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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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閑話~お食事のお相手は?~

※今回はリクエストいただいたお題で書いたものです♪

4/3二巻目発売です!

「最近、朝は食堂に来ませんね、先生。今日は久しぶりじゃないですか?」


 疑問を口にしたのは、フレイだった。

 それはある日の朝、騎士団の大食堂でのこと。

 団長や副団長、医師のオルヴェ以外は食堂で食べている。給仕をするための人を、それほど雇っていないからだ。貴族出身者でもなければ、騎士達はみな「いらない」と言うので。


 だけどオルヴェは、普通の食事量だけではどうも口さみしくなるらしい。食事が終わった後で、ちょくちょく食堂へ来ては一品だけもらって食べていくのだ。


「いつも食べ足りないとか言ってるのに、最近は減量でもしているんですか?」


 だからフレイの疑問はもっともだった。

 他の隊長に用事があって食堂に来ていたリュシアンも、なんとなくそちらに耳を傾ける。

 オルヴェの方はけろっとした表情で答えた。


「ああ、ユラが残した分をもらっている」


「……は?」


 フレイがきょとんとした表情になった。


「いつも食事は一緒にしているからな。残しそうだったら、言ってその場でもらえるものだから、あんまり腹が空かなくなったんだ」


 まぁ、たまにはユラも残さないことがあるから、ここに来るんだが、とオルヴェが続ける。

 フレイは顔をしかめた。


「いつも一緒に食事を?」


「運んできた上、それぞれ部屋で孤独に食べるっていうのも侘しいもんだろ。だから健康状態の確認後、そのまま一緒に食べて、食事量からもユラの体調を確認してるんだ。ついでにユラはあまり食べない質みたいだからな。パンはいつも一つはもらってる。

 なんていうかこう、石を一個投げたら鳥が三羽落とせたぐらいに、とても効率がいいと思わないか?」


 はっはっはと笑いながら、オルヴェはスープを平らげた。

 フレイは鋭い目つきになったものの、何も言わない。


 リュシアンも、何も言うわけにはいかない。立場的にもだ。なにせどんなに悔しかろうと、自分がオルヴェの側で生活させると決めたのだから。

 しかし他の騎士がぽつりとこぼした。


「女の子と毎日食事ができるなんて、うらやましい……」


 フレイがわずかにうなずいた。リュシアンはそれを見てこらえる。

 心の中では「よく言った」とほめながら。

 オルヴェは不思議そうだ。


「仕事ついでのことだぞ?」


「だってどうせなら、可愛い女の子と向かい合って食べたいじゃないですか」


 一人がつぶやいたことで気を強くしたのか、別の若い騎士がそう言った。

 リュシアンはその騎士の顔を密かにチェックしておく。……危険人物だ。


「先生だけずるいですよ」


 そこに便乗して、フレイが笑顔でそっと抗議した。


「しかしお前達、若い娘をこんなむさい男だらけのところに連れて行くわけにはいかないだろう?」


 オルヴェの言うことはもっともであったが、やはり少々未練が残るらしい。


「それなら、喫茶店で同席してもらおうかな」


 フレイがそう言いだしたのに続けて「俺もそうしたい」「たまにはおしゃべりしたっていいよな。町の酒場の女将だって……」という意見が続く。

 しかし一つ問題がある。


「ユラの営業の邪魔になるんじゃないのか?」


 リュシアンがぼそりというと、続いていた意見が途切れた。


「それなら、貸し切りにしたらいいことですよね?」


 あっさり出したフレイの対案に、若い騎士達が賛成していく。

 そうして話し合いが始まった。

 喫茶店を毎日誰かが貸し切りにするという形ではユラに気づかれてしまう。だから取り決めをして、最大五人だけが昼食後に喫茶店に行き、ユラに同席してもらうという形で落ち着いたようだ。


 もちろんおおかたの案を出したのはフレイだ。

 策士め、とリュシアンは思う。

 ユラ係のフレイは、いつでも時間があれば喫茶店にいることだろう。貸し切りのために決められた人員の中に含ませるつもりなのだ。


 かといってリュシアンがフレイ達のようにできるわけもない。

 騎士達のささやかな楽しみに団長が介入してくずすのは、さすがに野暮だとわかっている。それにお茶の席に同席してもらう、というだけなのだ。

 給仕をしながら立ち話をするユラのことだから、そのついでと思うだけだろう。

 文句は言いにくい。


 ただリュシアンには、一つ彼らよりも有利な部分がある。それを思えば、フレイ達のことを気にする必要はないだろう。


 その晩、リュシアンはユラがいつもお茶をしているだろう時間に訪れた。


「あ、いらっしゃいませ団長様」


 振り返るユラ。

 そして彼女の側にあるテーブルには、クッキーが置いてある。赤いベリーのジャムがかかっていて、とても華やかに見える。


「試食なさりたいなんて珍しいですね。でも味見していただけるのは有難いです! ぜひご賞味ください」


 喫茶店へ行ったときに、新作はないのかと聞いたら、ちょうど喫茶店に出してみたいものがあると言っていたのだ。

 そうしてリュシアンは、まんまとユラと一緒に物を食べるという形に持ち込んだのだが。


「……これは甘いのか?」


「むしろ酸っぱいかもしれません。それでクッキーの甘さが緩和されるんじゃないかなと思いまして」


「なるほど」


 うなずき、一つ食べてみる。確かに酸っぱさでクッキーの甘さが薄れている。


「私は問題ない」


「甘いの苦手な団長様でもいけるなら、他の団員さん達も食べやすいですねきっと! ありがとうございます!」


 無邪気に笑うユラにうなずきつつ、リュシアンは自分が持ってきたものを渡す。


「甘いものばかりでもと思ったのでな。持ってきた。口に合うといいが」


 ユラは籠を受け取り、中を見て笑みを浮かべた。


「キッシュですね、私とても大好きです!」


「夜食用に作らせたんだが、せっかくだからと思ってな」


 そう言うと、ユラはとてもうれしそうな顔をした。


「深夜のお茶会ですね」


 その顔を見ながら、リュシアンは思う。

 イーヴァルに作らせて持ってきて良かったな、と。

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