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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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勘の鋭いベアトリスさん

「ゆ、油断できない……」


 エスコートされるだけだと思ったのに、予定外の事象に驚かされるとは。

 早朝、しかもフレイさんも眠たそうだし、お互いに調査の一環として行動していた途中だったから、よもやこんなことになるとは思わなかったのだ。


「でも手の甲だけだから。きっと挨拶みたいなものだろうし」


 そう思って忘れることにした。

 いつの間にか肩に乗っていたゴブリン精霊も「まぁまぁ気楽に」みたいな感じで私の肩をぽふぽふ叩いていたし。

 でも、恐ろしいことがその後に発覚した。


「フレイ様は、ユラ様とお付き合いしていらっしゃるのでしょうか?」


 朝食後のお茶の時間、ぼそっとベアトリスさんにささやかれて、思わず口に含んだお茶を吹き出すところだった。


「え、あの、え……」


 一体どういう意味でしょうか!?

 私の疑問を表情から察したのか、ベアトリスさんが答えてくれる。


「早朝の庭で、親しくしていらっしゃったので」

「う……」


 見られてた……。

 落としそうになった茶器を、なんとかテーブルに置く。かちゃんと、いつもより大きな音を立ててカップがソーサーに触れた。

 そんな私に、ベアトリスさんが容赦なく尋ねてくる。


「それで、お部屋にひっそりとお通しする必要があるのでしたら、その旨について先に伺っておこうかと」

「え、ええと」


 とっさに「必要ないです」と言おうとして、はたと思い出す。

 もし精霊やこの事件の関連で密かに連絡を取りたいことがあった場合、こっそりと出入りする可能性はないだろうか。その時にダメだと言っていたせいで、ベアトリスさんに陰ながら接触を遮断されたら……?


「あの、お付き合いはしてないです。誰とも……」

「そうなのですか」


 ベアトリスさんがやや残念そうに言う。


「でも、陛下から承っている件について、連絡や相談を密かにする必要があった場合には、ひっそりと通していただくことがあるかも……です」

「……お仕事のみのお付き合いということで?」

「は、はい」


 答えると、ベアトリスさんが「そうですか」とやっぱり残念顔をしていたが、ふっと表情を明るくする。


「では、本命はリュシアン様で?」

「………っ」


 団長様の名前を聞いたとたんに、私は息が詰まる。

 その様子に、ベアトリスさんがにっこりと微笑んだ。「全てわかっておりますよ」というように……。

 おかげで反論がしにくい。でも今伝えないと、勘違いが加速しそうで怖い!


