ソラの提案
「こっちこそ、来てくれてありがとう。先日はごめんね、ソラ」
ソラのおかげで、私も笑顔を浮かべてお礼を言うことができた。
「いいや。君が怖がることも想定しておくべきだったんだ」
大きくなったソラは、普通に椅子に座った。私もなんとなく、隣の椅子に腰かける。
「僕が急ぎ過ぎたんだ」
「あ、でも大丈夫だから、ソラ」
私は言った。
「もう決めたの。団長様達を助けるためにも、私、魔女になることを受け入れるって」
「ユラ……」
ソラは不安そうな表情をしたけれど、数秒目を閉じた後、うなずいた。
「ありがとう、ユラ。本当に僕らは君に手伝ってもらえなければ、どうにもできないんだ。少しずつでも説得するしかないと思っていたから、正直なところほっとした」
そう言って、ソラは苦笑いする。
「しかも僕らは、まだ君にそれほど色々なことを明かせないんだ」
「明かせない?」
「そう、君が聞きたいだろう根本的なこと。アーレンダールの未来。君が大切に思っている人達の未来について、なぜ知っているのかも。その目的も。だから、君が不安に思っても仕方なかったんだ」
「言えない……の?」
ソラについての不思議なことを、すべて聞けると思っていた私は拍子抜けする。
「そう、言えば僕らは消えるしかない。ずるをしているから」
ずるをしている。だから言えないし、言えばソラ達は消えてしまう。
「それってまるで……」
見つかったら取り除かれてしまうようなもの? そう言いかけたところで、ソラが「しぃっ」と言いながら自分の口の前に人差し指を立ててみせる。
「だめだよユラ、それ以上はね。それより言える話をしよう」
「う……わかった」
とにかく今、ソラがいなくなってしまっては困る。誰も私に指針を与えてくれないのは、とても不安だ。ダンジョンだって、ソラがいたからあんな移動の仕方ができたのだ。
そういう力を利用できなくなった時に……もし、自分が何か大切なことに間に合わなくなったとしたら。それが怖い。
何よりソラに会えなくなるのは嫌だ。
「ソラに相談したいことがあったの。魔物が特定ポイントに集まる場所を調査しに行くと言った時に、そこにある魔力を私に手に入れてほしいと言っていたでしょう? 実際に行ってみて、でも魔力はたぶん全部手に入れられなかったと思うの。魔法陣の中心に置いてあった、魔力が溜められてたらしい魔石が無くなっていて……。どうかな?」
「んー……ちょっと手を出してユラ」
ソラは私の手に触れて、数秒考え込むように黙った。その眉間にしわがよる。
「そうだね。予想していた魔力よりも少ない。おそらく魔石の方により沢山の魔力があったんだろうな。少し心配だけれど、仕方ないよ」
「どこに行ったのか一人で捜索するのは難しいし……」
魔力はあっても戦闘力に問題がある私だ。特に防御力が大問題。一人で探索とか不可能だろう。
「まぁ、そこは後で帳尻を合わせられるようにしよう。あとは君ができることをしようか」
「現状で私ができること……お茶を淹れることぐらい? あ、でも団長様から魔法書をもらえば、もうちょっと戦闘について行くことができるようになるかも」
まだ届けられていないけれど、たぶん私が眠り過ぎていたりして予定が狂ったのだと思う。あとで団長様に聞いてみよう。
「そういえば、魔物を倒したら自動的に私に魔力が吸収されるわけじゃないんだよね?」
「特別な魔法が必要だね。今まで君が吸収した魔力も、全ては例の実験をしていた者達が作った魔法を僕らが利用していただけだから」
「だよね……」
魔物を倒してレベルアップとはいかないか。
というか、あの実験をしている人達のことは聞いてみたいが、さっきの話しぶりからすると教えられない事柄っぽいなと思う。でも一応試してみよう。
「ソラ。私を実験台にした人達のことは、話せるの?」
やっぱりソラは首を横に振った。
「未来のことも難しいんだよね?」
たぶんソラは、この先に起こることを知っている。
けど、未来のことを詳しく語ることができないんじゃないだろうか。それこそ、固有名詞とか。だから「アーレンダールの未来」というものすごく広くて曖昧な言葉は口に出せるのかもしれない。
案の定、ソラは首を縦に動かした。
ソラもなかなか制約が多そうだ。小さな精霊達でさえ、ソラのことを「王様だ」ということぐらいしか言えなかったのを思い出す。
そんなソラが言った。
「魔力と言えば、まず君にできることをするしかないね」
「私にできること?」
「君のお茶を広めてほしい」
え、お茶を広める? そんなんでいいの!?




