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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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プレ王宮喫茶室当日1

「え、もう今日からするのかい!?」


 昨日は色々と忙しかったのか、朝食の時間をすぎてから訪問してきたフレイさんが目を丸くした。


 ……まぁそう言うのも無理はない。

 陛下が手ぐすね引いて準備していて、召使いさん達が手伝いとしてセッティングからなにから待機する上、お菓子もお茶も茶器までいくらでもすぐ出せる環境にあるからこそできる技だ。


 パーティーがあれば100単位の人にお茶や料理を出すところだもんね、王宮って……。

 今の王家も前国王のお母さんがまだ健在で、サロンみたいなものを開いているので、常にお茶の用意はできるようになっているらしいし。

 執務関係の人にもお茶や食事を出したり、急な訪問者にも対応が必要だもんね……。


 人手も、保護者状態になりそうなベアトリスさん達女官さんを貸してくださった陛下に感謝だ。

 なんとしても喫茶室で、私は無害アピールをしなくては!

 まぁ、今日はプレ開店なんだけど。


「これからセッティングの確認とか、お客様への対応とか色々ありますが、ご一緒しますか?」


 フレイさんの予定がわからないのでそう聞いてみると、うなずいてくれる。


「そうだね。その前に、俺の方からも少し話しておきたいんだが」


 フレイさんは部屋に視線を走らせて、着替えや朝食の用意のためにいてくれた召使いさん(正直、誰かいないと好きに食べてもその後どうしたらいいのか、着替えもドレスじゃ一人でできないわで、余計に心細いので助かっている)をちらりと見て言う。


 あ、もしかして精霊とか魔法に関することでしょうか。

 それでは他の人にはあんまり聞かせられない……。突っ込んだ話になった時に困るから。

 何も言わずとも察してくれたのか、一緒に話を聞いていたベアトリスさんが言う。


「喫茶室を見に行く前に、少し庭を歩かれてはいかがですか? お休みできる場所もありますから」


 人気があまりない場所で話しては? ということらしい。

 ナイスベアトリスさん。とてもありがたい。

 そんなわけでベアトリスさんに案内され、フレイさんと一緒に王宮の庭へ出ることになった。


 ……思えば昨日は、到着、陛下とのお話し、着替えに三夫人とのお茶会に喫茶室のテーブル配置なんかの手配で疲れきって、夕食後はそうそうに眠ってしまったんだ。私、メニューカードに書く内容を考えるぐらいのことしかしてない。

 よって王宮内をじっくり見るとか、全くできていない。


 お部屋も他の貴族と会わないようにという配慮の関係で、木立に囲まれてあまり観賞には向かない場所だったらしく、ベアトリスさんに後で案内させますねと言ってくれていたのだ。

 綺麗に手入れされた赤い鶴薔薇があって、それを見ているだけでも優雅な気分にはなれるので、私には十分なのだけど。


 あと、勝手に部屋から出られない事情もある。

 部屋の扉の外には、一応見張りの衛兵さんが一人いるから。


 彼らは二重の任務を帯びている。

 私を魔女だと疑っている元老院の貴族達を納得させるため、監視する役目。そして私を元老院側の貴族が害さないように、守る役目。


 陛下がそのように指示してくれたらしい。

 どっちにしろ私のためなのだ。見張りをつけた上で何もなければ、私の無実を証明する一助になるのだから。


 そんな衛兵さんに会釈して部屋を出る。

 そこから外回廊へ回り、さっそく庭へ。


「おおお広い」


 来る時は緊張しててろくに観賞できなかった庭を見回す。

 この世界は大自然だらけで、騎士団のお城だって中庭や畑のある場所やら、森やらばかり見ていたのだけど。こうして人の手が入って整えられた広い場所、というのはまた違った趣がある。


 管理された美しさというか、大勢の人の整然とした行列を眺めるような感じだろうか。

 それが形をそろえた植え込みだったり、薔薇のアーチだったり、花壇だったりするわけだけど。

 そして見通しがいいからこそ、近くで誰かが聞いている心配はない。


 庭の中央に人口の川が流れ込む池と、その前に椅子が置かれていたので、私とフレイさんはそこに座ることにした。

 声がかろうじて聞こえない距離を開けて、ベアトリスさんは控えていてくれる。


「それで、あれからフレイさんはどうしていたんですか?」


 さっそく尋ねる。


「うん。陛下から他の話も聞いた後、あちこち調べていた。君には喫茶室のことがあるからね、俺の方で出来ることはしておこうと思って。それで……一応精霊のことも調べたんだけどね」


 フレイさんはため息をつく。


「周辺の精霊は、特に異常なしと言うだけなんだ」


「異常なし……」


「だから精霊が関わっているようには見えないんだけど、妙なんだよね」


「妙、というと?」


 フレイさんが妙だというのだから、何かの手がかりに繋がる情報ではないだろうか。


「夜中に精霊が騒いでいるようなんだ。何かけんかをしているような声を出して」


「けんかをしているような声……?」


「聞こえなかったかい?」


 フレイさんに尋ねられたけれど、私は首を横に振るしかない。

 基本、私は画面がないと言葉のやりとりができないので……。


「夜中なら、すぐに眠っちゃって気づかなかったのかもしれないです」


 そう言って誤魔化すことにした。


「それなら仕方ないか。とにかくおかしいのは確かなんだ。だから俺はもう少しそっちの調査をしようと思う……それと」


 フレイさんがさりげなく私がベンチについていた手に自分の手を重ねてきた。


「ふ!?」


「喫茶室の護衛として、俺も基本的には常駐することになったから。陛下にそのために必要な役職についてもいただいている。安心して紅茶を振る舞うといいよ」


「あの、はい、よろしくお願いします……」


 手に触れているのに、フレイさんは通常通りの口調なので、むしろどうしたらいいのかわからなくなる。慌てて振り払うほどには、いつもよりはせめて来ない感じだし。


「おそらく君が喫茶室を始めたら、陛下の招きがある前に、元老院の貴族方が邪魔をしてくるだろう。陛下のお茶会は数日後になるだろうけれど、気を付けなくてはいけない」


「は、はい……」


 そういう話を聞くと、緊張してくる。

 大丈夫だろうか。妨害ってあれかな。暴力的な方? それとも水やお茶に何か混ぜてくる系だろうか。

 でもそんなことしたら、明日も明後日も入れ替わりで来てくれる三人のご夫人方にも、他のお客様にも被害が出るけど……。そういうのは気にしないのだろうか?


 色々想像して、ちょっと怖くなる。

 私だけではなく、本当に他の人にも被害が出た場合に、私はどうやってお客様を守ったらいいんだろう。


「異変は、なるべく精霊に知らせてもらうようにしたらいい。大丈夫、俺もこれからは精霊のことを隠さなくてもいいから、精霊に頼んで備えはする」


 フレイさんが、触れあっていただけの手を軽く握ってくる。

 それまでは恥ずかしかったのに、怖い状況が発生すると思ったからだろうか。その手が頼もしく、また、見捨てずに助けてくれると信じられるからか、とてもありがたく思えた。


 ええと、そういう意味で手を重ねたのかな?

 私が怯えそうな話をするからと思って……?

 フレイさんがそれ以上は何も言わないししてこないので、たぶんそういうことなんじゃないかと思う。


「あの、私も精霊にいろいろ聞いてみますね」


「そうしてくれると有難い。もしかしたら何か話してくれる精霊がいるかもしれないからね」


 そこで話を終え、私はフレイさんとともに喫茶室へと向かった。

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