「ちちち、違うんです。本命とかそういう人はいないんです!」


 王宮へ来る前の出来事を思い出しちゃっただけで、私の方が誰かのことを本命だとか思うなんておこがましいというか。

 もったいない相手じゃないですか、二人とも。


「想像するのも申し訳ないぐらいなので、あの、すみません……」


 謝ると、さすがに何か違うらしいということはベアトリスさんにも伝わったようだ。


「あの……本当に?」

「本当の本当です」

「それではなぜ、顔色が変わってしまわれたのです……?」


 ぎくっと肩が震える。ベアトリスさんはそこを見逃さない。


「何かあったのですね、リュシアン様と」

「…………」


 私は沈黙した。けれどベアトリスさんも黙ってじっとこっちを見ている。

 やがて耐えられなくなったのは、私の方だった。


「事故が……ちょっと……」

「事故ですか」


 そうつぶやいたベアトリスさんが、手を打ち合わせて合図をし、残っていた召使いさん達が部屋を退出する。

 これはそういう合図だったのかと感心してみていると、ベアトリスさんが私の横の席に座った。


「本当に事故なのですか? まさか何か力に物を言わせてとか……」


 え、まさかベアトリスさん、団長様を疑っていらっしゃる!? さすがに私のせいで団長様が疑われては困る。


「そんなことないです!」

「リュシアン様もアルコールはお強い方ですけれど、そうしたときに気が緩むことだってあるかもしれませんし」

「お、お酒とかも飲んでいませんでした、朝でしたし!」

「朝でしたら、寝ぼけていたとか?」

「王宮へ連れて行かれる日の朝で、寝ぼけていたらあんな…………」


 キスなんて、と言いかけたところで、私は自分の口を手で塞いだ。ベアトリスさんと目が合う。彼女の口元が少し、笑みの形になっていた。

 これは……ベアトリスさんにはめられたらしい。


「寝ぼけていないリュシアン様が、うっかり何かするわけもないのでは。ですから、故意の犯行でしたのね?」

「…………」


 私は黙秘した。これ以上何か言ったら、完璧にバレてしまう。

 でもベアトリスさんにはこれで充分だったようだ。


「だいたいわかりましたわ。でもその様子ですと、お嫌ではなかったのですね?」

「う……」


 ベアトリスさんの言う通りだ。嫌ではなかった。ただただ恥ずかしくて、どうしていいのかわからずに、忘れることにしたのだけど。


「そしてリュシアン様が、たわむれでユラ様が気持ちを乱すようなこともなさいませんでしょう? 冗談などで女性の心をもてあそぶ人ではない……というか、できない方ですもの」

「……そう、ですね」


 ベアトリスさんに言われて、やはりそうなのかと私は思う。

 魔女の自分なんかに……と。本気に取って迷惑をかけることになったら申し訳ないと思って、何かの気の迷いだと、いつかは団長様も目を覚ますだろうと思おうとしていたのだけど。

 ただ、自分が自意識過剰すぎて、気持ちを向けられている気がしているんじゃないと第三者に言ってもらえて、少しほっとした。


「でも、そもそも身分差がありますから……。いつかは団長様も、私のような平民娘では釣り合わないと思ってくださるのではないかと思いますし」


 たとえ団長様が万に一つの可能性で本気だったとしても、身分差のせいで周囲が認めないに違いないし、だからこそ、いつか私のことは本当に精霊と同じ扱いをするようになるんじゃないか……せざるを得なくなるだろうと思っていた。

 でもベアトリスさんの意見は違うようだ。


「そんな風に思わずに、リュシアン様と対等な立場だったら、と考えてみてはいかがでしょうか?」

「え、そんなことありえな……」

「ありえなくはありませんわ。今回のことを解決できたなら、陛下はユラ様に望む物を与えてたいとおおせです。名誉でも、身分でも」

「み、身分ですか!?」


 え、こんな平民討伐者にぽろっと身分を与えるとか、王様大丈夫ですか!?

 でもベアトリスさん的には当然のような態度だ。


「驚くようなことではありませんわ。もしなんらかの原因があって、元老院の貴族達が扇動されているとしたら、それは王国にとっての危機でもあります。今回はたまたまユラ様を個人的に攻撃する手段として使われました。けれどいつ何時、同じ方法で陛下や王国を害そうとするかわかりません。それを未然に防ぐことができれば……かなりの功績になるでしょうし、貴族の誰もがユラ様を認めるでしょう」


 私はぽかーんと口を開けてしまう。

 このクエストというか、事件を解決するのって、そんなに重要なことだったんですか?


「そうでなくとも、もし魔法のようなものが原因だったら、解決することで元老院の方々をユラ様が救ったことになるのです。大きな貢献だと思いますわ。対価を受け取っても当然かと」

「対価……」


 でも私は魔女だ。

 そんな私が、たとえベアトリスさんの言うとおりに団長様が想ってくださったとしても、側にいられるわけもない。

 私も、迷惑をかけるぐらいなら、すぐに切り離せる立場にいた方がいいのだ。

 それこそ、リードを離したらどこかへ駆け去ってしまうペットみたいに。


 自然と私はうつむいてしまう。

 それを見て、ベアトリスさんはそれ以上何かを言うのはやめることにしたのだろう。


「さ、ゆっくりお過ごしくださいませ。喫茶室へ向かわれる時間になりましたら、お迎えに参りますわね」


 ベアトリスさんはそう告げて、部屋を出て行ったのだった。

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