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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました

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一人だけのお茶会に参加者がきた

 一度成功して、味をしめた私。

 それからは毎日のように、紅茶っぽいものを作っては飲むということを繰り返した。


 慣れてくると、今度は他の香りもつけたくなる。

 なのでオルヴェ先生が町へ出る時に、一緒に連れて行ってもらい、香り付けができそうな薬草とか林檎、干し果物も買った。


「あ、これはアーモンドみたいな香り。こっちはオレンジだ」


 色々あって、確認しているだけでわくわくしてくる。

 水色(すいしょく)を紅茶っぽくするために買ったものもあった。

 これは何かの花弁らしい。名前はそのまま「赤花」と薬屋さんで教えられた。でも赤い色が出るというので、紅茶らしい色づけをしたくて買ってみたのだ。


 効能は、風邪の時に喉の痛みを抑えてくれるらしい。

 赤い色素が炎症を抑えたりするんだろうか。


 なんてことを考えつつ、さっそく実験する。

 まずは小さじ半分の量を、お湯に入れてみる。薄赤い色のお湯になった。

 飲んでみたけれど、特に味はしない。

 混ぜたら丁度よくなりそうだけど。


「やっぱり紅茶として使うなら、混ぜた茶葉を缶に入れておいて、それを小さじ一杯ポットにいれてすぐ使えるようにしたいよね」


 普通の茶葉みたいに使えるようにしたい。

 なので、私はヘデル茶とドゥルケ茶を一匙ずつ。そこに赤花を小さじ半分入れて、まずは小さなフライパンで煎る。

 フライパンが熱されてくると、ぽわんと白い煙が茶葉から湧き上がって、雲みたいになって一瞬で溶けるように消えた。


「何だろうこれ……」


 今までの異世界人生で、料理をしていてこんな風になったことがない。

 でも変な匂いもしないし、飲むのは私だし。どの素材も、今まで変な感じになったことはなかった。

 きっと水蒸気がたまたま変な風になっただけだろう。

 私は香りがするまで煎って、出来たものをポットに小さじ一杯分入れ、お湯をそそぐ。


「あ、なんだかとってもミルクを入れたい感じ」


 アッサムみたいな濃い味を思わせる香り。そしてカップに注いだお茶の色は、思い描いた以上に紅茶らしい、赤味がかった茶の水色だった。

 一口飲んでみる。

 飲むとほっとする懐かしい味に仕上がった。もうこれを正式に、紅茶と言おうと思うぐらいに。


「あー、紅茶だ……すごくミルクを入れたい紅茶」


 そして気持ちがほんわかしてきて……どうしてもミルクが欲しくなる。

 なので私は給湯室の冷蔵庫を探した。


 この世界には魔法があるので、冷蔵庫が存在している。

 氷の魔法を閉じ込めているという、青い鉄の棒のようなものを一段ずつに入れた木の棚がそれだ。

 その棒はそこそこのお値段がするので、棚も小さくて、そんなにたくさんは入れられないけれど、ミルクなんかを保存するのには十分だ。


 覗いて見ると、冷蔵庫にミルクが残っていた。

 さっそくミルクティーにする。


「うふふふふふふ」


 笑いながら混ぜる。

 猫舌なので、ミルクは冷たいままそそぐと丁度いい。

 さあ飲もうとしたところで、声がかけられた。


「すまないが……」

「うわ、ひゃいっ!?」


 一階の洗濯場にいて、声を掛けられると思わなかったので、私はびっくりする。

 二階へ昇る階段の側に洗濯場があって、その奥に台所があるからだ。


 しかも扉を振り返れば、そこにいたのはリュシアン団長様だ。

 私の実験を、団長様に見られるだなんて! 変なことを企んでいるって怒られたりしないかな?

 そんな想像をする私を他所に、団長様は普通に尋ねてきた。


「オルヴェは外出中か? 薬を受け取りに来たんだが……」

「あ、先生は確か、第五部隊のいる西壁の方にいるかと」


 たぶんそこで、酒盛りのお相伴をしてます。

 週に何度か、オルヴェ先生はあちこちの部隊の酒盛りに混ざるらしいのだ。翌日、お酒の匂いもするし、二日酔いの薬を求めてやってきた騎士さんの話からすると、どうやらそういうことらしい。


 一度、オルヴェ先生を迎えに来た騎士さんに誘われかけたこともある。けれど、若い娘をむさい奴しかいないところへ連れて行けるか、とオルヴェ先生が断ってくれたこともあった。

 おかげで助かった。転生後の私って、お酒に強くないんだもの。


 今日もそんな感じだと思うので、団長様に濁して伝えた。すると、団長様の方がよくご存じだったようだ。


「なるほど酒盛りか。それならもうしばらくしたら戻ってくるだろう。良ければ待たせてもらおうと思うが……」


 そこで団長様は、私が作った『紅茶』を指さす。


「それは何だ? 変わった香りの茶のようだが」

「あ、何か変な匂いだったりします? 迷惑ならやめますが……」


 団長様が不愉快なものを作り続けていたら、ここから放り出されて、お医者さんがいない故郷で震えて生活するしかなくなる……。

 せめて、体が大丈夫だという太鼓判を押してもらってから帰りたい。

 慌てた私だったけれど、良そうに反して団長様は素敵なことを言ってくれた。


「いや、良い香りだ」


 褒められて、私が調子に乗らないはずがない。


「あ、これですね、実は私めが混ぜて作ったものでしてね……」


 聞いてくれとばかりに説明をしてしまった。


「ヘデル茶に……ほぅ」

「一応飲んでみましたが、なかなかの出来で。あ、でもお待ちになる間は団長様には、普通のお茶の方をお出ししますね。お腹をこわすといけませんし」


 ここまで説明しておいて何だけど、団長様に変なものを無理に飲ませるわけにはいかない。

 けれど私の意に反して、団長様は首を横に振った。


「どうせなら珍しいものを口にしたい。それをもらってはだめなのか?」

「だめってことはないですが……。お腹痛くなっても、自己責任ですよ? 一応私が飲んでも平気なので、毒とかそういうことはないと思いますけれど、体質が合わないってこともあるでしょうし」

「君が平気なら、問題ないだろう」


 ちょっとむっとした様子なのは、私より団長様の方が体が丈夫だと言いたいのかな?

 よし、ならば言質はとったので、チャレンジしていただこう。


「わかりました。では団長様の分もご用意しますね」


 私は沸いたままだったお湯を使い、団長様の分も紅茶もどきを作る。

 そういえば薬を取りに来たって言っていたから、団長様体の具合悪いのかな?

 風邪かなと思いながら、ミルクを足して出来上がる。


「ご覚悟はいいですか?」


 カップを差し出すと、


「問題ない」


 と言って団長様が受け取る。

 そうして無言のまま、私達は同時にカップに口をつけた。

 団長様、マズイとか言わないかな? 気に入るかな?


 こくこくと飲み込みながらそんなことを考えていたのだけど。

 ほぼ二人同時にカップを置いたとたん、


「ぐー」


 私と団長様は、一緒にテーブルに突っ伏して眠ってしまったのだった。

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