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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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忘れていてほしかったんですが

 団長様に近づくのは、やっぱりためらわれる。

 でも話をするのに支障がある距離ではないと思うので、よしとする。

 団長様は思い切り不審そうな表情をした。


「茶を魔物に与えて回っていたのだろう? もう終わったのか?」

「いえ、まだです」

「では行こう、次はどこだ?」

「あちらの方に二十歩ほど進んだ所です。目印にリボンを近くに結んでいるんですが……」


 聞いた団長様は、さっさと私が教えた方向へ足を向けた。

 あっさりした態度に、私はほっとしつつ後を追う。


 団長様の側を歩いても平気にはなったけど、今度は疑問が持ち上がる。

 私もアレを『なかったこと』という風に対応していたけれど、団長様はどういうつもりなんだろう。

 あれナシねと言うつもりなら、どうしてき、キスなんてしたのか。

 気の迷い? でも気の迷いで私なんかにキスをする? それこそ信じられない。


 そこで私は自分の頬をつねる。考えちゃだめだ。今は魔物とのチャンネルを開通させなければ。

 私は団長から三歩ほど離れつつ、お茶を撒いていく。

 五匹、六匹、七匹……そして全部で十匹の魔物の株の根元にお茶を注いだ。


「どうだ?」

「ええと、ちょっとお待ちくださいませ」


 団長様にそれとわからないように、ちょっと斜めにステータス画面を出して、横目で確認する。指でタッチしていくから、不審な動きすぎるもの。説明もしづらいし。

 画面を開くと、すぐにポップアップウインドウが出て来る。『チャンネルAが追加されました』右端には、しっかりと新しいチャンネルAが、赤く光っていた。

 成功だ!


「あ、やりました。魔物と話せそうです!」

「そうか。よくやった」


 ねぎらいの言葉に振り向くと、思いがけないほどすぐそばに団長様が立っていた。


「うわっ」


 思わずのけぞって倒れかけた私を、団長様が腕を捕まえて止めてくれる。


「ありがとうございます」


 お礼を言って離れようとしたのだけど……団長様が、私の腕から手を離してくれない。見上げると、団長様はじっと私を見下ろしていた。


「何を気にして私から距離をとっているのかはわかった。……嫌だったのだろう? お前に謝っておきたい。すまなかった」


 頬が一気に熱くなる。団長様は、あのキスのことを言っているってすぐにわかったから。


「え!? その、嫌とかそういうことでは……」


 嫌だったわけじゃない。

 そしてこんな言い方をするのだから、団長様はその気があっての行動だったんだろう。

 でも未来がない関係とか、どうなの? たとえばベアトリスさんが言ったように、今回のことを解決できた後で私が爵位をもらえたとする。でも魔女であることは変わらない。

 だから……。


「でもああいうことはちょっと。ぺ、ペット扱いなのはわかっていますけれど」


 こういうことにして、自分の気持ちを治めたい。

 そして言葉にされない気持ちを、都合よく団長様が全て察してくれるわけではない。

 団長様は、意外だと言いたげに眉を跳ね上げた。


「まだ犬猫と同じ扱いだと考えていたのか。……お前が私を嫌ったのかと」

「そんな! 団長様を嫌うなんてことありえません。団長様は恩人ですし、保護者ですし」

「だが、ペットだからと何をしても大人しく受け入れるのか?」

「さすがにそういうことではなくて」

「大人しく受け入れたのは、他に理由があると考えていいのか?」

「…………」


 この質問には答えにくい。

 黙っていると、団長様がさらに尋ねた。


「私ならいいと、そう思ってくれているのか?」


 団長がもう一方の手で、私の頬に触れる。

 ちょっ、その質問に答えられるわけないじゃないですかぁぁ! いいと思ってたなんて言ったら、キスしてもいいって私が考えていたことになるんでは!

 でも待って私。嫌じゃないなんて言ったんだから……。え、私もう……墓穴を掘って……。


「あの、その、う、うわぁぁぁぁぁあっ!」


 私は逃げた。逃げて自分の部屋に帰って、そのまま座り込んでしまう。

 なんてこと、なんてこと!

 これじゃ告白したみたいなものじゃないの!


「うあぁぁぁぁ」


 顔を手で覆ってうめくしかない。

 恥ずかしい、もう一度顔を合わせるのが怖い。だって好きだって言ったようなものだもの。


「好き……うああああああぁぁぁ」


 つぶやいてその恥ずかしさにもう一度うめく。

 だけどそうなんだ、と心に水滴が落ちて、水面になじんでいくように思った。

 私、団長様のことが好きなんだ、と。


 ずっと考えないようにしていた。最初は元ひきこもりだった記憶から、自分をそんな対象に見てくれる人なんているわけないって思って。その後は、魔女だとわかっていてそんな風に思うわけがないって。

 でも団長様が、あんなことをして。フレイさんまで色々と言い始めて、否定できなくなってしまった。それでも好きだとは考えないようにしていたけど。


 一度そう思ってしまうと、もう取り消せない。


「だって気をつかってもらって、優しくされて、信用してる人にあんなことされて……。気にならないわけないじゃない」


 何より紅茶を好きでいてくれる。最初から、信じて飲んでくれたし、一緒に眠りこけてしまった事件だって今はいい思い出だ。

 できればずっと、あんな風にかかわっていきたいとずっと思ってる。恋人とかそういう関係にならなくても、側で見ていられたらそれで満足だと思うくらいに。


 そんな人に好きだと示されて、ずっと否定し続けられるわけがなかった。私も言ってしまいたい。お慕いしていますとか、好きですとか。

 だけど団長様のことを思うなら……。


「ペットにとってのご主人様ってことで、通そう。まだしらを切れるはず」


 ハッキリと聞かれたら、好きじゃないと言うしかないな。

 さもないといずれ団長様から離れた時に、私のことを探させて、迷惑をかけることになってしまうから。

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