そして今後は
「問題は、タナストラを放置していると、後からどんな難癖をつけて攻撃してくるかわからないことでしょう」
団長様の言葉に、陛下が楽し気にうなずく。
「うんうん。それでねリュシアン。タナストラへ行って、無実だってことを認めさせて来てくれる? 私からの書状は、もう書いてあるから渡すわね。……精霊王の剣を持つあなたを、あちらも無下にはできないでしょうし、身柄については精霊教会に睨まれたくなくて、滅多なことはないと思うのよ」
「謹んで拝命いたします」
団長様が一礼する。
そうしたら団長様はタナストラへ出かけるの? 今の時期に行動って危なくないかな……。
私が勝手に内心でハラハラしていた時だった。
「失礼いたします」
一人の侍従が入って来た。
部屋に入ってすぐ、侍従は持っていた書状を陛下に差し出す。
「国境からの知らせです。急を要するかもしれない、とのことです」
「わかったありがと」
陛下はすぐにその場で内容を確認し、ふーっとため息をつきながら、それを無言で団長様に渡した。
受け取った団長様はそれを見て、私やフレイさんにわかるような形で発言する。
「タナストラが西の国に兵器を使って攻撃をした……ということですか」
「そのようね。しかも一撃で一軍を崩壊させるものというのは、ちょっと危険ね。ただ、以前にも一度は使われているみたい。イドリシアへの侵略の時に」
「侵略の時に……一気に大量の民を殺せた理由だろうと言われたものですか」
陛下に応じる団長様は、無表情のままうなずく。
フレイさんも思い出してはいるだろうけれど、表情を消して何も感じていない風を装っている。
「それ以来使用していないのは、使うのに制限があるんでしょうね。たとえば部品とか。でも最も考えられるものは……魔力とか?」
「魔力」
私は大量の魔力源になるだろう人が、タナストラへ移動したのを知っている。
同時に、タナストラに関して起きるイベントを思い出した。
文字だけで、すでに実験済みという話が書かれていたけれど。アーレンダールを攻撃する前に、西の国を攻撃しているのは確かだ。
ということは、次のアーレンダールへの攻撃も迫ってる?
私は焦った。
ちょっと待って。これを言うべき?
でも今ここで話しても、半信半疑になられたりしない? そもそもなんでそんな情報を知ってるんだとか言われそうだし。
誤魔化すために、次はアーレンダールも攻撃するんじゃないでしょうかと言えば、予測の範囲内の話になって、確実に起こることとして対処はしてもらえないだろうし。
魔女だということを知っている団長様やフレイさんでも、この話については頭から信じるわけにはいかないだろう。
「まだ早馬でタナストラに潜入していた者が知らせてきた段階だから、起こって間もないってことね……。でも、あのメイア・アルマディールが魔女だって見解なんでしょう? リュシアンとしては」
「はい。おそらく間違いないだろうと考えています」
陛下と団長様の会話で、タナストラにいるメイア嬢が関係しているだろう、と陛下が推測してくれたことがわかった。
「タイミング的にも、彼女がタナストラに加担した……と考えるなら、あり得る話よね……。もし早めに行動できるなら、そちらの方についても情報を集めてくれたら嬉しいわ」
陛下はそう団長様に依頼したのだけど。
情報を集めるだけでは、間に合わないかも……。
西の国の次に攻撃されるのは、アーレンダールだ。この王都ではないとはいえ、アーレンダールの人が傷つくのは避けたい。とはいえ私一人の力でどうにかできるかどうか。
メイア嬢を戦って倒すことは可能かもしれないけれど、メイア嬢には仲間がいて、その人達が死ぬのを見た時、私が動揺しないかどうか、自信はない。
それにどんくさい私では、ふいうちで殺されてしまうのが目に見えている。……紙装甲だしね。
ただ私が魔女ではないと信じている陛下の前では、団長様と相談はしにくい。
なのでその場では、黙ることしかできなかった。
しかし話のきっかけは、陛下の元を辞去してすぐに団長様がくれた。
「ユラ、フレイ。すぐにシグルに戻る。ヴィルタと王宮の飛びトカゲを利用すれば早く戻ることができるだろう。今日中に出発できるか?」
団長様は即行動するおつもりらしい。
尋ねられて私とフレイさんはうなずく。
「魔女についての話し合いは、シグルに戻ってからイーヴァルを含めてするべきだろう」
団長様の言葉に、私も同意だ。魔女について話すのも、シグルのお城に戻ってからの方がいい。うっかり誰かに聞かれたら困るものね。
私は急いで支度をすることにした。
荷物はそう多くはない。それをまとめて、元々の服に着替えた。……しばらくドレスばかり着ていたので、軽くて息をつきやすい。
ふーっとため息をついてしまった。
そしてお借りしたドレスを返そうとしたのだけど。
「こちらはお持ちくださいませ」
「えっ。でも借り物をいただいては……」
「全てユラ様に合わせているドレスですから。ここからまた直すと時間もお金もかかりますので、ぜひお持ちくださいませ。また陛下に呼ばれることもあるかもしれませんし」
「え、陛下、お呼びになる……おつもりですか?」
頭の隅をよぎったのは、先ほどの退出時に「また来てねユラ!」と笑顔で手を振った陛下の笑顔だ。
社交辞令だと思っていたのだけど……ベアトリスさんがこう言うって、まさか呼ぶための予告だった!?
「それにこのままでは寄付にするしかありませんわ。陛下が用立てて下さったものをすぐに寄付してしまうなんて、申し訳ないとお思いになるでしょう?」
……ぐうの音も出ません。国王陛下が用意してくれた服を、私いらないからどこか見知らぬ人に寄付して! とか言えない。ごめんなさいって謝るしかない。
結局はベアトリスさんに押し切られて、私はドレスを荷物の中に加え(すでにベアトリスさんが持ち運びできるトランクを用意してくれていた)出発の準備は完了。
そして私は火竜さんと一緒に団長様のヴィルタちゃんに同乗させてもらい、フレイさんは王宮の飛びトカゲを借りて、すぐさま帰途に就いたのだった。
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