そして次のクエストの到来
数日後、私はイーヴァルさんに頼んでいたヘデルの供給を受けて、一気にお茶を作成した。
森の巡回組も、街道沿いの巡回組もはりきって集めてくれたおかげで、山のようにヘデルが集まった
。
「一籠20クレスでいいですよ」
そう言ってイーヴァルさんが微笑みながら、喫茶店の窓の外に積み上げて行った。
……いや、一籠でそれはいいんですが、一気に20籠ってかなり大量でびっくりしました。
私はお代をイーヴァルさんに渡し、さっそくお茶を作成。
乾燥は、鍋の中に入れたまま、飛んで行かないよう布を掛けてのドライヤー魔法でがんばってみた。蓋を開けたまま葉を冷ました後で使うと、結構早く乾く。
そしてヨルンさんに納品し、さらに莫大なお金を得た。
仕入れ値からするとかなり儲けが出て、なんかちょっと笑いが止まらない。うふふふ。数日分の労働のお給料で、こんなお金、手にしたことないよ。
「このお金どうしよう。まず喫茶店の内装にお金かける?」
でも壁の塗り直しを頼むと、お店を閉めなくちゃいけないし。まぁ、おいおい考えよう。
「あとは少しずつ、お金溜めておこ」
いつか魔女として強くなった後、それを公表したら、一人で隠れ住む必要が出て来ると思う。
その時にはもちろん、おおっぴらに紅茶を生産できないだろう。
「……あ、そうか。そのためにも大量流通させておいた方がいいのか」
そうしたら、市場に流れた紅茶を転売している人間を装って、あちこちで売って歩けばいいわけで。ゆくゆくはちょっと変わった紅茶の生産方法を編み出して、他国に出て紅茶を売ったらいい。
「魔女の問題が解決したら、だけどね」
このままいけば、私はいずれ魔女を作ろうとしている人達とぶつかることになる。相手は実験なんてこともできるのだから、きっと強力な魔法が使える敵になるだろう。
戦うことになったら、間違いなく魔女だってバレそうだし。
次の日は、自分でまた採取へ行くことにした。
森へ行き慣れて、できれば普通の魔法にも慣れておきたい。
あれから少し考えたのだが、呪文を一節だけ言うのに慣れてしまえば、ステータス画面を見ずに魔法が使えるようになるはず。その方が、怪しい動作をしないで魔法を使えるので、不審さが減ると思うのだ。
「まぁ、怪我はしたくないから普通の風の盾で防御して、と」
森に入って人の姿を見なくなったところで、魔法を発動。
団長様に確認してもらった通りの、薄ら緑色の風が私の周囲を取り巻く。低レベルの魔物しか出て来ないここなら、十分に敵の攻撃をかわせるはずだ。
そうして、ヘデルは自分で集めて来なくても大量にもらえるので、先日も採取したようなキイチゴなんかの実を探すことにした。
先日のキイチゴは、結局ジャムにした。
お茶に入れると《キイチゴティー。効果:攻撃回避(弱)。スキル練度+15》となった。なかなかいいお茶になった。
ただ騎士さん達はあまり甘いお茶を好む人はいないので、お店には出していない。ので、もっぱら私がパンを食べる時に塗って消費しているのだけど。
他の木の実があったら、そういうのも試してみたいので、採取しようと思っているのだ。
「あ、野生のイチゴ」
普通に売ってるイチゴと同じなんだけど、こっちは森に自生しているものだ。土壌さえ合えば意外にたくましく増殖するイチゴは、見つけた場所一面に白い花を咲かせたり、赤い実をつけていたりしていた。
一生懸命にイチゴを摘んで、小さな袋が一杯になったところでやめて立ち上がったのだけど。振り返ったら、妙な人達が遠くから近づいてきていた。
「ちょうど一人でうろついていた奴がいるぜ」
「しかも女だ」
「おお嬢ちゃん。森の外まで送ってやるから金出しな」
典型的なカツアゲ文句というか。お金だけ取り上げて、帰してくれるだけ、良心的なのだろうか……。
と、考えたところで思い出す。
「あー……」
この人達、お金稼ぎのためにやるお使いクエストの人だろう。森でカツアゲする悪人を捕まえて来てと頼まれて、倒して騎士団に引き渡すと、報酬がもらえるやつだ。
別の騎士団に所属していても、細かいクエストはほぼ同じなのでわかる。
しかもこの人達、前に町で私をカツアゲしようとした人達じゃない?
あの時はお金を差し出して逃げるしかないと思ったけど……大丈夫。今の私は強くなった。
「渦を巻け大気……」
小声で一節だけ唱える。それで十分に魔法は発動した。
発生した大人二人分の幅の竜巻が三人に襲いかかり、逃げようとした彼らを弾き飛ばす。
「ダメージが入ると効きやすいから……っと。その目蓋に夜の帳を……」
睡眠の魔法を使うと、地面に倒れた三人はあっという間に眠ってしまった。
「効きが良すぎるような? あ、そうか」
考えてみたら、私の魔法適性がひどい数字なんだった。効かないわけがない。
そうして眠らせた間に、縄で彼らを縛ってしまう。
万が一のために、ヘデルとかをまとめる用に細い縄を持って来ていて良かった。
「おー、私ってできるじゃないですか」
全て完了して、ばんざーいと思っていたら、彼らが突風でさらに遠くへ転がって行く。縄で縛ってあるせいで、近くの木にも掴まれずにさらにごろごろと。
たぶんあちこちぶつかって痛いだろうけれど、私も彼らを気にしている場合じゃなかった。
よろけて、側の樹の幹にしがみつく。
そうして風の発生源を求めて上を見上げた私は、風圧がなかったらぽかーんと口を開けていただろう。
身の丈が巨大なビルみたい。
姿は赤茶けた色の鱗が生えた……トカゲ。
でもトカゲじゃないのは、ごつごつとした造りの頭部に鋭い牙が生えていることと、角が四本もあることでわかる。
そして背中に大きな皮翼。
それはまさに竜で。
オオオオォオォォォン!
竜の鳴き声に耳を塞ぎそうになりながら……私は、ぼうぜんとしていた。
「なんで竜が……」
だって魔女が呼ばなければ、竜は現れないはず。
もう誰かが……竜が呼べるほどの魔女になってしまったの?




