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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第三部 紅茶の魔女

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185/259

※団長様は魔女を手に入れたいのだけど

※最近暴走している団長様視点です

 ――離れません。

 そう何度言わせても、不安になるのはどうしてなのか。


 気になる女性だとは思っていた。

 最初はおかしな言動から。次に、祖母を慕っていたらしいという共通点から、友人のように気やすい関係になることを、快く思っていた。


 ユラは能天気に見えるほど明るくて、前向きで、少し変で。

 お茶に関してもいつも驚かされて……。


 そのうちに、女性として気になっていることに気づき始めた。

 おそらく自覚せざるをえなくなったのは、導きの樹の精霊の力を引き出そうとした時。魔力を失いすぎた彼女の、額に口づけた時だ。

 その後も、彼女が一歩線を引いていることで、安心していた。

 けれど……そのせいで、抜け出せない深みにはまってしまったのかもしれない。


 その後、他にも方法があったはずなのに、主従契約を結ぶことを提案してしまった。

 しかも主従契約を、あまり迷う様子もなく受け入れてしまったユラを見た時、ほとんどタガがゆるんでしまったのだと思う。


 元々、リュシアンは、様々なものを失った記憶が濃いせいで、裏切らないものが欲しいのだと思う。

 ……以前イーヴァルにも指摘されて、微妙な気持ちになったが。

 なのに、多少なりと好意を持っていた相手が、自分の命まで委ねてきたのだ。落ちるなというのが無理なのだと思う。


 でも、リュシアンには問題がある。

 だから軽い束縛以上はするまいと思っていた。

 だというのに完全に後戻りできないと感じたのは……。

 フレイがユラへの恋情を増していることに背中を押された後、そして火竜に攻撃されているユラを見た時だった。


 あの時リュシアンは、火竜が出てすぐにヴィルタを駆ってかけつけた。

 その間にも、ユラが火竜のすぐ近くにいることを感じて、焦っていたのだ。

 たどり着き、火竜がブレスで焼き払った一画にユラがいるのを見た時、リュシアンは血の気が引くかと思った。

 もし彼女が上級魔法を習得していなければ、さらに魔女としての高い魔力がなかったとしたら、無事ではいられなかったはずだ。


 もし失っていたら。

 想像しただけで、手が震えた。

 少し前まで、結婚が嫌ならばフレイに譲るべきかとまで考えたこともあったが、そんな生ぬるいことを考えていていいのかと自問自答した。譲ってしまったら、万が一にも彼女を失った時には、その亡骸を自分の元に置くことすらできない。

 それは嫌だと思った。どんな形でも、彼女の所有権を主張したいと。


 ……その方法としては、結婚指輪をはめてしまうのが一番だ。

 踏み切れないのは、精霊王の剣のせいだ。


 リュシアンは思い出す。

 剣は、ある嵐の日に家に持ち込まれた。

 今はもういない父公爵を頼って、アルヴァイン公爵家の縁戚の騎士が持ってきたものだった。


 ――精霊王の宿る剣だ、と。


 当時の情勢を、幼いリュシアンは正確に理解しているわけではなかった。でも即位して数年経っても横暴なままの王に対して、貴族たちも精霊協会もしびれを切らしていたらしいことは、当時聞き知った情報から推測できる。

 おそらく大人たちは、穏便に譲位をさせようとしたのだ。

 精霊王の託宣という形で。


 後から知ったが、精霊協会は独自に精霊王召喚の儀式を行おうとして、何度も失敗していたらしい。

 そこでこの騎士が、どこからか「精霊王の剣」なるものの話を聞きつけて、持ってきたのだろう。それを弱腰ながらも、当時の王とそりの合わなかったリュシアンの父のもとに持ち込んだ。

 妻であるリュシアンの母は、精霊協会に肩入れしていた元王女でもあるので、必ず精霊協会へ持ち込んでくれると考えたのに違いない。


 しかし、国王も精霊協会側の動きを警戒していたのだろう。

 夜中に襲撃する形で、屋敷に雇った人間に押し入らせた。

 リュシアンは、ちょうど夜中に起きてしまい、剣を眺めていたところを巻き込まれ……。

 斬りつけられたリュシアンの血が剣に触れ、自分の身を守るために剣をつかんで、剣の精霊の声に応じたことで、契約が成されてしまったらしい。


 剣はリュシアンの魔力を取り込んで、襲撃者を倒したけれど……。

 精霊王の剣の影響で、精霊が見え、声が聞こえるのと同時に、呪われたように周囲の精霊の力を取り込もうとする剣の影響を受けることになってしまった。


 しかしそのせいで、リュシアンは国王からはある意味感謝されたのだろう。

 精霊協会から危険視され(当時は精霊王の剣かどうかも疑問視されたので、呪われた剣ではないかとまで言われた)、処分をとまで言われたリュシアンが助かった理由。

 それは現国王の叔父と祖母がかばったおかげでもあったが、そのかばう言葉を後押しした、先代国王の意見もあって精霊協会は手を出せなかったのもある。


 とにかくあの危険な剣は、リュシアンと契約を結んだ。

 それはリュシアンだけだと思っていた。

 でも後日、むやみにリュシアンが周囲の精霊の魔力を奪わなくなってきた頃、剣に宿る精霊王の分身だという精霊が言ったのだ。


 ――この剣は血の契約で結びつけられた。以後、お前の家系の人間が持つことになるだろう。


 それは自分に子供ができたら、自動的に剣はその子供を主とし、精霊の力を奪う人間になることを意味している。

 リュシアンはさすがにぞっとした。

 不可抗力で契約を結ぶことになってしまった自分だけでも、もうこの剣を破壊してやりたいとまで考え、心底絶望したことだって何度もあったのだ。

 だけど自分の子孫は、生まれた時からこの剣に縛られるらしい。


 ……とても、そんなことを受け入れる気持ちにはなれなかったのだ。

 こんな呪われた剣でも、役には立つこともある。でも役立てたい、使いたいと思う者は、自分で選んで持つべきだ。

 間違っても、生まれたとたんに決められることだけは、あってはならない。


 だからメイア・アルマディールとの婚約も、なんとか解消した。

 どんな婚約話も見合いも、全て断ってきた。

 でもその決意が、人生で一番揺れている。


 自室に入ってようやくリュシアンはため息をつく。


「目下の問題は……ユラが同意するかどうかだ」


 リュシアンに好意は感じていると思う。触れても拒絶せず、口づけても嫌がりはしない。

 だがフレイに対しても、同じ反応をする可能性がある。


「それに、面倒そうな物事に彼女を巻き込めるのか……」


 先々のことを考えると、ユラを泣かせる状況しか想像できない。

 拒否されるのも怖いまま、でも誰かにとられるのは嫌で、自分に気持ちが向いているかを何度も確認してしまう。


 ただゆっくり悩んでもいられない、とリュシアンは思う。

 フレイによるイドリシアの人間が関係しているという話から、メイア・アルマディールが魔女に関係していないわけがない。

 国王に手紙で調査の必要について知らせたので、いずれ結果が出てくるだろう。


 メイア達が、裏をとった上で説得を聞いてくれたらいい。

 しかし説得では決着しなかった場合。メイアやイドリシアの精霊術師を相手に、戦うことも考えられる。

 そうなれば、魔女だと知られたユラは標的にされてしまうだろう。


1巻発売中!4/3には2巻発売予定です。

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