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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました
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測定石の加工をしました

「先に話し合っておけば良かったね……」


 教会を出て歩き始めてすぐ、フレイさんが悔恨の滲む声で言った。

 次は近い場所だからと、馬は教会に預けたまま、目的地へ向かって歩いているのだ。


「私も職名が必要だということは、うっすら知っていたのに思い出さなかったので、私もいけなかったんです、フレイさん。むしろあの司祭さんがちょっと短気なのでは……」


 一分でいい。時間をくれていたら。

 まだ茶師の方がそれっぽいとか、薬師の亜種ってことで、そうしてくださいとお願いするとかできたのに。


 ああああああ。

 頭を抱える。でももう取り返しはつかない。


「ほら、でも紅茶師ってちょっと珍しくて可愛い感じがするし」


 どこか、可愛さを感じられる音だったんでしょうか……。

 明らかな慰めだとわかっているけれど、その優しい気持ちをふいにするわけにはいかないので、私は「はははソウデスネ」と同意しておく。


「ところで水晶、どういう形で持つのが一番いいかい?」


「できれば首からかけられるのが一番いいかなと。無くさないと思うので」


「女の子ならその方がいいかもね。さ、こっちだよ」


 フレイさんが案内してくれたのは、路地を一本入ったところにある装飾品が並ぶお店だった。

 あまり高価なものを置いているわけではなく、町娘の私でも手が出せそうな、宝石のないデザインのちょっと可愛いものが多い。

 金古美や銀の首飾りや髪飾りなんかが、木の棚に置かれたり、つりさげられて飾られていた。


「すまない、加工を頼みたいんだが」


 フレイさんは慣れたように、奥にいた店の主人に声をかける。

 ちょび髭のめがねをかけたおじさん店主は、目を丸くしてフレイさんを見た。


「え、どうしたんです店まで来て。呼んでくだされば伺ったのに」


「今日は女の子を連れて来る用事があったから、普通に店に入ってもかまわないと思ってね」


 そのやりとりでなんとなく察した。

 なるほど。

 騎士団の人がこんな可愛いお店に、加工を自分で頼みに来るわけがないのにと思ったら、いつもは呼んでいたのか。


 ……フレイさんが女の子を連れてくる定番のお店を、私にも紹介してくれたのかと思った。誤解してごめんなさい。

 心の中で謝ると、視線に気づいたフレイさんが不思議そうな顔をした。


「どうかしたかい?」


「いいえ。己の心の黒さを反省しておりました。ええとこれを首から鎖で下げられるようにしてほしいのですが……」


 私が進み出て頼むと、店主が水晶を受け取って見た後でふむふむとうなずく。


「こういう鎖でいいかね?」


 差し出されたのは金古美の細い鎖だ。水晶の色にも合っていていいので、うなずく。


「おいくらになりますか?」


 あまり高くないといいなと思いながら言えば、フレイさんに肩を叩かれた。


「そこは気にしなくていいよユラさん。騎士団の事情でそれを作ったわけだから、騎士団で支払うからね」


「あ、ありがとうございます」


 フレイさんが自腹でというのなら断ったが、騎士団の金庫からと言うことなので、私は素直にうなずいた。

 社員用の備品を用意するために、会社が支払いをするようなものだろうと考えたからだ。


 そうしてすぐさま、ちょび髭の店主は作業に入ってくれた。

 水晶にちょいと穴を開けて金具を取りつけ、そこに鎖を通してすぐ完成してしまう。


「はい、これで1000ソルだね」


 ちなみにソルの価値は、前世の円みたいな感じだ。とすると1000円で加工代と鎖代をまかなったのだから、結構お安い。


「助かった。また依頼があったら声をかけるよ」


 白銅貨を二つ渡したフレイさんと共に、私はお店を出た。

 教会で預かってもらっていた馬を受け取り、再び馬に乗って騎士団の城に戻る。

 城の外郭から、内部を通って居館までかなり距離があるせいだ。


 この騎士団の城は、外郭になる塁壁の内側に入ると、まず騎士達の練兵場所や、万が一のための畑なんかがある。

 かなりのスペースがとられているので、ここを歩くだけで時間がかかるのだ。

 その奥に、さらに壁に囲まれた城がある。


 私はフレイさんに連れられて、団長さんの執務室へ向かうことになった。

 討伐者として、騎士団に所属するための手続きをするためだ。

 いつもは居館の端にいる上、そちらの出入り口を使うので、居館の正面玄関から入るのは初めてだ。


 騎士団の人が沢山出入りしている。まだ夕方にはなっていないからだろう。

 当然、オルヴェ先生の所に来ない見知らぬ人とすれ違う。

 それが全員、自分より背の高い男の人ばかりだから、そういう場所だとわかっているのに怖気づく。


 女性騎士もいると聞いたことがある。

 それに、ゲームではプレイヤーが特定シナリオをクリアできればチェンジできる。だけど、基本的には希少みたいだ。

 たぶん多少なりとリアルな世界として考えると、剣を振り回すのには筋力が必要になるし、女性で筋力に恵まれた人というのは珍しいからだろう。


 と、そこで私はふと違和感を抱いた。

 なにか変な気がする。

 どこがおかしいのか、引っかかった場所がするりと思考の中で逃げていくので、思い出せない。どうもこの世界で育って来た『ユラ』としての考え方が邪魔しているような気がしてならないけど……。


 それよりも、すれ違う騎士さんの集団にじっと見られる恐怖の方に、気が取られた。

 前世の記憶を思い出した後は、驚くほど他人への恐怖を感じなくなっていたのに、やっぱり集団に目を向けられるとめっちゃ怖い。


 いや、これは前世の自分だって怖がったかも。

 道行く人全員に振り返られたら、変な格好しているのかとか、私の顔が今日は特別おかしいのかもしれないとか不安になる。

 そして聞こえるひそひそ話……。


「まさかあれ、城から出て行かせることにしたのか?」


「それで団長に挨拶に来たとか? 前にもそういうことがあっただろ」


「でもなぁ。彼女ってこっちには全然来たことなかったじゃないか? 別れ際に自分を印象付ける方じゃないと思うんだが……。身分はわきまえてそうだし」


 え。私出て行くって話になってるの?

 違うんだけどなと拍子抜けすると、少し怖さがなくなった。

 フレイさんもひそひそ話が聞こえたんだろう。


「そういえばあなたは、あまりあちこち出歩きませんでしたね」


「怖いじゃないですか。知らない場所ですよ? それにオルヴェ先生にも注意されましたし。あと魔物の討伐後とか、気が立ってる人に近づいて、突き飛ばされたりしたこともありますし……」


 怪我をしたいわけじゃないので、自衛は必要だ。

 私の話を聞いたフレイさんは、なるほどとうなずいた。

 そうして執務室に到着した。

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