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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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エリック王子の思惑について聞きました

「はぁー良かったわね。冤罪だって証言する人間も確保できたし、万事解決!」


 両手を広げて喜んだのは、陛下だ。

 今はあのお茶会の翌日。あらためて陛下と団長様、フレイさんと私で会い、その後の話を聞いていた。


 まず逃げた貴族。

 彼は間違いなく、魔物の元となった物を持っていた。

 冥界と親和性が高い金属で作られた腕輪。


 彼は王宮のパーティーで酒を沢山飲んだ後、酔い覚ましに庭へ出たところで、気に入らない貴族が病気になってくれたら……という願望をつぶやいたそうで。

 その時に、ふいに現れた貴族風の衣装を着た男にそれを渡されたそうだ。


『願いが叶う腕輪ですよ。あと、これを受け取ってくれさえすれば、今聞いた内容は他言しませんので』


 という勧誘だか脅しだかわからないことを言われ、酔っていた彼はつい受け取ってしまったのだとか。

 相手の名前をつぶやいてしまったので、それを言いふらされるのはマズイと思ったらしい。


 それからは、本人も魔女に対する怒りが心に発生し。流されるまま一緒に抗議をしていたのだとか。

 しかしフューリーが倒され始めた時、本来なかった怒りの気持ちが消え、自分が原因でそうなったことを自覚して、怖くなって逃げようとしたのだ。


「本当にありがとうございます陛下」


 私は深々と頭を下げた。

 陛下が私のことを信じてくれなかったら、早々に問題が解決することもなかったし、私は国外逃亡も止む無しという状態になるところだった。


 でも、どうして陛下は、フューリー達の影響を受けなかったんだろう?

 すると陛下が話してくれた。


「気にしないでー。私だって可愛いリュシアンの援護がなかったら、あの魔物にあおられて『処刑よー!』って叫んでたかもしれないもの」

「え?」


 団長様のおかげ?

 隣に座っていた団長様は黙ってお茶を口に運んだ後で応じた。


「陛下が余計な者に惑わされたりしては困る。何かあれば守ってくれと精霊に依頼していたし、精霊で対処できなければ知らせるようにしていた。まぁ、影響を受けなかったといえば、もう一人いるが」


 団長様が言っているのは、エリック王子だ。

 フューリーが暴れまわって怒りを煽っている間も、エリック王子は戸惑うぐらいで、後は薔薇のアルボルに保護されていた。


「あー、あれはきっと……薔薇に好かれているせいですね」


 たぶん、薔薇達がフューリーが近寄ると、バシバシ叩き落して遠ざけていたんだろう。


「その割には、みなさんと一緒に魔女は捕まえるべきだと思っていたようですが……」


 煽られていないのになぜ? 面識もないので、嫌われる理由も思い当たらないのだけど。

 すると陛下が笑った。


「ごめんね。あの子はたぶん、リュシアンのためにそうしていたんだと思うよ」

「団長様のため……ですか?」


 私を魔女だから捕えたとして、団長様に何の利があるのか。首をかしげた私に、団長様はため息をついた。


「あいつはわりと律義なんだ。私が王位継承の俎上に上がるのも嫌がっていた時に、それを理解して、私がシグル騎士団長に収まって王都から逃げ出す協力をしてくれた」

「え……」


 団長様が王位継承争いを心底嫌がっていたらしい、とは聞いていたけど、そのためにシグルに赴任したのか。でもエリック王子の協力って……。


「陛下の後継になどなりたくないのに、担ぎ上げようとする人間が邪魔だ。いっそ爵位も返上すると言ったら、エリックが『自分にまかせてほしい』と言い出してな」


 思い出すかのように、団長様はふっとテーブルに置いた器に視線を落とす。


「その時に、エリックは自身を支持する貴族達に、私の評判を落とさせようとした。そのおかげもあって、私を王都から離れさせることに難色を示した貴族院の貴族達も同意して、穏便に赴任できたんだが……」

「それで、イーヴァルが怒っていたんですね」


 フレイさんの言葉に、私もうなずく。イーヴァルさんはエリック王子に敵意がある風だった。

 事情を聞いてみれば、団長様が一番大事! のイーヴァルさんが怒りそうだなと思えたのだ。団長様の望みだったとはいえ、評判を落とすのは納得できなかったんだろう。


 そして納得する。

 だからエリック王子は団長様を嫌っている様子ではなかったし、団長様もエリック王子に対して普通に接していたのか。


「そうしたら、今回のことも……」

「それでもまだ、私を呼び戻そうという人間もいるんでな。これは好機だと、私に失点を作ってくれようとしていたらしい。お前を牢に入れるにしても、その後疑いが晴れた、と言って出すつもりだったと……。昨日本人が話していた」


 どうやら団長様は、昨日のうちにエリック王子とお話をしていたようだ。

 私に対しても、魔女だからと敵意を持っていたり恐れてはいないなと感じていたけど、そもそも魔女だという話を信じていなかったからなのか。

 便乗して、団長様が南の騎士団に居続けられるようにしたかった……と。


「あの子はリュシアンのために悪役を買って出るから……。まぁ、精霊王の剣のせいで、リュシアンを賛美したり心酔したりする人って多すぎて、失点ぐらい作らないとどうにも行動しにくかったのは確かだし、リュシアンが自分で何かやらかすと、今度は南の騎士団に行くどころじゃなくなりそうだったし」


 陛下もエリック王子の行動には理解を示しているようだ。団長様の願いを叶えるためには、そうするのが一番だったんだろうと。


「それにエリックが、王子として地歩を固めるのにも、たしかにリュシアンの存在は大きすぎたのよ。バランスとるためにも必要かもって、私は傍観することにしたんだけど」

「陛下が私のことを猫可愛がりなさらなければ……」


 エリック王子にとっても良いことだったと、政治的な話をする陛下に、団長様が渋い表情をする。

 まぁ確かに。陛下が団長様のことを大事にしているから、王子がいるのに団長様を王に……なんて話が出るんだろう。

 でも陛下はニヤッと笑う。


「それぐらい乗り越えられないんじゃ、王様なんてやってられないでしょ? ちょっとした壁ぐらいでへこたれちゃ困るわ」


 うふふと笑う陛下に、私は察した。

 陛下が団長様を可愛がるのは素としても、我が子であるエリック王子のためにそれを手控えないのは『谷底から這い上がって来い』という意味だったのだ。

 貴族って大変……。


「何にせよ、精霊やら魔物やらは私では気づけないし、今回解決してくれた助かったのだけど。大本の情報発信者はタナストラなのよね」


 陛下が話題を切り替える。

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