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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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竜を山に連れていきましょう

 団長様は、まっすぐに竜に向かって行く。

 そして剣を掲げた。

 流星の一瞬の輝きを強めたような光がほとばしる。

 私まで思わず顔をそむけてしまうほどだった。


 何らかの術を使われたのか、火竜が苦しがるように悲鳴を上げ、団長様から離れて上昇する。

 その間に団長様は私の所へ降り立った。なにせ一か所だけ、20m四方が焼け焦げた場所があるのだ。そこにぽつんと立っていたので、わかりやすかったのだろう。


「ユラ、無事なのか!?」


「無傷です!」


「では乗れ!」


 どうしてと思ったが、理由を尋ねている暇もない。火竜がもう一度こちらに来ないうちに、私は盾の魔法を消して団長様の側にかけつけた。

 団長様に伸ばした腕を引っ張り上げられて、竜の上に横座りする。

 すぐに竜は、体重が消えうせたかのように軽々と浮かび上がった。

 私達はあっという間に空に上がったはずだけど、空高く逃げた火竜が戻りつつある。


「あの火竜を、飛び回らない場所へ誘導する」


「はい、グルヴェイグ山ですね」


 火竜との戦闘を行う山だ。

 でも言ってしまってから、私はうっかり口に出していたことに気づく。


「どうしてわかった?」


 団長様に尋ねられて、頭の中はパニックだ。

 ど、どう言い逃れをしよう……。困った時は精霊さん頼りだ!


「あの、精霊が火竜はグルヴェイグに居させるといいって言ってたのを聞いたような!」


 自分で言っておいてなんだけれど、聞いたようなってどういうことだ。

 でもせっぱつまった状況なので、団長様は聞き流してくれたようだ。


「わかった。とにかくあの山に竜を落とす」


「どうやって……」


 疑問を口にしておきながら、私、知ってます。団長様が竜のブレスと精霊術で火竜を山に叩きつけ、持っている剣の力で火竜の力を奪ったことは。


「なんとか竜と剣の力を最大限使えば行けるだろう。代わりにしばらくは、この剣は普通の力しか出せなくなる上、使えるようになる頃には、竜は再び飛び立ってしまうだろうが……」


 団長様の言葉で、あ、なるほどと思ったのだ。

 ゲームでは火竜を山に留めさせられたのに、それだけの力があるなら、なぜ止めが刺せなかったのかと思ってた。

 団長様の力でもそれ以上は魔力切れとかそんな感じで、すぐにはどうにもできなかったのね。

 でも急いで火竜を倒す必要があるので、騎士団で討伐しに行ったと。

 放っておいたら火竜が力を取り戻して、山の精霊力ぐらいは振り払えるようになっちゃうだろうから。


「とりあえず目を閉じていろ」


 団長様は火竜に向かって、剣を振る。

 私は急いで目を閉じたけれど、まぶたを通しても強い光が感じられた。

 竜の叫びが聞こえる。

 目を開けた時には、火竜は私達の側から逃げようとしていた。

 団長様は、高く上昇しつつ火竜を追いかける。


 さっきので火竜はかなりのダメージを負ったのか、飛行速度も遅くなっている。

 団長様の竜は軽々と火竜の上を陣取った。

 目的の不自然に白い山を目の前にして、団長様は剣を振り下ろす。

 今度は強い光ではなかった。

 鋭い紫の雷が放たれて、火竜を打ち据える。


 雷の衝撃に押されるように、火竜は無事、白く霜に覆われたグルヴェイグ山に落ちて行った。

 竜を旋回させつつ、団長様と共に観察したけれど、竜は苦し気に身じろぎするだけでそこから逃げられそうにはない。

 やがて火竜の翼に、白い霜がつきはじめた。


「あれでいいだろう。しばらくは動けまい」


 そこで団長様はようやく息をつき、私をじっと見た。


「無事で良かった、ユラ。きっとあそこにいるのは、お前だろうと思ったから心配していた」


「そういえば、私の居場所がわかるって言ってましたよね」


 うっかりすると忘れがちになってしまう、団長様のペット魔法だ。確か居場所がわかると言っていた。


「そうだ。あと、竜のおかしな動きを見ていれば、おおよそ想像はついた。変な挙動をする魔物がいたら、たいていお前が関わっているからな」


「私とは限らないように思うのですが……」


 でも火竜がおかしな動きをしたのは、私のせいだし。どうも反論しきれない。


「魔法で攻撃していただろう。無茶をするな。何かしたくてもほどほどにしておけ」


 団長様にはばっちり見られていたようだ。


「でも団長様。あのままでは森が……」


 町の一部だって損害が出ていたかもしれない。


「わかっている。だが、自分のできる範囲以上のことをする必要はない。それ以外は私に任せておけ」


「……はい」


 うなずいたところで、団長様が私をぎゅっと抱きしめてきた。


「本当にお前は、いつも私を青ざめさせてばかりだ」


「あの、団長様?」


 あれ。わりと団長様って接触多くなってきていたけれど、あんまり抱きしめたりはしないのに、あれ?


「そんなに心配させてしまって、すみませんでした」


「ああ心配したとも。だから先にお前を拾って行ったんだ。火竜がそのままお前に固執しては困る」


 なるほど。それで私を先に拾って下さったんですね。

 納得しかけたところで、団長様は理由をもう一つ言った。


「それに火竜が被害をもたらしたのは、お前がいた一か所だけだ。すぐに他の騎士達が急行しているだろう。残して行くわけにはいかなかった。フレイにでも見つかれば、どうなるか……」


「お世話をおかけしました」


 うっかりとフレイさんのトラウマを積み増しするところだった。危ない危ない。

 フレイさんが、今度こそヤバくなってしまうかもしれないもの。

 お礼を言いつつ、団長様を拝みたかったけれど、思った以上に団長様の引き寄せる力が強くて、身動きできない。


 どうしてだろうと思う。いつもと団長様が違う。

 そこが不安で。でも広い空しか見えない状態で団長様にくっついていると、それも少しずつ消えていく。

 普通はこんなに異性とくっついていたら、ドキドキするものじゃない? いや、確かにドキドキすることもあったけれど。


 まさか、私の何分の一かが精霊だからじゃないよね? だからこんなに、団長様といると落ち着いちゃうのでは。

 そんな疑惑が心をよぎった時、見透かすように団長様が言った。


「お前は、いつも私に抵抗しないんだな」

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