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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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エリック王子の秘密 1

 薔薇の向こうを歩いている人がいる。

 あの栗色の髪の青年貴族には見覚えがあった。元老院のおじ様方と一緒にいた人だから……たぶん元老院の一員なのだと思うけれど。

 すると、開け放っていた窓の奥。客席の方からささやき声が聞こえた。


「まぁエリック様よ」

「ここでお見かけできるだなんて!」

「今からお庭に行ったら、お話できるかしら?」


 どうもお嬢様方は、あの貴族青年とお知り合いになりたい人ばかりのようだ。はて、なんでだろうと思えば、アネーヴェ夫人が教えてくれた。


「あの方は、エリック王子殿下よユラさん」

「王子殿下……なるほど」


 あれがオネエな王様の養子にして王子であるところのエリック殿下か。

 あの王様が養子に選んだのだから、当時は内面的にもそう問題のある人ではなかったんだろうと思うんだけど、今はどうなんだろうか。

 なんでか団長様に対抗して、まだ結婚どころか、婚約者も決めていないと聞いてるけど……。


 とにかくご令嬢達がお知り合いになりたい理由はわかった。運が良ければ見初められて王妃になれるし。そうでなくとも、王子と仲良くなっておけば自分も生家にもいろいろとお得だものね。


「その様子だと、殿下の噂は聞いているようね? リュシアン様からかしら?」

「どちらかというと、団長様の周囲からでしょうか」


 主な情報源はオルヴェ先生なので。

 そもそも私、エリック王子と会うことはないと思ってたから、話を聞こうとか考えたこともなかった。


「困った方よね、エリック様も」


 うふふと笑うアネーヴェ夫人の声を聞き、合わせるように苦笑いした。詳細は知らないのだけど、アネーヴェ夫人の言い方からすると王子はとんでもない人でもないような?


 なのにどうして団長様と折り合いが悪いんだろう。継承権的な問題なんだろうか……。なんて考えつつ私はエリック王子に視線を戻したのだけど。

 王子の襟のあたりが気になった。


「あ……」


 精霊が、襟にぶら下がっている。

 薔薇の花冠をかぶった葉っぱ型の……花の精霊?


 エリック王子は、精霊に好かれる人なんだろうか? たまさかそうしてくっついているだけ?

 この時は首をかしげるだけだった。



 その日の夕方、喫茶室を閉めた後、私はフレイさんの言う『騒ぐ精霊』のことを調べるため、庭にこっそりと出た。

 今回の事件に関係する調査をしたいと話したら、ベアトリスさんには「早朝か夕方の方がいいでしょう」と言われたからだ。


 ベアトリスさんに真正面から話したのは、私が気づいたらいない、という事態になった時に、部屋の前に陣取っている私の監視だという騎士さんに、ベアトリスさん達が怒られては困ると思ってのことだ。

 そうしたら、騎士さんは国王陛下の命令で動いている人なので、扉から出入りしない限りは問題ないとのこと。ただ女性が出歩いても大丈夫なのは、日が出ている間だから……という回答だった。


 身の安全に関しては、あんまり気にすることはないのだけど、これは隠し玉としておきたい部分もある。

 攻撃力が高すぎることが周囲にバレると、私への警戒心をあおるだけになるだろうと、口にチャックをしておいた。


 そんなわけで夕方のうちに出ることにした。

 仕事が終わった直後で、一休みできずに行動することになるものの、これも色々と配慮してくださる陛下への恩返しだ。


「危ないようだったら首を突っ込まずに、さっと帰って来るだけだし。夕食後はもう休む時間になるし」


 とにかく朝、寝ぼけ頭で見ただけだから何もわからなかった可能性もあるので、確認しておきたい。

 私はさくさくと王宮の森へ向かって歩き出した。

 けれどすぐに、足を止めることになる。


「あれは……」


 エリック王子がいた。

 まさかずっと庭にいたわけではないだろうから、夕方に再び出てきたのだと思う。


「……庭好き?」


 日に何度も庭に出ちゃうくらいに、庭が好きな人なんだろうか? 

 しかも、エリック王子にまた薔薇の冠を乗せた精霊がくっついていた。


「精霊に好かれやすい人なのかな?」


 精霊は見えないけれど、たまに人の側にいることもある。ほとんどが通りすがりや椅子代わりとかそんな感じなので、すぐに離れてしまうけれど。


 でも同じ種類の精霊がいつもくっついているのなら、エリック王子はその種類の精霊に好かれているのではないだろうか。でもそんな人なら、団長様が何か言いそうなものなんだけど。

 精霊に好かれているから、根はそう悪い奴ではないとか。


「あ、でも団長様はそんなにひどくエリック王子を嫌ってはいなかったかも?」


 どちらかというと、非難しているイーヴァルさんを困った顔をしてみていたような。記憶が薄れちゃってるけどそんな感じだった。

 その時、ふっとエリック王子がこっちを振り向いたので、私はとっさに木に隠れた。

 エリック王子は何も気づかなかったように、また前に向き直り、王宮の森の方へと歩いて行ってしまう。


「どこ行くんだろう……」


 庭好きなだけなら、森の方には行かないか。でも弓を持っているわけでもないし、馬に乗っているわけでもないから、狩りをする気もないんだろうし。


「まさか陰謀の会合とか?」


 喫茶室に抗議しに来た元老院の人達と、エリック王子は一緒にいた。だから元老院の貴族と仲が良い……というか仲間なんだと思う。

 だとしても、秘密の会合なら誰かの家ですると思うけど、森の奥で何かあるのかも。

 精霊がおかしいのにも、関わっているのかもしれないし。


 私はなるべく足音を立てないように、エリック王子を追いかけることにした。

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