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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました
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ゲームの始まりです。

 え、戦えないよ! と思ったが、団長様はうなずく。


「討伐に関与する職の人間としてなら、実際に戦わなくとも討伐者として登録はできる。

そのために教会の魔法機構に登録さえすれば、騎士団で雇用を止めると言わない限りは、オルヴェに診させることもできる。どうする?」


「ええと、戦わなくても大丈夫なら、そうします」


 優先すべきはそこだ。

 もしこれを拒否したら、騎士団のお城を出て行かなくちゃいけない。

 それを押して居続けると、難しい症例だろうからと、研究所から私を護送するように連絡が来るのだろう。


 騎士団としても、万全な態勢を持つ研究所に患者を送らないわけにもいかない。

 でもそれは嫌だ。

 私が応えると、団長様が言った。


「ではフレイ、登録のために町まで連れて行くように」


「わかりました」


 団長様に一礼したフレイさんに連れられて、私は騎士団のお城から、城下の町へと降りることになった。

 ん……?

 なんかこの流れ、どこかで見たことがあるような。

 首をかしげた私は、すぐに思い当たる。


 ――ゲームの始まりだ。

 チュートリアル戦闘を行った後、勧誘されたもののまだ討伐者登録をしていなかったプレイヤーは、チュートリアル説明役の騎士と一緒に町へ行くんだ。


 この時にはもうお昼を過ぎていた。

 なのでフレイさんは急いで私を馬に同乗させ、町まで降りた。

 お城から、格好としては町娘その1みたいな女を乗せてお城から出て来たわけで。

 なにせ私は、生成りのコットの上から、汚れが目立たない色ならいいやと思って作った、茶色のスカートに胴衣を着ている。実に地味。


 ……20歳の行き遅れ決定女が、あれこれと着飾ったって仕方ないんだもの。

 ただでさえ、この服を作った頃の私って対人恐怖症のひきこもりで、お祖母ちゃんがいなくなったら修道女にでもなるか……と真剣に考えていたくらいだ。


 その踏ん切りもつかなかったのは、修道女はけっこう重労働で、平民は貴族令嬢の下働きを一生させられて、わがままのせいで酷い目にあうと聞いたのもある。

 身分差ってほんと怖い。


 でもそんな地味な女が騎士様と相乗りしていたのだ。

 騎士団に食料なんかを売りに行ったり、町中の警備を終えて戻って来たんだろう騎士さんや見習いさんが、何があったんだろうと振り返る。

 この状況だと、何か起こったと思っても仕方ない。

 事件を知らせに来て、案内しろと言われたとか、そういうシチュエーションしか思い浮かばないよね。


 そうして町にやってきても、堂々と相乗りさせられているのは珍しいらしく、人の視線を集めてしまう。

 この状況の一端は、フレイさんの美形さにあると思う。

 団長様と同じ年くらいの彼も、ちょっとおめにかかれない凛々しい美形さんだ。



「揺れは大丈夫かい? かなり馬を急がせているけど……」


「だ、大丈夫です! 死んでも落ちませんので!」


 団長さんと竜に乗った時みたいに、しっかりと腰を支えられるのは申し訳ない。

 あちらは乗ったのが竜で、空を飛ぶという恐怖もあってシートベルトが必須だったけれど、地上を走る馬なら、筋肉痛になってでもご迷惑はおかけしませんとも。


 そうしてやってきたのは、ロマネスク建築っぽい教会だ。

 灰色の壁に円形アーチの窓が並ぶ、丸い建物が前面にある。

 フレイさんが玄関前にいた修道士に馬を任せ、一緒に中に入る。


 内回廊に囲まれた聖堂の中は、人もほとんどいなくて静かだった。

 十字アーチの天井や真っ直ぐな柱は綺麗だけれど、灰色の飾り気のない様子が、実に教会らしい。

 聖堂の中は、奥に精霊と星を表す巨大な壁画彫刻があり、その手前に祭壇と、青く丸い球体が浮いている。


 側には常に交代で控えているのか、教会の司祭がいた。

 前世でよく見た黒服ではなく、青いケープ付きローブと、金の縁取りがあるサッシュを腰に巻いた姿だ。

 中年の司祭は、私とフレイさんを見て微笑む。


「ようこそ教会へ。騎士団の方が一体どのようなご用件でしょうか。団長様からのご協力の要請ですか?」


「いいえ。彼女の討伐者登録をお願いしたいのです」


「ほ、討伐者? その女性がですか」


 ちょっと目を見開いて、司祭は私のことをじっと見た。

 驚くのも無理はないと、私もわかっている。

 あまりにも普通の格好だから、とても魔物と戦えるような剣技を持っていたり、魔法使いをしているようには見えないせいだろう。


「彼女は特殊な魔法を使うんだ。精霊も、見ることだけはできるらしい。これは団長のお墨付きだ」


 フレイさんが言うと、司祭は納得しがたい様子ではあったけれどうなずいた。


「団長様が保証なさるのなら、間違いなくこの方には精霊の祝福があったのでしょうな。それであれば、討伐者としての登録に、否はありません」


 そこで司祭が言った。


「しかし登録するためには、測定石が必要です。本日は取り置きしていたものを使ってしまったので、取りに行ってほし……」


「うちで保管してあるものを持って来た。これを使ってもらう」


 司祭の言葉を遮り、フレイさんが小さな指でつまめるくらいの石を渡す。

 赤い色の水晶玉だ。


 ……やっぱりこれ、チュートリアルだ。

 チュートリアルのクエストで討伐者登録しようとすると、教会に測定石がないので、教会が買い取っている町中のお店へ行くように言われる。

 いわゆるミニお使いクエストをさせられるわけだ。


 そうして、町の中を回ることで、どこに武器屋があるとかを覚えていくことになっている。

 けど速攻で終わったよ……。ミニクエストすっ飛ばしちゃった。

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