一人だけのお茶会に参加者がきた
一度成功して、味をしめた私。
それからは毎日のように、紅茶っぽいものを作っては飲むということを繰り返した。
慣れてくると、今度は他の香りもつけたくなる。
なのでオルヴェ先生が町へ出る時に、一緒に連れて行ってもらい、香り付けができそうな薬草とか林檎、干し果物も買った。
「あ、これはアーモンドみたいな香り。こっちはオレンジだ」
色々あって、確認しているだけでわくわくしてくる。
水色を紅茶っぽくするために買ったものもあった。
これは何かの花弁らしい。名前はそのまま「赤花」と薬屋さんで教えられた。でも赤い色が出るというので、紅茶らしい色づけをしたくて買ってみたのだ。
効能は、風邪の時に喉の痛みを抑えてくれるらしい。
赤い色素が炎症を抑えたりするんだろうか。
なんてことを考えつつ、さっそく実験する。
まずは小さじ半分の量を、お湯に入れてみる。薄赤い色のお湯になった。
飲んでみたけれど、特に味はしない。
混ぜたら丁度よくなりそうだけど。
「やっぱり紅茶として使うなら、混ぜた茶葉を缶に入れておいて、それを小さじ一杯ポットにいれてすぐ使えるようにしたいよね」
普通の茶葉みたいに使えるようにしたい。
なので、私はヘデル茶とドゥルケ茶を一匙ずつ。そこに赤花を小さじ半分入れて、まずは小さなフライパンで煎る。
フライパンが熱されてくると、ぽわんと白い煙が茶葉から湧き上がって、雲みたいになって一瞬で溶けるように消えた。
「何だろうこれ……」
今までの異世界人生で、料理をしていてこんな風になったことがない。
でも変な匂いもしないし、飲むのは私だし。どの素材も、今まで変な感じになったことはなかった。
きっと水蒸気がたまたま変な風になっただけだろう。
私は香りがするまで煎って、出来たものをポットに小さじ一杯分入れ、お湯をそそぐ。
「あ、なんだかとってもミルクを入れたい感じ」
アッサムみたいな濃い味を思わせる香り。そしてカップに注いだお茶の色は、思い描いた以上に紅茶らしい、赤味がかった茶の水色だった。
一口飲んでみる。
飲むとほっとする懐かしい味に仕上がった。もうこれを正式に、紅茶と言おうと思うぐらいに。
「あー、紅茶だ……すごくミルクを入れたい紅茶」
そして気持ちがほんわかしてきて……どうしてもミルクが欲しくなる。
なので私は給湯室の冷蔵庫を探した。
この世界には魔法があるので、冷蔵庫が存在している。
氷の魔法を閉じ込めているという、青い鉄の棒のようなものを一段ずつに入れた木の棚がそれだ。
その棒はそこそこのお値段がするので、棚も小さくて、そんなにたくさんは入れられないけれど、ミルクなんかを保存するのには十分だ。
覗いて見ると、冷蔵庫にミルクが残っていた。
さっそくミルクティーにする。
「うふふふふふふ」
笑いながら混ぜる。
猫舌なので、ミルクは冷たいままそそぐと丁度いい。
さあ飲もうとしたところで、声がかけられた。
「すまないが……」
「うわ、ひゃいっ!?」
一階の洗濯場にいて、声を掛けられると思わなかったので、私はびっくりする。
二階へ昇る階段の側に洗濯場があって、その奥に台所があるからだ。
しかも扉を振り返れば、そこにいたのはリュシアン団長様だ。
私の実験を、団長様に見られるだなんて! 変なことを企んでいるって怒られたりしないかな?
そんな想像をする私を他所に、団長様は普通に尋ねてきた。
「オルヴェは外出中か? 薬を受け取りに来たんだが……」
「あ、先生は確か、第五部隊のいる西壁の方にいるかと」
たぶんそこで、酒盛りのお相伴をしてます。
週に何度か、オルヴェ先生はあちこちの部隊の酒盛りに混ざるらしいのだ。翌日、お酒の匂いもするし、二日酔いの薬を求めてやってきた騎士さんの話からすると、どうやらそういうことらしい。
一度、オルヴェ先生を迎えに来た騎士さんに誘われかけたこともある。けれど、若い娘をむさい奴しかいないところへ連れて行けるか、とオルヴェ先生が断ってくれたこともあった。
おかげで助かった。転生後の私って、お酒に強くないんだもの。
今日もそんな感じだと思うので、団長様に濁して伝えた。すると、団長様の方がよくご存じだったようだ。
「なるほど酒盛りか。それならもうしばらくしたら戻ってくるだろう。良ければ待たせてもらおうと思うが……」
そこで団長様は、私が作った『紅茶』を指さす。
「それは何だ? 変わった香りの茶のようだが」
「あ、何か変な匂いだったりします? 迷惑ならやめますが……」
団長様が不愉快なものを作り続けていたら、ここから放り出されて、お医者さんがいない故郷で震えて生活するしかなくなる……。
せめて、体が大丈夫だという太鼓判を押してもらってから帰りたい。
慌てた私だったけれど、良そうに反して団長様は素敵なことを言ってくれた。
「いや、良い香りだ」
褒められて、私が調子に乗らないはずがない。
「あ、これですね、実は私めが混ぜて作ったものでしてね……」
聞いてくれとばかりに説明をしてしまった。
「ヘデル茶に……ほぅ」
「一応飲んでみましたが、なかなかの出来で。あ、でもお待ちになる間は団長様には、普通のお茶の方をお出ししますね。お腹をこわすといけませんし」
ここまで説明しておいて何だけど、団長様に変なものを無理に飲ませるわけにはいかない。
けれど私の意に反して、団長様は首を横に振った。
「どうせなら珍しいものを口にしたい。それをもらってはだめなのか?」
「だめってことはないですが……。お腹痛くなっても、自己責任ですよ? 一応私が飲んでも平気なので、毒とかそういうことはないと思いますけれど、体質が合わないってこともあるでしょうし」
「君が平気なら、問題ないだろう」
ちょっとむっとした様子なのは、私より団長様の方が体が丈夫だと言いたいのかな?
よし、ならば言質はとったので、チャレンジしていただこう。
「わかりました。では団長様の分もご用意しますね」
私は沸いたままだったお湯を使い、団長様の分も紅茶もどきを作る。
そういえば薬を取りに来たって言っていたから、団長様体の具合悪いのかな?
風邪かなと思いながら、ミルクを足して出来上がる。
「ご覚悟はいいですか?」
カップを差し出すと、
「問題ない」
と言って団長様が受け取る。
そうして無言のまま、私達は同時にカップに口をつけた。
団長様、マズイとか言わないかな? 気に入るかな?
こくこくと飲み込みながらそんなことを考えていたのだけど。
ほぼ二人同時にカップを置いたとたん、
「ぐー」
私と団長様は、一緒にテーブルに突っ伏して眠ってしまったのだった。




