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私は騎士団のチートな紅茶師です!  作者: 奏多
第一部 紅茶師はじめました

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騎士団での生活がはじまりました

 こうして騎士団での生活が始まった。

 といっても、ぼんやり日々を送るのは居心地の悪い。

 二十歳を過ぎた特にいい身分でもない人間が、何もしないというのは体裁が悪すぎる。


 かといって、外へ働きに行くというのもおかしなもので。

 騎士団の人達と考えた末、お医者さんのお手伝いをすることになった。


 なにせ魔術の後遺症が、どうなるのかもわからない。お医者さんの近くにいるのが一番だろう。

 そうして紹介されたお医者さんとは、あの時団長様の後ろにいた赤髪の男性、オルヴェさんだった。


「騎士団の医師をやってるオルヴェだ。よろしくな」


 笑顔で手を差し出してくれるオルヴェさんを見て、この人の下なら、安心して仕事ができそうだなと私は思いながら、私オルヴェさんと握手した。


「さ、まずは君の住む場所と必要なものを揃えよう」


 そうしてオルヴェさんは、ヘルガさんと一緒に部屋から私を連れ出した。


「まず部屋だな部屋。俺の部屋の近くは、いくつか開いているんだが、どこがいいのか決めてもらって、そこを使わせようと思うんだ」


 そこで一緒に来てくれたヘルガさんに、オルヴェさんが空き部屋について尋ねた。


「三つ開いてはいますね、先生。でも部屋として使えそうなのは二つだけのような……」


 ヘルガさんは先生と呼んでいるようだ。お医者さんだからだろう。私も見習うことにした。


「そうだったか?」


 オルヴェ先生がヘルガさんに尋ねる。


「一つは、一年前に怪我人が増えた時に仮の病室にして、そのまま半分は物置状態になっていたはずです」


「あ……」


 オルヴェ先生が「あっちゃー」と言いそうな顔をした。


「だとしたら、南向きの部屋がいいのではありませんか? オルヴェ先生のお部屋のすぐ前ですし」


「そこでいいかい? ユラさん」


「お部屋をいただけるだけで十分です」


 謝るオルヴェ先生に答えた後は、二人と一緒に問題の部屋に移動した。


「さーここだ。寝台もあるし、すぐに暮らせるだろ」


 オルヴェ先生が扉を開けた部屋は、私が寝かせてもらっていた場所からそう遠くない、簡素な部屋だ。

 寝台が一つ。引き出しタイプの衣装棚が一つ、クローゼットみたいなものが一つ。

 あとは書き物をする簡素な机と椅子があるだけだ。

 前世で私が暮らしていたワンルームマンションより広い。南向きだという窓からは、明るい光が入って来ていた。


「いいお部屋をありがとうございます」とすぐにお礼を言う。



 その日と翌日は、家から運んで来た荷物を整理したりした。

 他にも騎士団のお城の中で、私が行動する場所をオルヴェ先生に案内してもらったのと、足りない生活必需品を買いそろえたりするのにかかってしまった。


 なにせ騎士団のお城だ。

 万が一のために、とある程度の物はいくらかあるけれど、基本的に女性の物など置いていない。そこで、ヘルガさんと一緒に町で買い物をした。


 城下町はお城のすぐ側なのだけど、この世界で暮らしていた町よりも大きい。

 人口も一万人近いんじゃないだろうか。

 お店も沢山あったので、とても楽しかった。


 三日目から、いよいよオルヴェ先生のお手伝いを始めた。


 私がやることは本当に簡単なものだ。

 怪我は回復魔法がある。軽い切り傷なんかは、仲間内で魔法をかけて治すので、あまり医者のお世話にはならない。


 オルヴェ先生の主な出番は、軽い回復魔法ではどうにもならないものが発生した時だ。

 重傷と、病気。

 まず重傷の方は、試合や魔物の討伐で度々発生するらしい。


 魔法やスキルがある世界なので、訓練時の怪我も、普通の剣での事故以上に酷いものになる。

 酷いけがをした人は、周囲の騎士が軽い回復魔法で応急処置をしてから運んでくるのだ。

 体の内部を直すには、オルヴェ先生のさらに強い魔法が必要になるので。


 また、病気は回復魔法ではどうしようもないので、薬で治療することになる。

 その看病のお手伝いをするのが、私だ。


 最初は熱がある患者さんの頭を濡らした布で冷やすような、細々した用事をしていた。

 慣れてきたら、お薬の用意も手伝うようになった。

 本格的な薬ではなく、補助になるようなハーブティーみたいなのを入れるだけなのだけど、楽しい。


 茶葉は、先生が用意してくれる。天秤と銀色の金属の分銅を使って、乾燥した葉の量を測っていた。

 理科の実験を思い出してしまった。

 カップにいれたお茶を、先生の部屋の隣にある病床で休んでいる騎士さんに持って行って飲ませるのが私の仕事だ。


 今日の最後の仕事も、お薬を持って行くことだった。


「それが終わったら上がっていいからな」


 オルヴェ先生に言われて、医務室を出て、隣の病室へとカップに入れたお茶を持って行く。


「お、ユラさんか。ありがとう」


 この一週間で、顔見知りの騎士さんも増えた。

 というか、初日から数日はオルヴェ先生の手伝いに新入りがきたからと、かわるがわる見に来たので、騎士さん達の方は私の顔と名前を覚えてくれたみたいだ。


 私の方は、一気に覚えられなくて誤魔化してます……。

 ただ珍しく風邪をひいて長く病床にいたこの騎士さんは、何度も名前を呼ぶので覚えることができた。


「もう明日には全快しそうですね、アントンさん」


 亜麻色の短髪をかきながら、アントンさんは苦笑いする。


「すっかり世話になったね。先生には、若い娘が看病しだしたら、みんな治りが遅くなったとか言われたけど、こんなに早く風邪が良くなったのは初めてだよ」


 そう言って、結婚適齢期ぎりぎりの私に笑ってくれる。優しい人だ。

 アントンさんは風邪で熱が引かなくて、仲間に半ば担がれてやってきた人だ。

 騎士さん達は鍛えている分、めったに風邪を引かないものらしく、お仲間にもとても心配されていた。


 私も、もうろうとしている初日のアントンさんの看病をしながら、とてもハラハラしたので、治ってくれて嬉しい。

 でもこの三日であっという間に良くなったのだ。


「ユラさんには感謝してるからね。何か困ったことがあったら、第五隊の俺を尋ねてきてくれていいからね……。あ、一人できちゃだめだ。オルヴェ先生に言って、呼び出してもらうんだよ?」


「はい、ありがとうございます」


 私は笑顔でお礼を言った。一人で騎士がうじゃうじゃいるところには行かないと思うけど。

 そして中身を飲んだカップを受け取って、部屋を出る。


 カップを洗ったりした後、着替えを持って私は一階へ降りた。

 ここはお城の居住棟の隣にある離れで、一階には洗濯場と、二階まで運べないような患者の処置室がある。

 夕暮れ近くのこの時間、ヘルガさん達がお洗濯の仕事を終えるまでの間に、私は洗濯場近くの浴室でお風呂を使うことになっていた。


 なにせ、今現在この騎士団で寝泊まりしている女というのが私だけなものだから、女性の目がある時間に……とヘルガさんと相談して決めたのだ。

 きれいさっぱりになった私は、通いで来ているヘルガさん達が帰るのを戸口で見送った。

 次に先生の分と一緒に、騎士団の厨房から届けてもらった食事をたいらげる。

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