森へ調査に行ってみたら
飛びトカゲが舞い上がる。
団長様の竜を先頭に、フレイさんの隊の五人と、イーヴァルさんが受け持つ五人が空を飛んだ。
ようやく慣れて来た飛びトカゲ飛行だけれど、飛行機よりも重力への感覚がきつい。
そして揺れる。
でもフレイさんが操っているのだから、めったなことはないと信じて鞍に掴まる。
代わりに飛びトカゲなら森の端まですぐだ。
あっという間に到着したそこは、眼下に何体もの魔物の姿が見えた。
「本当にすごい数……」
ぱっと見だけで、数十体はいる。
牛みたいなのから熊みたいな魔物、うねうねとした植物の蔓のかたまりみたいなものもいた。
こんな状態なら、フレイさんが怪我をするのも当然だと思う。あまりに居すぎる。
正直、プレイヤーが沢山「クエストだー」って次々にやってくる状態じゃないと、こんなの倒せる気がしない。
飛びトカゲ達は、魔物達が集まろうとしている場所へ向かう。
そこへ到着すると、魔物達同士で乱闘まで起こっていた。カオスだ……。
中心に、何かあるのは……ちょっと見えない。高度があるから遠くて。
「……やっぱり降りないと、よくわからないかもしれません」
フレイさんに言うと、うなずく。
「一時的に追い払うだけならできます。団長!」
フレイさんは団長様に呼びかけた。近くに移動してきた団長様に言う。
「ユラが降りないとわからないと。ブレスを!」
団長様がうなずいた。
そして飛びトカゲが一斉にその場から距離を取る。
「一体何を……」
「この手は連続で使えませんが、一時的にこの量の魔物でも追い払うことができます。ブレスが来たら、数秒だけ降ります」
とつぶやいたところで、団長様の乗る竜が炎のブレスを吐いた。
察しのいい魔物は、ブレスが来る前にその場から逃走した。他の魔物は、巻き込まれて怪我を負いながら離れ、小さな魔物はそのまま倒される。
フレイさんはそのただ中へ飛びトカゲを降ろした。
私を小脇に抱えて、飛び降り、死にかけた魔物を始末して中心部へ移動する。
「ユラさん、ここです」
お腹をきゅうきゅう絞められて苦悶していた私は、その言葉に我にかえった。
自分が立つ場所が中心。
すぐ足下に魔石らしいものがあった。赤黒い色をした、ガーネットみたいなこぶし大の石だ。
時間が無いからと、確かめるために指先でつついてみる。
ふっと魔力が吸い取られるような感覚があった。間違いなく、これに魔力が溜められている。
でもどうやって壊せば……。
「ユラさん、あと少しで限界です」
フレイさんに言われて周囲を見れば、遠くから逃げたはずの魔物が近よってくる。
この魔石があるからだろうか。魔石を壊しても同じ?
でも今、この石をどうにかしようとしたら不審がられてしまうだろう。
たぶんこの石に魔力を集めているものがある。
地面を見回す。
ぱっと見にはなにもなさそうだけれど、私はステータス画面を開いてみた。
そうして地面を画面上で叩いてみる。
《???》
何か出た!
てことは、この地面に魔法的な仕掛けをしているんだと思う。
魔力を注いだら……どうにかできないかな。
ほんの少しだけ、お茶に魔力を込めたみたいに、地面に手をついてやってみる。
一瞬、銀色に地面を線が走ったような気がした。
魔法陣みたいな感じだから、これを壊せばいい? そうしたらお茶を使わなくてもいいかもしれない。
「ユラさん、ここまでです」
フレイさんに問答無用で抱えられた。
私を抱えたまま飛びトカゲに乗ったフレイさんは、一気に空へ浮上させたのだけど。
「フレイ!」
団長様の声が聞こえた。
フレイさんが舌打ちしながら飛びトカゲをあやつって、急転回させる。
「ひええええっ!」
私は叫びながら、鞍にしがみつくしかない。
ある程度浮上したところで、フレイさんはその場に滞空することにしたようだ。
安定した飛びトカゲの上で、私はようやく周囲を見回すことができたのだけど。おかげでびっくり仰天する。
「え……これ」
森の枝が無数に伸びて、フレイさんの飛びトカゲを取り囲むようにして揺らめいている。
「ちっ、クー・シーが出て来た」
フレイさんはある一点を見ていた。
森の木々の間、木のように大きな犬がいた。
体は美しい新緑の緑。ボーダーコリーみたいなさらっとした毛並みに見える。
その背中からは草の蔓みたいなものが何本も伸びていて、周りの木々にからみついていた。
私はステータス画面をそっと出した。そうして画面の向こうの緑の犬を指先で触れるようにすると、名前が表示された。
クー・シー。
団長様達との話で出て来た、魔物の名前だ。
これは……どうするべきか。
「逃げられそうですか?」
フレイさんに聞いてみる。たぶんあのクー・シーが木を操っているんだと思う。あれを倒さないと逃げられないだろう。
「団長の竜のブレスが復活したら、可能ですが……。あと数分かかります」
ブレスのリキャストタイムがけっこう長いらしい。
何か打開策はないか。
そう思ったところで、ふいに風に乗ってやってきたゴブリン姿の精霊が、私の肩にべちっと当たって止まった。
その上で精霊が言う。
「すいっちおーん」
「スイッチ?」
魔物に使えるスイッチって何だ。魔法を撃つ選択するボタン?
いやいや他にもある。
もしかしてチャンネル? でもアルファベットのどれだ!?
「クー・シー……」
Cか!!




