら別だ。


 ――いつか私がその力を他の人に向けるかもしれない。


 そう団長様達に思われるのが怖い。


 だけど私一人で敵を倒せるわけがない。

 イドリシアの精霊術を使える人達だっているし、メイア嬢を操ってるって人を、彼女を止めながら私一人で対処できる自信はないもの。

 だから団長様やフレイさん、イーヴァルさんにはバレてしまうだろう。

 でもその後は、一人で消えよう。


「……どこで暮らそうかな。というかどうやって暮らしていこう」


 こんな力があるんじゃ、もう紅茶を売るわけにはいかない。飲んだ人を自分が操れるんだと知っていて売るなんて、心理的な抵抗がある。

 アーレンダールを守りきって魔女の件が落着するまでは仕方ないけど、それ以後は封印してしまおう。


 そうしたら、お祖母ちゃんと暮らした家に戻ろうか。

 あの町の人達は、今でも私をひきこもりのユラだと思ってる。

 前ほどじゃなくても、頻繁に人と顔を合わせずに小間物屋さんを続けていくだけなら、なんとかなるかも。

 団長様やフレイさんには、気持ちは受け取れないと言えば追いかけて来ないだろう。


「いや、だめだよね」


 例えばタナストラやイドリシアの魔女を作った人達の仲間とか、知る機会のある人はいるはず。

 うっかり私のことが広まって……お祖母ちゃんのことまで悪く言われるのは嫌だ。


「やっぱり外国に行こう。ヨルンさんにも内緒にしなくちゃ。紅茶を売ってくれって頼まれても、もう無理だもの」


 イーヴァルさんに頼んでおけば、いずれ紅茶に似たものを開発してくれるかもしれない。

 それをイーヴァルさんとヨルンさんで売ってくれたら、ヨルンさんも突然紅茶を止めると言っても怒らないでいてくれるか?


 なにより団長様もフレイさんも、私がいなくなったら彼らにふさわしい人を選ぶ。たまたま魔女になった不幸な田舎娘のことなんて、放置するべきなんだ。


「いやいや不幸じゃない」


 精霊さんとも意思疎通ができるから、寂しくない。ひきこもり時代とはくらべものにならないぐらいに、私は見守ってくれてる存在と一緒にいられる。

 火竜さんは念願の自宅に戻してあげたいから、お別れだけど。


「火竜さん、自宅に戻れたら大人しくしてくれるのかなぁ。問題があったら、団長様に任せるしかなくなるけど……私はもう会えなくなるし」


 火山だって言ってたから、森を火の海にしなくても食料はあるはずだけど。

 なんてつぶやいていたら。


「我がなんじゃと? そしてお前はここではない場所で暮らす気か」


 振り向くと、客席のある部屋の方から、火竜さんが入って来ていた。

 五本の指で器用に窓を開けてきたらしい。


「あ……火竜さん」


 独り言を聞かれてしまったら、その内容が何であれ気まずいことに変わりはない。ましてや本人に関わることとか、誰にも知られずに実行しようとしていたことに関わるものとか。

 ぎこちなく笑顔を作った私に、火竜さんがふんと鼻から煙を吹いた。


「お前、我が住処へ戻っても監視する気だったのか?」


「え!? そんなことしませんよ」


 移住するにしても、イドリシアにはフレイさんが行き来するだろうから住めないし、別な所に住んだとしても、いちいち火竜さんに会いに行くのは大変だもの。


「ならばいい」


 火竜さんにあっさりと言われると、むしろこっちの方が寂しくなる。けど、どうにもできないのだから追いかけるのも間違っている。

 と、そこで私は火竜さんに頼んだ。


「あの、誰にも教えないでくださいね。私が、いずれこの騎士団以外で暮らすつもりだとかそういうことは。精霊さん達にも口止めはしますけど、火竜さんからも精霊さんには言わないでほしいんです」


 団長様やフレイさんを心配させたくない。

 だけど黙って出て行かないと……。二人とも優しいから、引き留めた上でかばってくれるだろう。でもそれじゃ迷惑をかけてしまう。


「まぁよかろう。精霊も魔女に依頼されれば黙ったままでいるだろ」


 ため息交じりの火竜さんの言葉に、私は疑問を持つ。


「魔女が依頼すると、精霊さんは何でも聞いてくれちゃうんですか?」


 今まで「お願い!」と頼んで、聞いてくれなかったことはない。だけど精霊さんがとても気のいい人達だから、快く聞いてくれるのだろうと思っていた。


「知らんのか?」


 魔女なのに、と言わんばかりの火竜さんに私は素直にうなずく。


「精霊が魔女の頼みを聞かないわけがない。そういう存在だ」


 火竜さんの答えに、私はびっくりする。


「魔女のお願いは全部叶えてくれるんですか!?」


「我はそう聞いたことがあるがな」


「……魔女ってなんなんですかね」


 つい、そんな言葉が口から滑り落ちる。

 人や精霊まで操ることができる存在。魔力が大きいから、そんなことが可能なんだろうか。


「精霊にとっては、その声は慕わしい仲間からの歌声や、悲鳴として耳に届く。助けてやらねばならぬ、とな」


「ああ……」


 そうか、と私は思う。

 だから魔女の魔力が暴走すると、周囲が荒野になってしまうのかもしれない。

 魔女の悲鳴に同調して、精霊達も狂乱してしまい……共に滅びようとするのだ。

 そして魔女になるため精霊との融合が必要なのは、彼らに仲間だと思わせなければ、彼らの力全てを引き寄せることができないから。


 望んでなったわけじゃないけど、本当に魔女ってとんでもない……。


 その後、火竜さんに作戦の話をした。


「人間達を騙してほしいんです! きっとからかいがいがありますよ! 自分の行動一つでほだされる人間を見るのは、気分がいいのではありませんか?」


 と私なりに頭をひねって説得したところ、


「騙すのならばやぶさかではない」


 と同意を得たので、作戦は決行されることになった。

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