お城へ帰った後は診察を受けましょう
まずは、騎士団の城へ帰ることになった。
なにせ私がこの状況だ。
フレイさんは、私を連れて来ていた馬に乗せてくれる。まだ体がふらふらして、とても歩けそうになかったので、助かった。
しかし馬に乗るのも一苦労だ。
ほぼ病人状態なので、フレイさんに介助してもらって、馬に乗ることになったのだけど。
「首に手を回してくれるかな?」
フレイさんが微笑んでそう要求してきた。私は首をかしげる。
今まで、フレイさんがそんなこと言ったことがあったっけ?
でも首につかまると、少しは軽く感じられるという話を聞いたことがあるので、お世話になる身としては拒否するのもおかしい。
しかし自分から抱き付くみたいで恥ずかしいし、お付き合いしていない男女でするのは……と思うのだ。
「あの、がんばって自力で……」
「わかった。このまま運ぼう」
「ひゃっ!」
強制的に抱き上げられてしまった。あっという間に馬に乗せられてしまう。
でもこれで、抱き付くような姿勢をとることはなくなったのだ。ちょっと息をついた私だったけれど。
「普通に乗るのも辛いだろうから、少しよりかかって」
後ろに乗ったフレイさんに、抱え込まれるようにして引き寄せられて、私は慌てる。
「ご迷惑でしょうから」
「迷惑なんかじゃないよ。俺にも責任があることで、君にずっと嫌な思いをさせてきたんだ。少しでも役に立ちたいんだ」
その言葉に、ああ、と私は思い出す。
フレイさんには以前も、トラウマを植え付けたりしたことがあったな……と。もしかするとこのことも、フレイさんは表には出していないけれど、すごく傷ついたんじゃないだろうか。
自分の知らないところで、家族が友達を殺しかけたようなものだ。
そんな風に考えると、なんだか拒否しにくい。
どう言おうかと思っているうちに、フレイさんがお腹に腕を回して、シートベルトみたいに固定してしまう。
ぐぬぬ……確かに楽だ。
馬に乗る時って、きちんと背すじを伸ばしていないといけないけど、今はものすごくそれすらもつらかったので、ほっとしてしまう。
「眠ってしまっても大丈夫ですよ。落としたりしませんから」
フレイさんにそう言われてしまったら、ますます気が抜けていってしまいそうで危ない。
「いえ、それだけは!」
眠ってしまったら、さすがにフレイさんの負担が大きくなりすぎる。だからと思って、私は目をしっかりと開けて城まで戻った。
馬に乗せて帰ってもらったことに関しては、すれ違う騎士さん達には何とも思われなかった。
フレイさんが時々「お、ユラ係再開か?」と言われるだけだ。
そうだった。フレイさんはユラ係を解任されたのだった。
なのにあそこにいたってことは……。
「あのフレイさん」
「なんだい?」
こそこそと私はフレイさんに尋ねた。
「もしかして私の周囲に、魔女を作ろうとした人が来るかもしれないと思って、私の様子を見に来て下さったんですか?」
「気は配っていたんだ。精霊に頼んでね。今日は火竜を連れて行ったというし、君も相応の魔力があるだろうから滅多なことはないと思ったけれど……。一応追いかけて様子だけ見ておくつもりだったんだ」
なのに私が、襲撃されそうになる前に、騒ぎを起こしていた、と。
「そうしたら、私の魔法……」
見ていたんだろうかと思えば、フレイさんにうなずかれる。
「正直、予想以上で驚いた。火竜との戦いで、君が精霊の盾をやたらと連発するのは知っていたんだけどね」
普通とは違いすぎるものを見ると、確かに驚くだろうし、目を疑うだろうな……。
「それより、これからすぐ団長と話せそうかい? 俺は明日でもと思ったんだけど」
言葉を切ったフレイさんが、前方を示す。
「精霊にでも知らせるように指示していたのか、お迎えに来ているよ」
「え、お迎え?」
言われて見れば、第一棟の方から銀の髪の人物が歩いてきていた。
団長様は、少し離れた第五棟の前まで着くと、そこで私とフレイさんを待ち構えるように腕を組んで立つ。
「……早めに、説明してしまいましょうフレイさん」
今のうちに言っておかないと、後で私が質問攻めにされそうな気がする。
「わかったよ」
フレイさんはうなずき、第五棟の団長様の前で私を降ろしてくれた。
「団長、ユラさんをオルヴェ先生に診せた方がいいのですが、連れて行ってもらえますか?」
「……どこかで倒れていたのか?」
団長様の表情が曇り、まだ少し足下がおぼつかない私の腕を掴む。
「過呼吸を起こしたみたいで……」
私が説明すると、団長様は「わかった」とうなずく。
そこにフレイさんが言い添えた。
「その原因について、団長にお話があります。ユラさんも同席した上で、お願いしたいのですが」
団長様は眉をひそめた。
「わかった。とにかく馬を置いてこい」
フレイさんはうなずき、馬を引いてその場を離れた。
馬にくくりつけていた籠から、火竜さんが飛び出して私についてくる。
私はオルヴェ先生の診察室へ向かうため、何歩か進んで第五棟の中に入ったところで、団長様に抱える形で支えられる。
「足がふらついている。本当に歩けるのか?」
ものすごく心配そうに団長様に言われて、私はほろっと気持ちが弱ったようだ。
「歩けないことはないんですけれど、まだちょっとめまいがしまして」
「それなら、やや気にくわなかったが、フレイが支えていたのは仕方なかったのか……」
ん? なんだか団長様が変なことを言ってる……。
でも、つついたら大変なことになりそうなので、私は聞かなかったことにした。
まずはオルヴェ先生に、この状態を治せるかどうか診てもらってからだ。
「オルヴェ、急患だ」
扉を開けて団長様が言った。
診察室にいたオルヴェ先生は、急患という言葉に驚いて立ち上がり、その急患が私だったことに目を丸くした。
「どうしたんだユラ?」
「過呼吸だそうだ。まだめまいがするというので、診てやってくれ」
団長様が答えて、私を診察室のソファに座らせてくれる。
オルヴェ先生は何かの魔法を使って、私の状態を確認した。その後で脈を確認した後、薬湯を淹れてくれる。
「それを飲んだら、今日は休んでおくといい。明日になったら、自分で心が落ち着く茶を淹れて様子を見ながら行動できるだろう」
「ありがとうございます」
お礼を言って、久しぶりに先生が淹れてくれた薬湯に口をつけた。
ちょっと苦い。でもこういうものだとわかっているのと、元から薬湯が苦手で飲めないわけではなかったので大丈夫だ。それに暖かいものを口にしたからか、さっきよりもずっと体が楽になった気がする。
追って、薬湯の効果が出て来たら、普通に動けそう。
そうして私が薬湯をちびちび飲んでいる間に、団長様が端の誰もいない病床室を借りたようだ。
さらにフレイさんもやってきたので、薬湯を飲み終わった私は、団長様達と一緒にそちらへ移動することになった。
※3/2書籍発売日になります、宜しくお願いいたします。




