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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第二部 騎士団の喫茶店

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フレイさんが拗ねまして

 人の素肌に触れること自体は、オルヴェ先生を手伝っていたので慣れている。

 怪我や病気をして療養していた騎士さんも清拭を手伝ったりしたり、メイア嬢も気を失っている時の着替えの時に、ヘルガさんと一緒に一度清拭しているし。


 フレイさんは、視線をそらしたまま終わるまで大人しくしていた。

 じっと黙っていると、よくできた石膏像みたいだ。

 だんだんと窓から入る日の光が赤味を帯びていって、その中にいるからかもしれない。

 肌の温かさを感じなかったら、錯覚したかも……と思ったところで、体温が手に触れていることが気恥ずかしくなる。


「これ、お部屋に戻るまで使ってください」


 シャツを差し出すと、フレイさんは小さく「ありがとう」と言って受け取る。

 着やすいように羽織っていた藍色の上着をぬがせると、さすがに私は視線をそらした。特に用事もないのに、人の背中とか見るのは恥ずかしい。

 シャツを羽織ったフレイさんが、上着を抱えてうろたえる私に、ぽつりと言う。


「……さっき、オルヴェ先生から聞きましたよ。明日、ユラさんを連れて今回の討伐現場に行くと」


「はい」


「たぶん団長は、この現象に精霊が関連していると思っているんでしょうね。そういうことが、続き過ぎた」


 ボタンを留めながら続けられた言葉に、そうか、と思う。

 団長は私が魔女だとわかったからだけじゃなく、精霊が問題を起こしている可能性があるからと思って、お茶のことを持ちだした……ということかな。

 いろんな手を試してみよう、というよりも納得できる。さすがフレイさん。


「オルヴェ先生が私に、ユラさんを自分が連れて行くのか、それともあなたの安全のために討伐の方を受け持つのかを、決めていいと言っていました。団長が、選ばせてくれると言っていたと」


 フレイさんがため息をつく。そして横に立っていた私の方を向いた。


「ユラさんは怖くないんですか? あなたはろくに身を守れない。それなのに危険な場所に行くことをどう思っているんですか?」


 フレイさんの目は真剣だった。


「あなたがもし少しでも怖いと思うのなら、行かなくても済むように団長に話すよ」


 私は目を見開いた。


「フレイさん、どうして……」


 そこまで私を守ってくれようとするのはなぜだろう。トラウマがあるからというだけなら、私から離れる選択肢だってあったはず。面倒をみていたら情が移ったから?

 フレイさんは、やや不愉快そうに顔をしかめた。


「どうしてだって? 君があまりにも自分のことを顧みないからだろう」


「そんなことは……」


「あるだろう? でなければダンジョンのことだって、団長達が怪我をしたかもしれないっていう状況で、精霊にさそわれるままついて来るわけがない。君ぐらい弱ければ、普通はそんなことをしない」


 反論は難しい。べんかいできないからだ。

 魔女としてのMPの高さとか、そういうものについて説明できないもの。


「君ぐらい弱ければ、討伐者として登録したって戦闘が起こる場所に行かなくてもいいはずだ。元々、その予定で登録しただろう? だから断っても問題はない。なのにどうしてなんですか、ユラさん」


「私……」


 私、疑問にも思わなかった。戦わないとか、そういう選択肢のことを。魔女になりたくないのなら、そんな方法もあるのに。

 ああでも、と思う。

 守らってもらえると感じているからじゃないのかな、と。


 団長様は守ってくれると言っていた。見捨てないと約束してくれた。飼うと決めたのなら責任を持つと。

 だから私は、守られている飼い犬みたいな気持ちで過ごしているんだと思う。

 団長様が行けというのだから、そうするのは当たり前。だけど飼い犬の私の安全のことも考えてくれていると信じている。だから怖くない。


 それに精霊達がいるからかもしれない。

 プレイヤー役として精霊が戦ってくれる。おかげでダンジョンでも何度か戦闘をしたのに、全く怪我をしなかった。

 でもそんなことを知らないフレイさんには、どうして私が何も考えずに危険な場所に行くのかわからなくて当然だ。

 そして話せない。こんな状況で、どうやってフレイさんに安心してもらえればいいのか。


「……フレイさん。私、たぶんみんなが守ってくれるって甘えているんです」


「甘えている?」


「団長様も、間違いなく守ってくれるって信じてますし。なので安心して行って大丈夫なんだって思ってしまってるんです。フレイさんも、戦闘になれば私のこと見捨てたりしませんよね?」


 そう言うと、フレイさんは顔を手で覆ってうつむいた。

 深いため息をついたフレイさんが、ものすごく困った声で言う。


「もし、見離すようなことがあったらどうするんだい? もっと優先するものがあったとしたら、ユラさんを守ってやれないかもしれない」


「フレイさんがむずかしければ、団長様が来てくれますから。おひとりで私のことに責任を感じなくても大丈夫ですよ」


 フレイさんは、私の安全について自分が責任を負うべきだと思っているんじゃないだろうか。そう思った。

 だから面倒をみている鶏みたいな人間一匹ぐらい、たまに他の人に任せてもいいじゃないかと、そんな風に言ったのだけど。


「……ユラさん」


 顔を上げたフレイさんが、私の腕を掴んだ。


「うひゃっ!?」


 そのまま引っ張られて、態勢を崩した私はフレイさんの上にすっ転びそうになったのだけど……。気づいたら、足の上に座らされていた。

 一体どういうことなのか。

 ぽかーんとした私にフレイさんが言った。


「正直、他人に任せるのも心配なんですよ。団長が確実に守ってくれるとわかっていても、です」


「はい……」


「だから明日は、団長には魔物を一掃するのをお願いしておきましょう。そしてあなたが勝手に地上に降りたりしないように、今度は固定するものを何か用意しましょう」


「こ、こていっ!?」


 鶏にも人間にも首輪は無理ですが、一体何を……?


「地上に降りたい時には、必ず私の判断を仰いでからにしてください。それを守れるのなら、連れて行きます。守れないなら、あらゆる方法で妨害します」


「妨害っ?」


 フレイさんが怖いこと言ってる!


「早く返事をしてください、ユラさん。どっちがいいんですか?」


 フレイさんの二択は、団長様が用意してくれたものとは違う。一緒に行くか、行くのを辞めさせられるかどっちかだ。


「その選択肢、ひどくありませんか?」


「ユラさんがそう言うのでしたら、明日連れて行った上で、私が飛び降りてみせましょうか」


「ひえええええ! やめてくださいいいい! わかりました、ちゃんと言いますから!」


 さすがに人が飛び降りるのを見るとか、怖い! 怖いけど自分が前にやったことだ! 反論できない!


「では、約束ですよ」


 私にうなずかせたフレイさんは、とてもいい笑顔で言った。

 その後私は急いでフレイさんから逃げて……一心不乱に、喫茶店の中でクッキーを作成した。

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