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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました
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そもそもの発端はここだった

 ある日目を開けると、知らない場所にいた。

 灰色の石壁。

 部屋も広くて、窓は縦長。古いヨーロッパの教会を連想するような場所。


 直前まで見ていた夢の続きかと思った。

 ファンタジー系のゲームをしている夢だ。


 オンラインゲームだったのだけど、誘い合ってゲームを始めた仲間と、レベルが合わなくなったせいでギクシャクしたのよね。

 ただでさえ仕事で時間がない私は、ログインしなくなった。

 すると当然、同じ職場ではない彼らともフェードアウトすることになった。


 その後も、新しい追加ストーリーが出てたのは知ってる。

 攻略法をつい調べたりもしたけど、ついにゲームには手をつけなかった。

 だって『まだあそこのダンジョンクリアしてないのか』とか『○○持ってないと、一緒にダンジョンもぐる時に困るんだよね』とか言われたくない。


 そんな苦い気持ちになる夢を見ていたのだけど。


「攻略法?」


 なんだそりゃ、と自分の夢に自分につっこみを入れる。

 だって自分の名前はユラで、アーレンダール王国の小さな町で暮らしていたはずだ。小間物屋をしている祖母と二人きりで暮らしていて、20歳で。


 亡くなった祖母を、教会の墓地に葬儀をしたばかりだ。

 独りぼっちになってしまった上、引っ込み思案で行き遅れの私は、これからどうしたらいいのかと思いながらお祖母ちゃんのお墓の前でため息をついた後……記憶が途切れてる。


 その記憶がなんだか、自分のことじゃないように感じられてきて、混乱する。

 でも、一つだけはっきりとわかることがある。


「私、誘拐されたんじゃない?」


 着ている服も全く違う。生成りの貫頭衣みたいな物に変わっている。そして記憶にあるアーレンダール王国のユラの生活からして、こんな大きな建物には住んでいない。


 その時、部屋に複数の人間が入ってくる。

 金髪の人や、茶色っぽいの髪の人が多いし、肌も白くて顔立ちも彫りが深めだ。

 彼らを見て、外国人っぽい。と思った自分の方がおかしいのに、その感覚が消えない。


「目覚めているぞ!」


「おお実験の成功だ!」


「姿が変化した時には失敗かと思ったが……」


「ダメもとで、二つかけ合わせたのが効いたのか?」


 黒い長衣を着た男性達が、わらわらと私に近寄って来た。


「名前を言ってみろ」


 尋ねられた私は、答えないと殺されるかもしれないと思い、素直に返事をした。


「ユラ……ですが」


 彼らは「そうか」とも言わずに、勝手に腕を掴んだり、背中に触ったりしてきた。


「ひっ……!」


 頭をつつかれたり、背中を触られたりして、気持ち悪さで思わず体がすくんだ。

 なになに!? どういうことなの?


「うむ。怯える表情はいいんだが……」


 硬直していたら、とんでもない言葉が聞こえた。

 まだ若い金の髪の男の人だ。ちょっと鼻が高めのその人は、不穏なことを言いながらにやっと笑っててめちゃくちゃ怖い。

 その人に、額に一握りくらいの薄緑の石を押しつけられた。


「なんだ、反応がないぞ」


 石の様子を見て、私を怖い目で睨んでくる。

 彼は良くわからない言葉を唱えて、再び私の額に石を押しつけた。


「やっぱりだ。失敗したんじゃないのか?」


「失敗だな」


 よくわからないけれど、この人達の期待は裏切ってしまったようだ。

 これで解放される? と思ったら、


「廃棄処分だ」


 廃棄処分って!? え、私捨てられるってこと?

 恐怖を感じたところで、毛布と縄でぐるぐる巻きにされた。

 そのまま荷物のように担がれて、部屋から運ばれる。


 でも毛布は完全に顔を覆っていたわけじゃなかったから、外の様子は見えた。

 部屋の隅には鏡があった。

 そこをよぎった瞬間、私は自分の顔を目にして、ものすごい違和感に襲われた。


 毛布で簀巻きにされている自分の姿に、だ。 

 見慣れたはずの亜麻色の髪は、結んでいなくてばさばさ。なにより目の色が、記憶にあるよりも赤が強い、紅茶みたいな色になっている。


 何だこれ……。

 混乱中の私は、暗い石壁の廊下を運ばれて、外へ出た。

 自分の容姿のことも気になるけれど、捨てられることの方が重要だ。

 身震いしたその時だった。


 轟音が響き渡った。

 私を運んでいた人物も驚いたように、建物を振り返る。


「ぎゃあああ!」


 叫び声を上げながら、私を運んでいた人は走った。すぐ近くに、私の頭より大きな瓦礫が落ちて来た。

 ドスンという音に私も悲鳴を上げる。

 するとそのせいで、私をまだ担いでいたことに気づいたらしい。


「くそっ、逃げるのに邪魔だ!」


 私はその場に投げ出されて、背中を打って息が止まるかと思った。

 毛布で巻かれていなかったら、打撲でどうなっていたかわからない。

 地面に打ち付けた背中と腕が痛い。

 痛いけれど、私だって逃げたい。こんなところで、わけもわからないまま死ぬのは嫌だ。


 ごろごろと転がって移動する。

 その拍子に、顔を覆っていた部分が大きくめくれた。おかげで周囲の様子がよくわかる。

 三階建ての石の建物が、欠けるように壊れていた。

 壊した張本人は……翼のあるトカゲみたいな、巨大な生物。


「飛びトカゲ……?」


 この竜ぽい生き物は、よく騎士なんかが使う移動手段、飛びトカゲだ。

 辺鄙な場所にある町娘のユラでも、これは知っている。

 飛びトカゲは、そのままげしげしと足で建物を踏みしめる。石造りじゃなかったら、家は一気に潰れていただろう。

 その度に、地上に瓦礫が落ちてきているようだ。


 飛びトカゲの足下では、時折黄色や青い光がまたたく。

 魔法で誰かが戦っている。そう思うのと同時に、魔法バトルだ! 初めて見た!と喜ぶ自分がいた。


 どうなってるの私!

 いつのも引っ込み思案な自分だったら、絶対に悲鳴を上げて頭が真っ白になってるはず。


 やがて、近くの扉から数人が飛び出して来た。

 あの黒い長衣を着た男達だ。

 彼ら三人は、中から誰かに追われて逃げて来たみたいだ。

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