まず能力向上から手をつけよう
その後はオルヴェ先生と、自分の部屋に帰ることになった。
さっき執務室にいたのも、私が戻るのを見計らって待機していてくれたそうだ。直接の上司がオルヴェ先生になるので、管理者として契約を見届けに来たらしい。
にしても、帰りに先生がいて良かった。
やっぱり私が珍しいのか、振り返ったり凝視されたりするんだもの。
今なら、こんなにも自分が気にされる理由がよくわかる。
滅多にここへ出入りする部外者がいないからだ。
商人とかはいるかもだけど、討伐者みたいな平民の商用がない人は、あんまり来ないから珍しいんだよ!
そりゃ『何の用事だ?』っていぶかしむよね。
一人で歩いていたら、質問攻めにあったり、いじめられたかもしれない……。
だからこそ、団長様達の優しさがじんわりと来るのだ。
おかげでなんとかやっていけているのだし、やっぱり団長様は神様かもしれない。
そんな団長様達のことを守るためにも、私は真剣に考えねばならない。
診療所にしている棟に到着すると、私は普通のヘデル茶を淹れた上で、自室に籠った。
もっと真剣に、ゲームについて考えるべきだ。
今まで似てるけど、そんなばかなーと軽く思っていたけれど、このままだとそれじゃすまなくなりそうだもの。
ゲーム世界じゃないとか、ゲーム通りのことは起こらない、なんてことはありえないのは今日で証明された。
だってチュートリアルしたから!
司祭さんは短気だったけど!
「紅茶師の名称のことは横に置かなくちゃ……」
まだ引きずっていたけれど、そこにこだわってる時間はない。
私は今後起こるだろうゲームの予定を書き出した。
まずは三つの騎士団のどれかを選び、そこで繰り広げられるクエストを消化。
私は不可抗力でシグル騎士団に入ってしまったので、シグル騎士団のシナリオに進むことになる。
……実は一番難しいクエストが多いのは、シグル騎士団だ。
レベル上げを怠らなければ大丈夫だけれど、最速でというわけにはいかない。
むろん簡単なものが好きな私は、他の騎士団のクエストをやっていた。
けれど大きな枠での物語は、シグル騎士団がメインになりやすい。なので、あえてこちらを選ぶ人は多かった。
なので体験はしたことはないけれど、大雑把なものは知っている。
まずは騎士団の面々と交流するクエスト。
シグルの場合は、副団長さんとリュシアン団長の橋渡しみたいなことをするものだったはず。
その後、すぐにメインに関わるクエストが始まる。
同時に、レベル上げができる小さなクエストが発生するんだけど。
「……これ、あのクエストはもう過ぎてる?」
私が、異世界内転移で連れて行かれて実験されたあの場所……まさかクエストじゃないよね?。
騎士団が襲撃して、館を壊していたはず。
でも私が辞めた後で発生した、魔女にまつわるメインクエストの最初にあるものが……まさに最初、怪しい館を襲撃するものだった。
だとしたら時系列的に、魔女が世界を荒廃させるシナリオ以前……どこぞのダンジョンに関わるシナリオとか、隣国との戦争にかかわるシナリオとか、完全に飛ばした状態になってる?
「でもゲームのイベントが起こっても、ゲーム通りに進むとは限らないわけで、さ……」
チュートリアルもおかしかったし。
でも一抹の不安が残る。
理由は、魔女を作る計画のために、私や他の人への実験が行われたということだ。
それにあの場所がクエストに該当するものだとすると……やっぱり私、魔女なのかな。
最初は魔法が使えないし、大丈夫だって思っていたけど。
いやいや、紅茶に魔法付与しかできないのに、そんなわけないよね?
「とにかく始まってるとしたら、早くレベル上げないと……」
レベル上げクエストを何個もこなさないと、とてもじゃないけど対応できない。
だってリアル進行されるとしたら、次もあんな襲撃クエストになるし。
実験で精霊が不在になった土地に、精霊を呼ぶクエストもある。
聞くだけならほのぼのしそうだけど、魔物が大集合するので、戦闘的にキツイクエストになるのだ。
まさに騎士団に加入して行動していないと、クリアするのが難しい。パーティーが作れない人は騎士団のNPCが加入して自動戦闘してくれることになっていたはず。
それでも生産職でやるのはキツイ。
「難易度高すぎじゃない? クリアできる気がしない……」
それを越えたら、隣国潜入クエストとかあるし。
その後は復活した魔女との戦闘とか……。
のんびりとゲームをしたがるような私だ。敵を斬って斬ってレベルをガンガン上げるというのは向かない。
「というか剣使えないし……いやいや、戦闘自体無理じゃない?」
そこでふと思いつく。
「お茶で、身体能力の向上ってできないかな?」
せめて足手まといにならないように、能力を上げる方法を探したい。
気力が回復したりMP回復ができるのだ。試してみるべきだろう。
私は覚えている限りのクエストについて書き出し、忘れないようにすると、さっそくお茶を作ることにした。
あれこれしている間に、一階にヘルガさん達はいなくなってしまったので、引きこもって研究ができる。
薄暗い時間になってきたので、かまどの火を起こした上で、部屋にも明かりを灯した。
この明かりは魔法だ。
天井からつり下げられた球体をぺいっと叩くと、光り始める。
薪も蝋燭も安いものではないので、明かりは魔法を使うのが一番経済効率はいい。明るさを強くしないで、夜もさっさと眠るようにしたら、一年は持つし。
私はお茶の道具を出し、お湯を沸かし、いよいよ実験を始める。




